とある日の昼休み、水上の名前が叫ばれながら3年C組の教室のドアが開いた。
「…ほんで、その時イコさんが」
「ぼ、僕の話を無視するなー!!」
その男はズンズンと水上に近づいていく。
「俺は、それはやめた方がええんちゃうかーって言うたんやけどな」
「聞こえてないのかい!」
「で、そしたら隠岐が」
「無視するなー!」
「…ここまでうるせーのを無視できんのもすげーな…」
「水上…そろそろ話を聞いてあげた方がいいんじゃないか?」
「…なんやねん」
村上にそう言われ、ようやくその男に返事をする水上。
「やっとこっちを見たな!僕は犬飼さんのファンクラブ会長兼生徒会長だ!」
「…はあ?」
「そういえばあったな、女主人公のファンクラブ」
「え?ホンマかいな」
「これを見たまえ!」
そう言うと、ファンクラブ会長は自作の会員証を取り出した。
「これが犬飼さんのファンクラブの会員証だ!」
「…ほーん…」
「犬飼さんは三門第一のアイドルだ!」
「…なんやねん、このメガネ」
「うるせーな…」
「てか、ホンマに女主人公のファンクラブなんてあるん?」
「あるぞ」
「知らなかったな」
「アホらし」
「カゲは知ってたん?」
「…あー、なんか去年このメガネから異常にチクチクした感情向けられた時があったから、そん時聞いた」
影浦はその時のことを思い出したようで、眉間にしわを寄せる。
「ホンマかいな…」
「そう!本当なんだよ!ボーダーに所属している君たちは、犬飼さんと距離が近いから知らないだろうけど、この学校には犬飼さんのファンがたくさんいるんだよ!」
「ほー…」
そう言って水上はクラスの中を見回すと、何人かが水上から目を反らした。
「今、目ぇ反らしたやつ後で話しようや」
「落ち着け、水上」
「そんで、そのファンクラブの会長さんが何の用や。てか、生徒会長と兼任すんな」
「どちらも重要な仕事だよ!それよりも!そんな犬飼さんと付き合ってるそうじゃないか!!」
水上は、大きなため息をついた。
「なんや、別れろーとかそういう話なん?」
「そんなことを言うわけないだろう!」
「は?」
「あの犬飼さんが選んだんだ。彼女の幸せを祝福するのが、本当のファンだ!」
「…せやったら、何の用なん?女主人公と喋りたいとか、そういうことなん?」
「な!何をバカなことを言ってるんだ!推しに認知されるだなんて、解釈違いだ!」
「…すまん、俺にはこいつの言ってることが一切理解できへんねんけど…」
そう言って水上は3人に助けを求める。
「俺もわかんねーよ」
「オレも…」
「さっぱりだ」
水上同様、3人も全く理解していない。
「とーにーかーくー!!君は、そんな犬飼さんと付き合っているのだろう?」
「そうやけど…」
「なら、犬飼さんの唯一の欠点でもある知能の部分をカバーできるのかい!?」
「…なんて?」
水上が聞き返すと、メガネは語り出した。
「そう、犬飼さんは顔はかわいい、スタイルも良い、性格も満点、運動神経も球技以外良い。ボーダーではB級隊員として活躍もしていて、六頴館には頭も顔も良い双子の兄がいる!そんな非の打ち所がないパーフェクトに見える犬飼さんにも、唯一の欠点がある!」
「…おん…なんでそんな知ってんねん。個人情報やぞ」
「それが、ズバリ!頭の悪さだ!」
「…このメガネ、めっちゃハッキリ言うやん…」
自分の彼女のことをツラツラと語るメガネに若干イラっとしつつも、水上は大人しく話を聞く。
「もちろん頭が悪くてもそれをカバーできるほど他が完璧だからね!それに、場合によっては頭が悪いのは長所にもなり得るけれど、やっぱり心配になるじゃないか!だったら犬飼さんの傍にいる男は、その欠点をカバーできる知能の部分で秀でた人間が良いと、僕は常々思っていたんだよ!」
「なんでおまえがそんな心配しとんねん」
「悪い人間に騙さることもあるだろう。それが心配なんだ!」
「ファンクラブってか、親目線やん」
「シャーラップ!」
メガネは水上を指さすと「君、2年の時は学年で何位だったんだい?」と聞いた。
「なんで教えなアカンねん」
「ふっ、やはりな。君の名前を順位表で見たことがない」
「たしか、紙で貼り出されるのは50位以内だったか?」
「そうだな」
「なんでおめー入ってねーんだよ」
「…2年までは別にええやろ」
「それを人は負け惜しみと言うんだよ!」
その言葉に水上はキレた。
「ほーん。なら次の期末で勝負しようや」
「何?」
「俺がメガネより成績良かったら、女主人公の彼氏としてちゃんと認めてくれるんやろ?」
「別に今も認めていないわけではないけどね!」
「うっさいわ」
「だがそうだな。君がもし、僕よりも成績が良かったら犬飼さんファンクラブ会長として、2人を正式に推すことを約束しよう」
「せんでええわ」
「次の試験を楽しみにしているよ!」
そう言うと、メガネは自分の教室に戻って行った。
「…なんだったんだろうな」
「本気なんだな、水上」
「あいつ、おめーが頭いいってこと知らねーだろ」
「まぁ、去年までは受験にも関係ないんやし、どうせ三門大学行くんやったらそこそこでええかって思っとったからな」
「じゃあ次の試験は、水上の本気の順位がわかるんだな!」
「あんま期待せんといてや」
「期待するだろう!」
「あのメガネがどんだけ成績優秀なんかは知らんけど、負けるつもりはあらへんで」
「かっこいいな、水上」
そこで昼休みが終わり、女主人公が隣のクラスから戻って来た。
「あれ?なんか変な空気?」
「んー、なんもあらへん」
「本当?」
「本当だよ」
「おめーが気にすんな」
「?そっか」
そう言うと、女主人公は自分の席に戻る。
そうしてあっという間に期末試験の日がやってきた。
「ふふふふふふ、水上敏志!調子はどうだい!?」
「出たなメガネ…女主人公がいない時にしか現れないんやな」
「当たり前だろう!認知されたら困るだろ!!」
「普通は認知されたいんやないか…」
「それは解釈違いだ!」
「ホンマ謎やな…」
そんなことより、とメガネが話題を変える。
「今日から試験が始まるが、調子はどうなんだい?まさか、自信がないとは言わないよね?」
「当たり前やろ。バッチリやで」
「そう言っていられるのも今のうちだろうけどね!」
「後悔すんのはおまえや」
「また来週会おう!」
「もう来んな」
メガネが下駄箱から姿を消すと、ちょうど女主人公が校門から下駄箱に向かって歩いて来ていた。
「あいつの女主人公に認知されとうないっつー能力は本物やな」
「あ!水上くん!おはよう!」
「おはようさん」
「今日からテストだねー」
「やな。今回はちょっと本気出すで」
「え!今まで本気じゃなかったの?」
「まぁ、のらりくらりな」
「じゃあ楽しみにしてるね!わたしも水上くんに勉強教えてもらったから頑張る!」
「…ほとんど勉強せずに終わってしもうたけどな」
「〜っ!!あ、あれは水上くんが!」
「顔真っ赤」
女主人公は、勉強を教えにもらいに行った日に、水上の部屋でしたことを思い出した。
「もう!」
「そういう顔もかわええよ」
「水上くん!」
プンプン、と怒りながら女主人公は上履きに履き替える。
「行くで」
「うん!」
水上が手を差し出すと、女主人公は水上の手を握る。
「頑張ろうね!」
「せやな」
そして5日間の試験期間が終わり、結果が出た。
掲示板には学年50位までの名前が貼りだされている。
「手ごたえはどうだったんだ?」
「んー、まぁぼちぼちやな」
「ほんとーかよ」
「気になるな、水上の順位が」
「わたしも楽しみ!」
5人は掲示板の前に行くと、今、国近、当真、そして王子が掲示板の前にいた。
「あら、珍しいわね」
「女主人公ちゃーん!」
「柚宇ちゃん!結花ちゃん!それに王子くんも」
「やあ」
「なんで当真がいんだよ。バカには縁がねーだろ」
「その言葉、そのまま返すぜ」
「水上の順位の確認に来たんだ」
「水上くんの?」
「せや」
「名前載ってる?」
「去年は載ってなかったよね」
「せやな。今回は、ちょっとな」
「ファンクラブの会長様が来て、さんざん煽られたからな」
「何それ」
そんな話をしながら、前にいる人間が移動するのを待っていると、前の方で見ていたC組のクラスメイトが「おい、水上やべーな!」という話をしているのが聞こえてきた。
「水上くんやばいの?」
「別の水上くんなんじゃねーの」
やっと掲示板の前に辿り着くと「あ!」と女主人公は大きな声を出した。
「…学年1位…!?」
「1位のところに名前が書いてあるー!すごいね水上くん!」
「今回は本気出す言うたやん」
「化け物かよ…」
「本当に学年1位とかあるんだね」
「水上くんすごいわ」
水上は、人混みの奥にメガネがいるのに気づく。
そして口パクで「俺の勝ちやな」と言った。
水上が言ったことがわかったメガネは、そのまま泣きながら走り去っていった。
「ん?どうしたの?」
「どうもせんよ」
「力だな、愛の」
「すげーパワーだな」
「愛?」
「女主人公は知らんでええねん」
水上はそう言うと、女主人公の頭を撫でた。