長年片思いをしていて、一度はあきらめた女主人公に告白をして、晴れて恋人同士になったのだ。
浮かれるのも無理はない。
そんな浮かれている荒船を、女主人公の幼なじみである影浦と、荒船の弟子である村上は若干引いて目で見ていた。
「…おいポンコツ」
「誰がポンコツだ?」
「荒船…」
荒船はラウンジで影浦の勉強を見ていたが、先日の修学旅行での女主人公とのやり取りを思い出し、顔のにやけが止まらなくなる、の繰り返しだった。
「浮かれてんじゃねー!」
「浮かれるだろ!」
「まあ気持ちはわからなくもないが。それでも浮かれすぎだな」
「気を付けるけどな、とうぶんは無理だ」
「めんどくせー…」
影浦は、心底あきれた様子で荒船を見ている。
そこに、女主人公と水上がやって来た。
「そろっとんな」
「勉強してたの?」
「おう」
女主人公は荒船の横に座ると、水上は村上の座る向かいの席に座った。
「雅人くん、勉強は進んでる?」
「…ぼちぼちだな」
「一ページも進んでねえだろ」
「てめーのせいだろうが!ポンコツ!」
「ポンコツって、ひどい言われようやな」
「本当にね」
女主人公は買ってきたペットボトルの蓋を開けると一口飲む。
そのペットボトルを机に置くと、荒船が女主人公の飲んだペットボトルを飲もうとした。
「ちょ、ちょ、待てや」
「あ?」
女主人公の飲み物を飲もうとした荒船にストップをかける水上。
「それ苗字ちゃんのやろ?何ナチュラルに飲もうとしとんねん」
「別にいいだろ?」
「いやあかんやろ?カゲはええん?」
「は?俺は関係ねーだろ」
「付き合ってんだから別にいいだろ?」
「ホンマに?」
「うん」
「え、苗字ちゃんと荒船付き合うてるん?」
「そうなの。先月の修学旅行の時から」
「なんやそれを早う言ってや」
「んで、こいつが浮かれてんだよ」
影浦は荒船を指さしながらそう言った。
「めっちゃ伝わってくるわ」
「いいだろ」
「うっさいわボケ」
その日の夜、母親とご飯を食べていると、テーブルの上に見知らぬ紙袋が置いてあることに気づいた荒船。
「なんだそれ?」
「ん?これ?お母さんが忘年会でもらったのよ」
荒船の母親は紙袋を持ってくると、中を見せた。
「これ。クリスマスコフレなんだけど、お母さんにはちょっと若いブランドなのよね。色味も可愛すぎて使えなくて。でも、高い物だからもったいなくてね」
「ふーん」
「哲次、あなた彼女いないの?好きな子でもいいわよ」
「なんでだよ」
「高校生にはちょうどいいんじゃないかしらと思ったの」
荒船は母親から紙袋を受け取ると、少し考えた。
確かに、見た目は可愛らしく、女主人公にも合いそうだと思った。
「…もらっとく」
「え?本当?何、女装趣味にでも目覚めたの?せっかく男前に生んであげたのに」
「んなわけねーだろ!」
「そうよね。あなたは男前だけど、さすがに女装は似合わないわよね」
「あのなぁ…」
「それで、どうするの?」
「あげるんだよ」
「誰に?」
「彼女」
「…彼女!?哲次、彼女できたの!?」
「だからそう言ってんだろ」
「小、中ってあんなにモテてたのに誰とも付き合わなかった哲次に彼女!?」
「はいはい」
「哲次!」
「あ?」
「今度連れてきて!」
次の日、荒船はさっそく女主人公に母親からもらったクリスマスコフレを渡した。
「これは?」
「母さんが忘年会でもらったらしい」
「可愛い」
「やる」
「え?いいの?これってデパコスだから高いよね」
「おう。なんか年齢とか色味が使えないって言ってたから遠慮せずもらってくれ」
「ありがとう。荒船くんのお母さんにお礼を言っておいて」
「…あのさ」
女主人公がそう言うと、荒船は「直接言ってくんね?」と聞いた。
「え?」
「その話の流れで母さんに女主人公と付き合ってるってこと言ったら、会いたいって」
「なるほど」
荒船にそう言われ、少し考える女主人公。
「もらったお礼も言いたいし、荒船くんのお母さんがいいならぜひ」
「いいのか?」
「うん」
「じゃあ今度の週末な」
「楽しみにしてるね」
週末、今日は荒船の家に女主人公が来る日。
荒船は初めて女主人公が家に来るので、少しだけ緊張していたが、自分以上に母親が緊張していたので冷静になってきた。
「哲次の彼女なんて…一生会えないと思ってたわ」
「なんでだよ」
「だって、まったく女の子に興味なかったじゃない。どんな子なのかしら、楽しみね」
「もうすぐ着くって、ちょっと落ち着け」
女主人公から連絡が入り、携帯を確認すると「ちょっとそこのコンビニまで迎えに行ってくる」と言って、荒船は家を出た。
家の近くのコンビニに着くと、すでに女主人公がいた。
「荒船くん」
「おう」
「ごめんね。ここまでは来れたんだけど、迷いそうで」
「いいよ。つーか、もっと早く連絡してこいよ」
「大丈夫だよ」
荒船は女主人公の手を掴むと、「こっちだ」と言って歩き出した。
「ねえ、私大丈夫?」
「ん?」
「この洋服で問題なかったかな?顔も変じゃない?」
「メイクしてんのか?」
「うん。荒船くんのお母さんからもらったコフレ、早速使ったの」
荒船はまじまじと女主人公のことを見る。
「…そんな無言で見ないでよ」
「今日も綺麗だから問題ない。服もメイクも似合ってるぜ」
「ありがとう」
荒船の家について、扉を開ける。
「ただいまー」
「お…お邪魔します…」
荒船たちが帰って来た音に気付いた母親が、部屋の奥から現れた。
「いらっしゃい!」
「初めまして。苗字女主人公と申します。今日は、お招きいただきましてありがとうございます」
「まあー!可愛らしいお嬢さんだこと。ん…?あれ、あなたもしかしてかげうらの?」
「あ、はい。かげうらの隣に住んでいます」
「あらあらまあまあ」
「こんなところで話してんなよ。中入るぞ」
「そうよね!玄関じゃ寒いわよね。中に入ってー!」
「ありがとうございます」
リビングに通されると、女主人公は手土産を渡す。
「これ、もしよろしければ皆さんで食べてください」
「あらーありがとう!気を遣わなくて良かったのに」
「いえ。あのコフレ、とても可愛くて嬉しかったので。ありがとうございました」
「思っていた通り、似合うわねー!」
荒船と女主人公はリビングのソファーに座ると、母親は一度キッチンに向かった。
「大丈夫か?」
「うん。気さくなお母さんだね」
「俺に彼女ができたからテンション上がってんだよ」
「可愛いお母さんだね」
キッチンから戻って来た母親は、ケーキと紅茶の載ったトレーを持っていた。
「俺がやるって」
「いいから座ってなさい。はい、食べられるかしら?」
「大丈夫です。ありがとうございます」
女主人公はケーキを受け取ると、お礼を言った。
「それにしても、かげうらさんのとこで見かけた女主人公ちゃんが哲次の彼女とはねー」
「高校もクラスが一緒で、席も隣同士なんです。ボーダーも一緒なので、かげうら以外でも縁がありまして」
「そうなの?哲次ったら、そういう話全然してくれないから初めて知ったのよ!」
「いちいち言わないだろ」
「恥ずかしがり屋なの。女主人公ちゃん、哲次のことよろしくね」
「はい」
三人でケーキを食べながら話をしていると、母親の携帯が鳴った。
「ごめんなさい!仕事で呼ばれちゃったー!もう少しお話してたかったのに」
「仕事なら仕方ないだろ」
「ごめんねー!」
「いいえ、気を付けて行ってきてくださいね」
「ありがとう。ゆっくりして行ってね!また遊びに来てね!」
「はい」
「お父さん、今日泊りの仕事って言ってたから、哲次も戸締りしっかりしなさいね」
「わかってるよ」
「じゃあ行ってきます!」
二人で母親を見送った後、「俺の部屋行くか?」と荒船が聞く。
「うん。荒船くんの部屋がどんな感じか気になる」
「普通の部屋だぞ?」
「映画好きだから、音響とかこだわってそう」
「そうでもないけどな」
荒船の部屋は、シンプルだが二人掛けのソファーや少し大きめのテレビなどが置いてあり、映画鑑賞のしやすい環境になっていた。
「すごいね。なんか、想像通り」
「そうかよ」
「やっぱり…個性が出るわよね」
「…カゲの部屋とは全然ちげーだろ?」
「…名前出さなかったのに」
「別に無理すんなよ。今まで通り、思ったことは普通に言ってくれ」
「…ありがとう」
荒船は「せっかくだからなんか観るか」と言って、テレビをつける。
「荒船くんのおすすめが観たいな」
「まかせろ」
そう言って選んだのは、クリスマスシーズンにピッタリの洋画。
ソファーに座って映画を観ていると、時折触れ合うお互いの肩に、少し緊張する荒船だった。
「…」
「…」
「…荒船くん…」
「ん?」
「…ソワソワしすぎ…」
「悪い…けど、好きな女と二人でいて、緊張しねえ男はいないだろ」
「…そうだね。私だって、緊張してるし」
「…そうなのか?」
「私のこと、なんだと思ってるのよ…」
「女主人公…」
荒船は、女主人公の肩に手を置くとそのまま顔を近づけて軽く口づけをする。
「ふふ、顔赤いよ」
「うっせーな」
「好きだよ、荒船くん」
「…俺もだ」
そう言うと、荒船はもう一度女主人公の唇に優しく触れた。