堤がシャワーを浴びている間、仕事部屋では村上、蔵内、そして女主人公の18歳トリオが話をしていた。
「今日の水上9番隊、すごかったね」
「連携に無駄がなかったな」
「それなのに課題の方でも点数を取ってるってことは、何かあるのか?」
「うーん…」
女主人公は水上と出会った時の会話を思い出していた。
「そういえば、水上くんって将棋が趣味だったよね?」
「そんな話してたな」
「王子くんと将棋をしているところを見たことあるけど、趣味ってレベルじゃないくらい強かったと思う」
「そうなのか?」
「うん。あの王子くんがすぐに負けちゃってた」
以前、生駒隊で王子と一緒に水上が将棋をしていたとこを見たことがある女主人公は、その時のことを思い出した。
「将棋のルールは知ってる程度の素人だけど、そんな私から見てもすごいなって思ったよ」
「その、将棋と今回の試験と何か関係があるのか?」
「…なんとなくだけど、水上くん一人で戦闘シミュやってるんじゃないかなって思ったの」
「一人で?」
「うん」
女主人公は戦闘シミュでの違和感を伝えた。
「9体のユニットを動かす分、考える時間は他の人よりも減るとは思うけど、水上くんの将棋の経験と普段の頭の回転の早さを考えると、できるのかなって」
「…たしかにな」
「なるほどな。それなら味方とタイミングを合わせる必要がないから、連携もしやすいな」
「それに、他の人たちが別の課題を進められるよね」
「だからこのスコアか」
水上も蔵内も、女主人公の説明で納得したようだ。
「ただ、同じレベルのことをオレたちがやるのは難しいな」
「そうだね。一人で戦闘シミュをやるって、そもそも難しいよね」
「配点の感じ、明日はユニットの数が増えそうだしな」
「オレたちは正攻法でやろう」
「だね」
「ユニットの数が増えた場合、女主人公は一人で大丈夫か?」
「増える数にもよるかな…」
「それは明日考えるか」
「うん」
閉鎖環境試験の2日目が終了し、3日目が始まった。
防衛任務終わりの片桐隊がA級のモニタールームやって来た。
「ほぃーす」
「うぃーす」
「おつかれ」
「おつかれさーん」
一条、米屋、片桐、出水があいさつをする。
「防衛任務から直行か?」
「いやーもうハードよ」
「昨日なんかおもしろいことあった?」
「あったあった」
「水上9番隊とかな。村上10番隊のハプニングも太刀川さんたちがうらやましがってたな」
「槍バカやめろ!」
片桐と一条は、昨日の録画を見返し始めた。
「村上10番隊のハプニングってなんだ?」
「あそこってハプニング起こるのか?」
『いい匂いだな…』
『でしょ。焼きたてのパンだから、きっと美味しいよ』
『危ない!』
『…!!』
『いたたた…』
『悪い!』
『どうした!?』
『大丈夫か?』
『苗字先輩!大丈夫ですか!?』
「あーこれか。村上先輩が苗字先輩を押し倒した!」
「押し倒したわけじゃないだろ」
片桐は画面を見ながらそう言った。
「これに対して太刀川さんたちのコメントが…」
−1太刀川”ラッキースケベ、うらやましいからそこをどけ”
−1当真”これ狙ってやってたら殺されるぞ”
+2小南”あんたたち真面目に採点しなさい!!”
「小南先輩の点数でプラマイゼロになった!」
「これ、上層部も見てるってこと忘れてないか…?」
片桐は太刀川たちのコメントを見て苦笑いをした。
「で、水上9番隊は…ありゃー、水上先輩、隠してたやつがバレそうになったのか」
「まあ不自然なほど点取ってるからな」
「んで、この件に対するA級評価は…なるほど、険悪になるのはダメって人が割といるわけね」
一条は、A級隊員の評価を見ながらそう言った。
「雪丸の考えは?」
「ニコニコ仲良く最下位争いよりは、ギスギスしててもトップ争いのほうがいいな。順位悪いと、どうせそのうちギスギスするし」
「ギスギスせずにトップ争いもするってパターンは?」
「いやー、急造チームにそれは高望みっしょ」
そんな話をしている横で、加古隊も同じように録画を見ていた。
「水上9番隊がここまで圧倒的だと”何かやってる”って気づくチームも出てきそうですね」
「ん〜そうね。女主人公ちゃんも、隠岐くんも、六田ちゃんもなんとなく気づいたものね。昨日の特別課題で”人員を分けた”っていうのも気づくきっかけになりそう」
「じゃあ今日は、水上隊と同じようなスタイルをとるチームも出てくる…?」
「わたしもそう思ったけど…そう簡単な話でもなさそうだわ。蔵内くんや菊地原くんが言ってた通りになりそうね」
***
「今日も始めるか」
「だね」
9時になり、村上隊はパソコンの電源を入れる。
戦闘シミュのユニットフォルダを開くと、昨日よりもユニットの数が増えていた。
「やっぱりな」
「増えたねー」
「まあ、まだ9体から12体で、ヘルプユニットも2体に増えただけだからな」
「ユニットが3体ずつってことは…特別課題が来た時に、苗字先輩が6体動かすことになっちゃうのか」
「なんとか動かせなくはないとは思うけど…」
「どっちにしろ明日はきつくなりそうだな」
「じゃあ、俺の駒はみんなに分けて使ってもらうか」
「そうだな。オレと堤さんも蔵内の駒を使おう。それ以外は予定通りで」
「了解」
戦闘シミュの方向性が決まったので、共通課題を進める村上隊のメンバー。
そして15時になり、戦闘シミュが始まる。
ユニットが増加したことによって、勝利条件が”3体以上”の差がついた部隊の勝利に変更されていた。
「3体以上、3体未満だと引き分けか」
「引き分けの試合が増えそうだね」
「みんな、操作にも慣れてきたころだろうしな」
「今日の目標は、最低でも昨日と同じ勝利数で、できれば上位のチームから勝ち星が欲しい」
「だね」
「オレたちのスタイルを変えずに刺さる戦術を見つけたいから、協力してくれ」
「了解」
村上隊は昨日までの戦略をブラッシュアップする方向で動いている。
正攻法の攻めになるので、勝てるチームには勝てるが、予想外の動きをしてくるチームには負けたり引き分けという結果になっていた。
そして、6試合目が終わった後、上から”特別課題”が届いた。
「今日もこのタイミングで”特別課題”が来たぞ」
「わかった。そしたら苗字たちに俺の駒は任せた」
「うん。蔵内くんよろしくね」
特別課題は蔵内が引き受け、蔵内の駒は村上、女主人公、堤の3人が一体ずつ引き受けた。
そして、残りの試合も終わり、3日目の仕事時間が終了。
「戦闘シミュの順位は5位だな」
「昨日と同じか」
「後1勝が難しいですね」
氷見が少しだけ悔しそうな顔をした。
「個人成績は全体的に上がってきてる」
「本当だ。蔵内くんの特別課題、85点だよ」
「氷見のアイデアがうまくいったな」
「うむ」
「昨日よりも操作に慣れてきたから、もう少し戦闘シミュは勝ちたかったな」
「負けが減っただけでもかなり前進してるよ」
「二宮さんのとこと引き分けてるから、他所にも感謝されてると思う」
「問題なのは明日…上の2チームと二宮8番隊にどう勝つかだな…」
暫定順位は村上隊は3位。
1位の水上隊と2位の古寺隊、そして4位の二宮隊に勝たなければ、村上隊の1位はない。
「水上隊の圧倒的な点数って、本当すごいよね」
「差はあるけど、まだあきらめてないぞ」
「もちろん。私も追いつけるって信じてるよ」