これは一大事だ!
おれは急いで荒船くんに連絡して、二人の後をつけようと提案したけど、荒船くんに「そんな悪趣味なことやめろ」と怒られてしまった。
だって!心配なんだもん!
クリスマス当日、女主人公は朝早くに起きて、いつもより時間をかけて準備をしていた。
「すみくん、この服とこっち、どっちがいいと思う?」
そう言って見せてきたのは、ワンピースだった。
「ど…どっちもかわいいに決まってるじゃん!」
「なんで怒ってるの?」
「こんなかわいかったら、水上くんも女主人公のこと好きになっちゃうじゃん!」
「好きになってもらいたいからいいじゃん」
「そうだけど!そうじゃないの!!」
おれの部屋で騒いでいると、明理ちゃんが部屋にやって来た。
「ちょっと澄晴、あんたうるさい」
「明理ちゃん!どうしよう!女主人公に彼氏ができちゃう!」
「女主人公、好きな人いるの?」
「うん!」
「今度は誰?声優?」
「違うよー!クラスは違うけど同級生!ボーダーも一緒なの!」
「…え、本当に?」
女主人公の言葉に驚いた明理ちゃんが、おれに聞く。
「そうなの。今回は、本当にちゃんと好きな人みたいなんだよね」
「そっかそっか!そしたらお姉ちゃんがメイクしてあげるね!」
「わーい!明理ちゃんありがとう!」
「ちょ!!明理ちゃん、これ以上女主人公をかわいくしてどうするの!」
「澄晴、あんたは女主人公離れしなさい」
明理ちゃんはそう言うと、女主人公を連れておれの部屋を出た。
「もー!!」
明理ちゃんにメイクをしてもらって、髪の毛もアレンジしてもらって、ニットのワンピースを着た女主人公は本当にかわいかった。
いつもかわいいけど、いつも以上にかわいい。
水上くんのために頑張ったと思うと、なんとなく釈然としない。
「女主人公…本当にそんなかわいい恰好で行くの?」
「…すみくんしつこい…」
「それ以上言うと女主人公に嫌われるわよ」
「嫌われないよ!女主人公がおれのこと嫌うわけないでしょ!」
「嫌わないけどめんどくさい」
「女主人公…!?」
おれは女主人公のことを抱きしめる。
「なるべく早く帰ってきてね!みんなでクリスマスやるんだから!」
「はいはい。すみくんも彼女作ればいいのに」
「おれはいいの!とにかく!今日は絶対早く帰ってくること!」
「わかりました!じゃあもう行くね」
「楽しんでおいで」
「明理ちゃんありがとう!すみくんも、行ってきます」
「…いってらっしゃい…」
そう言って女主人公は家を出た。
女主人公が、今日一日を楽しく過ごせますように。
女主人公は水上と駅で待ち合わせをしていた。
「少し早かったかな?」
携帯で時間を確認すると、ちょうど水上から電話がかかってきた。
『犬飼ちゃん?』
「水上くん、おはよう」
『おう。今駅着いたんやけど、どの辺におる?』
「犬の銅像の前にいるよ」
『そっち行くわ』
「待ってます」
そう言って、女主人公は電話を切る。
すぐに来るだろうと思い、携帯をしまうと後ろから肩を叩かれた。
「水上くん?」
「お!ラッキー!めっちゃかわいいじゃん」
「かーのじょ?暇してる?」
そこには知らない二人組の男がいた。
「暇してないです。待ち合わせです」
「待ち合わせ?友達?」
「そうですけど」
「なら友達も含めて4人で遊ぼうよ」
「…?男の子ですけど」
「彼氏かよ」
「彼氏より俺たちと遊んだほうが楽しいよ?」
「彼氏じゃないですけど、彼と遊んだほうが楽しいので大丈夫です」
そう言って断るも、男たちは引かない。
「いいからいいから、一緒に行こうよ」
そのうちの一人が女主人公の腕を掴む。
「放してください!」
男たちは体格が良く、小柄な女主人公はそのまま引きずられてしまいそうになる。
女主人公は無意識に、ポケットに入っているトリガーに手を触れる。
「やめえや」
「水上くん!」
そこに、水上が現れた。
水上は、女主人公の腕を掴んでいる男の腕を掴む。
「手、離してくれへん?」
「あ?」
「なんだおまえ」
「この子の連れや。ええ加減にせんと警察呼ぶで?」
水上はすぐ近くにある交番を指さす。
「チッ!萎えた」
「さっさと行こうぜ」
そう言った二人組はその場を去って行った。
「犬飼ちゃん、すまん!」
「水上くん助けてくれてありがとう!」
「もっと早う来るべきやったわ。少し迷ってしまったわ…すまん」
「大丈夫だよ。いざとなったらトリガーオンするから!」
「そうなる前に間に合って良かったわ」
水上は、「お詫びに奢ったるから、何食べたいか考えといてや」と女主人公に言う。
「ありがとう。でも今日は水上くんのお祝いも兼ねてるから、わたしが奢りたいのに」
「そんなに気にせんでええって言うたやろ」
二人はイルミネーションが点灯するまで、街を歩くことにした。
「今日なんか顔ちゃうな」
「わかる?明理ちゃん、ってわたしのお姉ちゃんなんだけど、明理ちゃんにメイクしてもらったんだ!」
そう言うと、女主人公は自分の顔を水上に向ける。
「どうかな?」
「あー…まあええんちゃう?」
「本当?」
「犬飼ちゃんは別にメイクせんでもええやろ」
「えー」
「…まあ、でもかわええな」
「!」
水上のストレートな褒め言葉に、女主人公は顔を赤くする。
「俺のためにお洒落してきてくれたんやろ?」
「そ…そうだけど!そんなハッキリ言われると恥ずかしい…」
女主人公は赤くなった顔を隠すようにそっぽを向いた。
「前見て歩かんと危ないで」
「前は見えてるんで大丈夫です!」
「なんで敬語やねん」
水上が笑うと、女主人公はますます顔を赤くした。
「水上くんって…モテるよね」
「モテるわけないやろ」
女主人公の言葉に、水上は顔をしかめる。
「だって、頭もいいしさらっと褒め言葉言ってくれるし、何よりかっこいいし」
「…そう言うんは犬飼ちゃんだけやで。レアやレア」
「えー…水上くんのこと知ったらみんなそう思うと思うのになー」
「アホやん」
今度は水上が女主人公の言葉に照れるが、顔には出ないので女主人公は気づかない。
「そんなんええねん。寒いからどっか入ろうか?」
「あ!そしたらわたし、観たい映画があるんだけどいい?」
「内容によるな」
女主人公が選んだのは恋愛映画だった。
普段の水上であれば絶対に観ないようなジャンルだが、女主人公が「これ!ずっと気になってて、どうしても水上くんと観たかったの!」とキラキラした目で訴えるので、さすがの水上も断ることができなかった。
内容は王道で、主人公の男の子と幼少期に離れ離れになった女の子が、大人になってから再会して愛を育んでいく物語だった。
「すごい、素敵な話だったね!」
映画が終わった後、女主人公の第一声はこれだった。
「そ…そうやな」
「大人になってから再会して、幸せになれて良かったよー!再会したシーンが素敵すぎて泣いちゃった」
「泣いとったなぁ」
女主人公は満足した顔をしていた。
「わたしばっかり楽しんでごめんね。水上くんは何したいとかある?」
「犬飼ちゃん見てるだけでもおもろかったからええよ」
「わたし面白かった?」
「表情がコロコロ変わっておもろかった」
「わー、恥ずかしい」
映画館を出ると、いい感じに暗くなってきていた。
「そしたら夕飯食べて、その後イルミネーション観に行こう!」
「せやな。混んどるやろな思うて近くのイタリアン予約したんやけど、イタリアンでええ?」
「予約してくれたの?ありがとう!イタリアン大好き!」
「なら良かったわ」
そう。
水上は、事前に隠岐に相談していたのだ。
クリスマス当日は絶対混むから、お店の予約は必須だと言われたので、事前に予約をしていた。
「勝手に決めてしもうてすまんかったな」
「ううん!むしろごめんね。予約しなきゃとか、全然気にしてなかったよ」
「こういうのは男に任せといたらええねん」
「ありがとう!」
二人はご飯を食べ、一番の目的であるイルミネーションの点灯している広場に向かった。
「人が増えてきたねー」
「せやな」
やはり人気のイルミネーションということで、カップルや家族連れなど、人が多い。
「犬飼ちゃん」
「ん?」
「ほい」
そう言って水上は自分の左でを女主人公に出す。
「?」
女主人公は首をかしげる。
「手」
「手?」
「…」
水上は、女主人公の右手を握ると、そのまま歩き出した。
「!!」
「はぐれたら嫌やろ」
「う、うん!」
そう言うと、女主人公は右手に少しだけ力を入れた。
二人がイルミネーションの目玉である、大きなクリスマスツリーの前に着くと、周りの人たちは写真を撮っていた。
「ねえねえ、水上くんと写真撮りたいな」
「ええよ」
「わーい!ありがとう!」
そう言うと、女主人公は携帯を取り出した。
そして、繋いでいる手を自分の方に引き寄せて、水上と密着した。
「水上くん、少しかがんで」
「了解」
インカメラにして写真を撮る。
「どうかな?」
「ええんちゃう」
撮れた写真を確認すると、女主人公は嬉しそうな顔をした。
「綺麗に撮れてるね!あとで水上くんにも送るね!」
「おう」
「待ち受けにしてもいい?」
「それはあかんやろ」
「えー…」
悲しそうな顔をする女主人公を無視して、水上は「そろそろ帰らんと犬飼に怒られるで」と言った。
「はーい」
時刻はそろそろ20時になろうとしていたので、二人で電車に乗って帰ることに。
女主人公を犬飼家まで送り届けると、「今日はありがとう!送ってもらっちゃってごめんね」と女主人公が言う。
「ええよ。何かあったら嫌やしな」
「とっても楽しかったよ」
「さよか」
「また、一緒に遊んでくれる?」
「…まあ考えとくわ」
「うん!水上くんも、気を付けて帰ってね」
「また明日、学校でやな」
「またね!」