「おめーが疲れてんじゃねーよ」
「すぐ感情移入するからな、女主人公は」
「鋼くんも、荒船くんとの誤解が解けてよかったね」
「そうだな」
ボーダーではこの数週間の間に、色々なイベントが発生したが、学校でも大きなイベントが発生する。
そう、体育祭だ。
三門第一では今日、体育祭が開催される。
「ほんで、なんで女主人公がチアやねん」
「い、いつの間にか決まってた…」
「なんで黙っとったん?」
「み…水上くんが…怒るかなって思って…」
「正解や…自分の彼女がミニスカ履いて踊っとる姿を他の男に見せたがる彼氏がどこにおんねん」
「そ…そうだよね…」
水上は怒っていた。
応援合戦で男子が学ラン、女子がチアガールの服を着ることは知っていたが、女主人公がチアをやることになっているとは知らなかったからだ。
「まあまあ、水上。そんな怒ってやるなよ」
「ボーダーはこういう行事に強制参加させられんだから、仕方ねーだろ」
「準備が手伝えないからな、オレたちは」
「そんなん知っとるけど、なんで女主人公なん?」
「かわいいからだろ」
「こ、鋼くん!」
村上の言葉に女主人公は笑顔になる。
「はいはーい。嫉妬深い彼氏はおいといて、犬飼さん、準備しよ!チアはみんなでお揃いのヘアメにするよ!」
一緒にチアをするクラスメイトが女主人公を呼びに来た。
「水上くん、ほんとごめんね〜!」
女主人公はそう言い残すと、クラスメイトについていった。
「クラスの女子の半分がチアなんじゃないか?」
「ならあいつがチアやんのも普通だろ」
「わかっとるけど、黙っとったんが気に入らん」
「こうなるからだろう」
「…腹立つわー」
「めんどくせーな」
ブツブツ文句を言い続ける水上をめんどくさそうに見る3人。
「穂刈と村上も、応援団の準備するぞ!」
「行ってくる」
「おー」
2人を見送り、水上と影浦も運動着に着替える。
「はー、ほんまめんどうやな」
「何がそんな嫌なんだよ」
「さっきも言ったやろ」
「スカートの丈なんざ、制服と変わんねーだろ」
「変わるわ!」
「めんどくせー」
体育祭が始まるので、全校生徒が校庭に集まった。
今年もA、B、C組対D、E、F組の紅白縦割りチーム分けになっている。
「み、水上くん!」
水上が名前を呼ばれて振り返ると、そこにはチアガールの衣装を着た女主人公がいた。
「か…っ!」
「え?」
「(かわええって叫ぶとこやった…)」
「発作だ、気にすんな」
「え、大丈夫?」
水上は「大丈夫やから…」と答えた。
「水上くん、黙っててごめんね。わたしも一週間くらい前に言われて…」
「…もうええよ。せやけど、踊れるん?」
「うん!わたし、中学生の時はチア部だったんだよ!」
「さよか…」
そう言って女主人公は、その場でくるっと回った。
「どう?」
「めっちゃかわええ」
「え、ありがとう!」
水上にハッキリと言われて女主人公は顔を赤くした。
「よそでやれバカップル」
「しゃーないやん、かわええやろ」
「カゲくん、どう?」
「いつもと変わんねーだろ」
そんな話をしていると、穂刈と村上も合流した。
「2人ともかっこいいね!」
「ありがとう。女主人公もかわいいな」
「わーい!」
「するぞ、応援!」
「盛り上げようね!」
応援合戦は開会式のすぐ後、一発目にあった。
紅白、それぞれの応援団が校庭の真ん中でパフォーマンスを披露する。
学ランにはちまき姿で、正統派の応援をする紅組。
対して、白組はラグビーのハカを参考にしたダンスを取り入れた応援だった。
応援合戦の後は、定番の玉入れや100m競争などの種目が実施された。
100m競争には女子の部門で女主人公が出る。
「運動神経もええんか」
「あいつ、足速かったな」
「何ができへんの?」
「勉強だろ」
「カゲ、おまえが言うのか」
「事実だろ」
女主人公がスタート位置についた。
「あの恰好で走るとか、アホやろ」
「さすがに下に履いてるだろ」
「当たり前やろ!」
「うっぜー!こいつアホ犬みたいになってきてんじゃねーか!」
『女子の100m争が始まります!位置について、よーい、ドン!』
放送部の合図で始まった。
「犬飼さーん!頑張れー!」
「めっちゃ早い!」
クラスメイトや同じ紅組が応援している。
女主人公はあっという間に100mを走り切り、ぶっちぎりの1位でゴールした。
「はっや!」
「短距離は速かったな、去年も」
「そうなんだな」
「去年はいなかったな、村上も水上も」
ゴールで待機している女主人公が水上たちの視線に気づくと大きく手を振ってピースをした。
「アホやけどかわええな」
「褒めてんのか貶してんのかわかんねーな」
あっという間にお昼ご飯が終わり、午後の部最初の種目であるチアガールのダンスが始まる。
「行ってくるね!」
「気ぃつけてや」
「?」
「いいからさっさといけ」
「はーい!」
紅組のパフォーマンスは、今流行のK-POPの楽曲を使ったダンスだった。
「もう、アイドルやん…」
キラキラの笑顔で踊る女主人公を見て、水上は頭を抱えた。
「水上!女主人公、かわいいな!ちゃんと見たほうがいいぞ!」
「鋼…」
「アイドルみたいだな」
「そんなん俺が一番知っとるわ」
水上は顔を上げて女主人公の踊りを見ると「…ほんまになんでもできるんやな…勉強以外…」と言った。
「才能だな!」
「鋼はなんでそんなに興奮してんだよ」
「アカン…これは次の借り人競争で知らん男に絶対借りられるやつやん…」
「借り人競争って、あれか」
「断らへんやろ女主人公は。言われるがままにほいほいついていくやろ」
「おまえ、どんなイメージだよ…」
「まぁついていきそうだけどな、女主人公は」
「せやろ!このままやと俺の番が回ってくる前に借りられてまう…」
そんな心配をしていると、2年B組の出水と米屋が水上たちの後ろを通った。
「出水!米屋!」
「うお!ビックリした!水上先輩ってそんな大きい声出せたんですね」
「失礼やな」
水上は「自分ら借り人競争に出る1年知らん?」と2人に聞いた。
「借り人競争ですか?」
「一番最初のレースに出るボーダーの1年、おらん?」
「そんな都合よく出るやついねーだろ」
「あー、たしか京介が出るって言ってた気がします」
「ほんまか?」
「はい。でも一番最初かどうかは」
「聞いてくる!」
「え?」
そう言うと、水上は1年B組の席を目指した。
「必死だな」
「なんだったんですか?」
「女主人公を借り人競争で他の男に借りさせないために必死なんだよ」
「へー!水上先輩もちゃんと女主人公先輩のこと好きなんですね!」
水上は1年B組の席まで来ると、あたりを見回した。
「水上先輩、何やってるんすか?」
「烏丸!探しててん」
「誰をっすか?」
「おまえや」
「俺すか?」
烏丸と時枝がキョロキョロしている水上を見つけて声をかけた。
「自分、借り人競争に出るんやって?」
「出ますけど、なんで知ってるんですか?」
「出水たちに聞いてん。一番最初のレース?」
「そうですよ」
「せやったら頼みがあんねんけど」
「なんですか?」
「どんなお題が出てもええから、女主人公のこと借りてほしいねん」
「女主人公先輩?なんでですか?」
「あいつ、アホやから知らん男でも借りたいって来たらほいほいついていきそうやん」
水上のセリフに「水上先輩…すごいこと言いますね」と時枝は苦笑いをした。
「せやから誰かに借りられる前に烏丸に借りてほしいんや」
「はあ。別にいいっすけど」
「ほんまか!?」
「はい。本当にどんなお題でもいいんすか?」
「ええよ!」
「それなら。どんなお題が出ても怒らないでくださいよ」
「わかっとるわ。今度メシでも奢ったるからな」
「あざす」
烏丸と約束をした水上は、軽い足取りで自分の席に戻った。