「女主人公はさみしくないのか?」
「雅人くんと会えなくて?」
「ああ」
「そりゃあねー。3日以上会えないってことが、生まれて初めてだから明日からはちょっとドキドキ」
「未知の体験か」
「それはそれですごいですよね」
「さすが、幼なじみだな」
女主人公は、影浦のことを心配していた。
「それよりも、雅人くんがちゃんとチームでうまくやってるかが心配」
「犬飼いるしな」
「影浦は犬飼が苦手なのか?」
「そうなんですよ…今回の試験で少しでも仲が良くなればいいんですけど…」
「そうだな」
そんな話しをしていると、女主人公の携帯が鳴った。
「(水上くん…?)」
女主人公は携帯に表示された名前を確認した。
「ごめん、ちょっと電話に出てくるね」
「ああ」
女主人公は個室に入ると、電話に出た。
「もしもし?」
『…あー…もしもし?』
「水上くん?どうしたの?」
『今大丈夫やった?』
「大丈夫だよ。水上くんが電話してくるって、なんだか珍しいね」
『せやな。どうや、村上隊も結構順調やな?』
「そうだね。みんなで協力して頑張ってるよ。水上くんたちは、圧倒的1位でさすがだね」
『…せやな』
「…?どうしたの?何かあった?」
『…お願いがあんねんけど…理由とか…なんも聞かずにかるーく俺に喝入れてくれへん?』
水上がこんなことをお願いしてくるのは珍しい、と女主人公は思った。
それだけ、隊長という立場にプレッシャーを感じているのかもしれないと、水上の声色から推測して、女主人公は水上を励ました。
「…水上くんならきっと大丈夫。照屋ちゃんと樫尾くんに、かっこいい水上隊長を見せてあげて。頑張れ水上敏志!」
『…ホンマ…苗字ちゃんにはかなわんなぁ』
「声聞けばわかります」
『敵に塩を送ってええんか?』
「あら、私たちもまだまだ全然あきらめてないからね」
『楽しみにしとるわ』
「うん」
『ありがとうな』
「どうしたしまして」
そう言って、女主人公は電話を切る。
「…元のチーム同士じゃなければ電話は大丈夫なんだよね」
女主人公は端末の”か行”を見る。
「…私専用の端末だから、雅人くんの名前はないのよね」
ポツリとこぼれた独り言には、少し寂しさが含まれていた。
***
A級モニタールーム。
「あれ、そういえば苗字先輩って影浦先輩と付き合ってるんだっけ?」
村上隊の会話を聞きながら、一条が片桐に聞く。
「そうだって聞いたな」
「意外だったなー。高校では荒船さんと苗字先輩が付き合ってるって噂があったから」
「荒船さんに聞いたけど、苗字先輩とは付き合ってるんじゃなくて、ボディーガードしてるって話だったよ」
「え、そうなの?」
「影浦先輩に頼まれたって言ってたな」
「なにそれ、おもしろ!」
片桐の言葉に一条は笑う。
「まあ、たしかに苗字先輩綺麗だもんなー」
「あんたたち…好き勝手言ってるわね」
そんな話を、結束たちも隣の席で聞いていた。
「あれ?苗字先輩に電話」
「誰からだ」
画面を見ていると、女主人公が個室に移動して電話を取り、出てきた名前は水上だった。
「水上先輩?」
「さっき、水上くんがお風呂場に行ってたけど、そこで電話してるってことね?」
「聞かれたくないってことですね」
水上隊の様子を見ていた加古隊がそう言った。
「お風呂場はさすがにカメラ入ってないもんな」
女主人公の声しか聞こえないが、どうやら水上を励ましているようだ。
「…苗字先輩って、18歳組のお母さんなのかな?」
「頼りたくなる気持ちは、わからないでもないけどな」
「水上先輩も結構プレッシャー感じてんのかな」
「女主人公ちゃんの包容力よね」
「プラスしておこ」
そう言うと、一条たちは女主人公の評価にプラスを入れた。
+1一条”敵チームなのにメンタルサポートしててすごい!お母さん!”
+1片桐”相手を鼓舞しながら自分のやる気も出しててさすがです”
+1加古”女主人公ちゃんには頼りたくなる雰囲気があるわね”
そして、電話を切った後の女主人公のさみしそうな姿を見て「苗字先輩めっちゃ影浦先輩のこと好きじゃん!」と言った。
「本当にね。愛されてるわね、影浦くん」
閉鎖環境試験4日目が始まった。
まずはいつも通り、共通課題をやりながら戦闘シミュの前に今日の作戦を決める村上隊。
「今日は、なんとか4勝を目指したいな」
「そうだね」
「もう少し攻めつつ、守りを軸にしていく形はそのままでいこう」
「了解」
そして諏訪7番隊との第3試合。
「え…」
「…この感じは…」
諏訪7番隊は、昨日までの動きと違い、連携がスムーズだった。
9体差で村上隊の負け。
「水上隊にやられた時と似てるな」
「…私もそう思った」
「昨日と比べて連携が正確すぎるな」
「”練習したらできました”ってレベルじゃないよね」
蔵内や氷見も同意見だった。
「じゃあ…諏訪さんが水上隊と同じような方法を取ったってことかな?」
「いや…こういうのは諏訪さんよりメガネくんの領分な気がするな」
「メガネ…三雲ですか?」
「うん。ただの勘だけど」
「水上隊と諏訪隊がその…同じ或いはそれぞれ違った”特別な攻略法”を使ってるとして…問題はうちもその”特別な攻略法”を探すべきか?ってとこなんだけど」
「…昨日までの水上隊は水上くんが一人でユニットを動かしてたからできた連携だと思うけど…。今日はユニットの数が増えすぎて一人じゃできないから、みんながそれぞれのユニット混ぜて操作してるのかな?」
「混合チームを作って、それぞれが動かしてるってことですね」
「多分それはうちには真似できないだろうな」
「だね。みんなのユニットを混ぜて最適な動きをするの、難しい気がする。今の時点で手一杯だし…」
「練習もなしで、時間的にも厳しそうだな」
「うちは今まで通り、準備したもので今日も戦おう」
「了解」
諏訪隊がポジションのバラバラなユニットを混ぜてもうまく操作できるのは、諏訪隊のメンバー5人のうち3人が、元のチームの隊長だからだ。
諏訪、香取、三雲は隊長経験者ということもあり、どう動かせば一番良いのか、全体を俯瞰して見ることができる。
だからこその戦術なので、隊長経験者が誰もいない村上隊が同じようなことをするのは難しい。
だからこそのこの判断だ。
そして、今日の全試合が終わり、村上隊は3勝5敗2引き分けという成績で終わった。
***
4日目戦闘シミュレーション演習後の運営本部デスク。
「…これで本日の戦闘シミュが終了しました。早速結果を見ていきましょう」
「了解〜」
「1位を獲ったのは…6勝3敗1引き分けで1240点を取った諏訪7番隊です」
根付がそう言うと、「ここまで勝つとは想像以上だな」と忍田が言った。
「配点が大きい3日目にしっかり照準を合わせた諏訪さんの指示がハマった感じだね」
「三雲隊員の分析とアイデアも、評価に値するだろう」
三雲のことを評価すると城戸が言ったため、忍田は少し驚いた。
「続いて2位は、北添4番隊。5勝2敗3引き分けで1120点」
「昨日まで散らしていた砲撃を、今日だけ集中して落とすことで相手の対策の裏をかくことに成功しています」
北添隊は、今までやっていたことを少し変えただけなので、戦闘シミュの準備に時間をかけず、その分他の課題に時間を回すことに成功していた。
「3位は同率で、歌川1番隊と古寺6番隊。4勝1敗5引き分けで1000点です」
「どちらも諏訪隊と組んだチームか」
「1敗しかしてないのがすごいな」
「自分のチーム以外の力を利用したという点で、戦略性の高さが評価できるな」
諏訪隊と組んで、戦闘が始まった最初のターンに全力を注いだのが結果につながった。
「続いては僅差で王子2番隊。4勝2敗2引き分け960点で、5位です」
「このチームもなんというか、独特な作戦で成績を上げています」
王子隊は、動かすユニットと人を変えていた。
生駒に帯島のユニットを動かさせ、帯島に王子のユニットを動かさせ、王子が帯島のユニットを動かした。
「考え方は北添隊に近いな。動きを対策させておいて、最終日だけ変化をつける」
「小難しいこと考えなくても、自動的に裏をかく感じになってるのがおもしろいね」
「生駒に戦術を諭すよりは効果的じゃろうな」
鬼怒田がそう言うと、根付は「さて、ここからは負け越したグループ」と、続きを話し始めた。
「6位が来馬5番隊、4勝5敗1引き分け。7位柿崎3番隊、3勝4敗3引き分け。そして8位が村上10番隊。3勝5敗2引き分け」
「実直ゆえに奇策の煽りを食ったチームじゃのう」
「それでも3勝以上はできているのか」
「もう1日あったら奇策にも対応できたかもね」
「たしかに村上隊などは回数を重ねるほど強くなりそうですが…」
「今回は3日で一区切りのルールだからのう」
「そして…水上9番隊の成績は10位。2勝7敗1引き分け440点。水上隊長が予告した通りの結果です」
そして、二宮8番隊は9位、最下位は若村11番隊だった。