13

「鳩原ちゃんがボーダー辞めちゃったんだ」
「え?そうなの?」

犬飼家双子の兄妹の誕生日の次の日、二宮隊のスナイパーだった鳩原未来がネイバーフッドに失踪。
このことは、上層部と二宮隊、そして鳩原未来の後を追った風間隊など、一部の人間にしか知らされていないので、犬飼も女主人公には伝えず、ただ単純にボーダーを辞めたと伝えた。

「それでね、学校も転校したんだって」
「え!?そんな急に…」
「…しょうがないよね。鳩原ちゃんが自分で考えて、出した答えがそれだったんだから」
「…そっか…。すみくんは大丈夫?」
「おれ?おれは全然…だけど二宮さんはちょっと落ち込んでるみたいだから、もしボーダーで会ったらそっとしておいてあげてね」
「うん…」

犬飼の様子がすこしおかしいと気づいた女主人公であったが、犬飼が何も言わないモードに入っていることを察して、これ以上聞くのはやめた。

「また、会えるといいね」
「…そうだね」







次の日、ボーダーに行くと二宮隊がB級に降格になったという知らせが出ていた。

「え…?」

女主人公はそれを見ると、急いで二宮隊の作戦室に向かう。

コンコンッ

二宮隊の作戦室の扉を叩いても誰も出てこない。

「あれ、女主人公?」
「すみくん!」

と、ちょうどエレベーターから降りて来た犬飼と辻、氷見を見つけると女主人公は犬飼に駆け寄った。

「ねえ!どういうこと!?B級に降格って…未来ちゃんが規定違反って…」
「女主人公、ちょっと落ち着いて」

犬飼は、女主人公の肩に手を置いてそう言った。

「すみくん、昨日はただ転校しただけだって…」
「あれは、おれもあの時はそう聞いてたからね。さっき、上層部に呼ばれて詳しい話を聞いてたんだ」
「未来ちゃん、どうしたの?大丈夫なの?」
「大丈夫だよ…」
「でも、せっかくA級になれて、もう少しで遠征にも行けそうだったのに…急にどうして?何があったの?」
「女主人公」

犬飼に名前を呼ばれて、口を閉じる女主人公。

「…これはね、二宮隊の問題だから女主人公には関係ないよ」
「…!」

犬飼がそう言うと、女主人公は泣きそうになりながら「ご…ごめん…!」と言って走り去っていった。

「…犬飼先輩、なにもそんな言い方しなくても…」
「…いいんだよ」

犬飼は辻を見て「だって、女主人公が本当のこと知ったら、きっと隠しておくことなんてできないでしょ」と言った。

「…まぁ…そうですね」
「本当のことを知って、万が一記憶封印措置にでもなったりしたら、ボーダーのことはそうだけど、水上くんのことだって忘れちゃうじゃん。そんなの絶対ダメだからね」
「…犬飼先輩、優しさがわかりにくいです」
「わかりやすい優しさだけが愛じゃないからね」

そう言うと、犬飼は携帯を取り出し「こういう時は、水上くんの出番だね」と言いながら、水上にメッセージを入れた。





女主人公は、屋上で1人で泣いていた。
まさか犬飼に、”関係ない”と言われるとは思っていなかった。
初めて言われる犬飼からの拒絶の言葉に、女主人公はとてもショックを受けていた。

「何、1人で泣いとんねん」
「み…水上くん…」

女主人公が顔を上げると、そこには息を切らした水上が立っていた。

「なんで…?」
「犬飼から連絡もらってん…女主人公が泣いとるからって」
「…そっか…」

水上は女主人公が座っている横に座ると「どないしたん?」と聞いた。

「…すみくんに…関係ないって言われた…」
「…前後の話も聞いてええ?」

水上にそう聞かれ、女主人公は先ほどの犬飼との会話を伝える。

「さよか」
「…たしかに、わたしは二宮隊じゃないし、関係ないかもしれないけど…未来ちゃんはお友達だったし、すみくんのことも心配だったのに…」
「犬飼が理由もなしに、そんなん言うわけないやろ」
「…わかんないよ…」
「わかるわ。あんだけ女主人公のこと大好きやのに、そう言うってことは、何かあるってことやん」
「…未来ちゃんが規定違反したことに関係あるのかな?」
「あるから言わないんやろうな」

水上からそう言われて、女主人公は落ち着いて考えてみた。
何か、大きな理由があって鳩原がボーダーのルールを破った。
そして、その詳細は一般の隊員が知ってはいけないほど、大きな問題だった。
もしそれを知ってしまったら鳩原のように、ボーダーにいることができなくなるかもしれない。

「…わたしが知ったらダメな話ってことだよね」
「少なくとも、俺らは知ったらアカン話なんやろな」
「だから除隊処分なんだもんね…」
「せやな。ほんで、除隊になるくらい大きな問題なんやから、そのタイミングで記憶封印措置がされるやろな」
「…さすがのわたしにも理由がわかったよ」
「せやろ」

記憶封印措置をされたら、ボーダーの記憶は消されてしまう。
つまり、水上との出会いもなかったことにされてしまうのだ。

「…すみくんは、わたしのことを守ってくれたんだね」
「そういうことや」
「わたし、すみくんの気持ち何も考えてなかった…。すみくんの誕生日の次の日に、大切なチームのメンバーが辞めさせられちゃったのに、自分のことばっかり考えてた…」
「でも、こうやって気づいたんやからええやろ」
「…水上くんわたしに甘いー!」
「当たり前やろ、彼氏やぞ」

そう言うと、水上は女主人公のことを抱きしめた。

「帰ったらちゃんと話せなアカンで」
「うん…水上くん、ありがとう」

女主人公は水上を見上げると、「こんな時にあれですが…」と言う。

「ん?」
「…ちゅーしてほしいです」
「ええけど、トリオン体やで?」
「トリオン体解除する」

そう言うと、女主人公はポケットからトリガーを取り出した。

「トリガーオフ」
「アホやん」
「いいでしょー!」
「ええけど。トリガーオフ」

同じように、水上もトリガーを解除する。

「ほんなら女主人公からしてや」
「え?」
「目ぇつぶんで」
「え、本当?」

女主人公は水上の顔をまじまじと見つめると、顔を赤くする。

「か…かっこよくて無理…!!」
「はよしてや」
「水上くんの顔がかっこよくて無理です!」
「アホか」

そんな女主人公にあきれながら水上は目を開ける。

「眼科行こか」
「両目とも1.5だからね!」
「行かなあかんのは頭の方か」
「失礼な!」
「もうええわ」

そう言うと、水上は女主人公の頭を持って自分の方に引き寄せると、そのまま女主人公の唇をふさぐ。

「っ!」
「こうやんねんで。簡単やろ」
「か、簡単じゃないよ〜!」

顔を赤くしながら抱きついてくる女主人公を見て、水上は「(これ以上先に進むのはいつになるやろ…)」と思った。



その後、女主人公は水上に送られて家まで帰ると、先に帰っていた犬飼の部屋を訪れた。

「…すみくん…入ってもいい?」
「…いいよ」

犬飼の返事を聞き、女主人公は扉を開ける。
犬飼はベッドに寝転んで本を読んでいたが、体を起こして本を横に置いた。

「…すみくん…」
「どうしたの?」

女主人公は犬飼に近づくと、犬飼を抱きしめた。

「すみくん、ごめんなさい…わたし、自分のことしか考えてなかった…」
「女主人公…」
「すみくんの方が辛いしショックなのに…本当にごめんね…」
「…いいよ、おれも関係ないとか言ってごめんね」
「すみくんは謝らないで!わたしが悪いの…」
「女主人公も、鳩原ちゃんがいなくなってビックリしたよね。その気持ちをわかってあげられなくてごめん」
「そんなことない…」

女主人公は抱きしめていた腕を離すと、犬飼の手を握り「すみくんが、本当につらい時は言葉じゃなくても言ってね。わたしたち、双子だよ?言葉がなくてもわかるから」と言った。

「女主人公…ありがとう」
「すみくん、大好き!」
「おれも大好きだよ」
「これで仲直りだね!」
「仲直りっていうか、ケンカしてたっけ?」
「ケンカじゃない!?」
「おれはケンカにカウントしてないけど」
「そっか」

そんな話をしていると、1階から「澄晴ー!女主人公ー!ご飯ー!」と呼ばれた。

「行こっか」
「うん!」

2人は手を繋いで1階に降りた。



次の日、犬飼と元通りになり笑顔で登校した女主人公が、今度は影浦隊のB級降格に「なんで!?」となるのは、後数時間後のお話。



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