放送部の実況とともに始まった借り人・物競争。
まずは女の子たちのレースがあって、次に男の子たちのレースになる。
女の子たちのお題は、比較的簡単なものが多く、定番の好きな人、かっこいいと思う異性などの恋愛絡みのお題が一番盛り上がっていた。
中には校長先生や怖いと思う先生、など借りにくい人のお題もあった。
犬飼くんも、見た目がいいせいか1年生の女の子に借りられていった。
「犬飼先輩!一緒に来てほしいです!」
「ほんとにー?おれでよければ全然いいよ!」
「ありがとうございます!」
と、一瞬その子が、こちらをチラッと見てきたようだったけど、気にしないことにした。
どうぞどうぞ、犬飼くんはただの友達なので気にせず連れて行ってください。
女の子たちのレースには氷見さんが出ていて、引いたお題が「尊敬できる人」だったようで、真っ赤な顔をしながら私の席までやってきて「苗字先輩!一緒に来てください!」と言ってくれた。
手をつないで一緒にゴールをすると、
「苗字先輩、ありがとうございます!」
「いえいえ、氷見さんだいぶ落ち着いて話ができるようになったんだね?」
「はい!チームメイトの一言であがり症を克服できました!」
「すごい」
氷見さんのチームメイト、いったい何と言ってあげたのか気になる。
そうこうしているうちに、あっという間に女の子たちのレースが終わり、男の子たちのレースになった。
女の子たちのレースで借りられていった私たちも、また自分たちの席に戻った。
「いやー、借りられちゃった」
「嬉しそうね、犬飼くん」
「まぁ悪い気はしないよね」
「それもそうだ」
「さて、本番だよ」
男子のレースが始まる。
「位置について、よーい、ドン!」
『始まりました男子のレース!結構えげつないお題も多いので、リタイア可能です!』
どんなお題なのか、逆に気になってしまう。
確かにお題を引いて、内容を確認して頭を抱えている人が多い。
女の子のレースも結構きわどいなと思っていたければ、男の子のレースは予想以上だった。
『ゴール!一番にゴールしたのはお題、彼女を引いた紅組の彼。いやーラッキーでしたね!彼女がいてよかった』
彼女がいなかったら、リタイア一択のお題は確かにえげつない。
荒船くんは、4番目だからまだもう少し後だ。
『どんどんスタートします!前の組のお題は、あまり恋愛要素が少ないですね!ということは、この後の組がそういうお題が多いということですね。皆さん楽しみにしててください!』
「うわー、荒船くんの目が死んでるよ。大丈夫かな?」
「たしかに。あの放送を聞いてからさらに死んだね」
とうとう荒船くんの番がやってきた。
『さて、次の組が始まります!』
「位置について、よーい、ドン!」
『さー皆さん一斉に走り…出さない!あまりのやる気のなさに放送部もびっくりです!早く走れ!』
ただの運になる借り人・物競争なので、本気で走る人はあまり少ない。
荒船くんも走っておらず、もはや歩いている。
『早くお題を取らないとペナルティーでもう一つお題を追加しますよー』
放送部の地獄の宣告に、やっとみんなが走り出し、お題を取った。
『ん?皆さん固まっていますねー。どんなお題なのか気になります』
「荒船くんも固まっちゃってるね」
「本当だ。どんなお題なんだろう」
私と犬飼くんがのほほんと話していると、お題を取った何人かがキョロキョロとあたりを見回した。
そして私と目が合うと、3人がこちらに向かって走ってきた。
「え?」
走ってきた3人は、
「苗字さん!お願い!一緒に来て!!」
「苗字さん、俺と一緒に来てほしい!」
「苗字先輩、お願いします!」
『おおーっと!わが校一番の美女、苗字さんのところに三人の男子が群がっている!これは異様な光景だ!』
「えっと…」
「ひゃー苗字ちゃんモテモテだ」
「犬飼くん…」
私がどうしよう、と迷っていると
「女主人公!」
荒船くんが私の名前を呼んだ。
「荒船くん」
「お前ら散れ!見えねーのか!女主人公は俺のハチマキつけてんだよ!」
それを聞いた男の子たちは私の頭のハチマキを見て
「知ってた!!知ってたけど仕方ねーだろ!」
「どうせ荒船とできてんのは知ってたけど、お題がこれなんだよ!」
そう言って見せられたお題は、学年一のマドンナ。
うーん…他にも可愛い子はいると思うけどな。
「女主人公は俺が借りるから、お前らは他探せ!」
「荒船のバカやろー!!」
「頭よくて顔もよくて、彼女が苗字さんって!一つくらい譲れ!」
「荒船先輩ひどいです!!」
色々言いながらも3人はゴールラインまで走っていった。
多分リタイアを告げにいったみたい。
「女主人公借りるぞ」
「どうぞー!」
「荒船くん、お題なに?」
「ほら」
荒船くんのお題は、ハチマキを交換したい女子。
「お前以外連れていけないだろ」
「たしかに」
そう言って、荒船くんは私の手を取って走り出した。
『はい、ゴール!この組はリタイアばかりでやっと1位のゴールです。お題は、ハチマキを交換したい女子。ていうか、もう交換してるじゃん!リア充うらやましいな!』
実況のおかげで、だいぶ盛り上がった借り人・物競争。
ただ、この種目のせいで、私と荒船くんが付き合っているという嘘の噂がさらに大きくなってしまった。
「荒船くん、高校卒業するまで彼女できないんじゃ…」
「ボーダーで頑張るから、もともと作るつもりなかったんだよ。だから逆に助かるぜ」
「荒船くんがそれでいいならいいけど」
借り人・物競争が終わり、午後の種目も一通り終わって、あとは最後のリレーを残すのみ。
リレーには、紅組白組、それぞれの一番足が速い精鋭たちが揃っていて、最後までどちらが勝つか分からない面白い展開になっていた。
最終的に、白組のアンカーが頑張ってくれたおかげで、私たち白組が勝って、今年の体育祭は終了した。
「来年は女主人公が借り人・物競争に出ればいいじゃねーか」
「絶対いや」