嵐山とは小学生5年生の時に、初めて同じクラスになり、そこから仲良くなった。
昔から、顔が可愛く整っていたのでクラスの女の子はもちろん、他のクラスや別の学年の女の子たちにまで好かれていた。
中学、高校と一緒に過ごしてきて、嵐山のモテっぷりは男主人公が一番知っていた。
だからこそ、なぜ自分なのだろうか、と思った。
特別頭が良いわけでもなく、特別かっこいいわけでもない。
運動神経がすこぶる良いというわけでもないし、誰かに自慢できるような特技があるわけでもない。
ごくごく普通の、どこにでもいる男の自分を、なぜ嵐山は好きになったのか、男主人公には理解できなかった。
「あー!もう1人で考えてても、まったくわからない」
男主人公は考えることをやめて立ち上がった。
上着を着ると外に出て、家の近くのコンビニに向かう。
その途中、三門第一の制服を着た男女のカップルとすれ違うと、男主人公はその子たちの後ろ姿を目で追った。
「(…おれと嵐山が…仮に恋人同士になったとことで、あんな風に歩けないんだよな)」
手を繋いで、仲良く歩いているカップルを見て、男主人公はそんな風に思った。
「…って、これじゃあおれがあんな風に歩きたいみたいじゃん!」
考えれば考えるほど、わからなくなる男主人公だった。
ソロのA級隊員である男主人公は、基本的にどこかの部隊に入れてもらい防衛任務に就く。
今日は、嵐山隊との防衛任務になる。
「おつかれ、男主人公!」
「嵐山」
普段通りの嵐山に、男主人公は少しだけホッとした。
「今日はよろしく」
「こちらこそ。さっそく行くか」
「うん」
「準備はいいか?」
「大丈夫です」
「はい」
「もちろんですよ!」
「苗字さん、今日はよろしくお願いします」
「こちらこそ」
嵐山隊と男主人公は外に出ようとするが、その前に忍田から通信が入った。
『嵐山隊、苗字。聞こえるか?』
「お疲れ様です。聞こえます!」
『市街地にゲートが開いた。直ちに現場に急行してくれ』
「わかりました。場所はどこですか」
『三門市立第三中学校だ』
「!!」
「第三中学?」
忍田の言葉を聞いて、嵐山は動揺を隠せなかった。
「嵐山先輩、急ぎましょう」
「…」
「嵐山さん?」
三門第三中学には、嵐山の妹と弟がいる。
「嵐山さん、どうしました?」
妹と弟の心配をしているせいか、嵐山隊の3人の問いかけになかなか答えない嵐山。
「嵐山!」
男主人公は嵐山の前に立つと、手を伸ばして嵐山の頬を引っ張った。
「い、いひゃい…」
「痛くないだろ、トリオン体だろ」
男主人公はそのままの状態で「佐補も副も大丈夫だから落ち着け!おまえがそんなんでどうするんだよ」と言った。
「わるひ…」
「行くぞ、隊長」
「ああ」
嵐山は自分で自分の頬を軽く叩くと、気合を入れた。
「みんな、すまない。準備はいいか?」
「大丈夫です」
「早く行きましょう」
嵐山隊と男主人公は急いで三門第三中学に向かった。
「賢、おまえは上から援護してくれ」
「了解です!」
佐鳥で別れた4人はそのまま民家の屋根の上を走り、中学校の校庭に飛び降りた。
「これは…もう終わってる…!?どうなってるんだ…!?」
「どういうこと?」
「嵐山隊、現着しました」
嵐山たちが校庭を見ると、そこにはすでに弱点を斬られて倒れたトリオン兵たちの姿があった。
「嵐山隊だ…!」
「A級隊員だ!」
「アラシヤマ隊?ボーダーか」
「嵐山隊…!それに、あれはA級の苗字さん」
嵐山は校庭にいた教員に話しかける。
「到着が遅れて申し訳ない!負傷者は!?」
「今、確認できました!全員無事です!」
その言葉を聞いて「よかった…!!」とホッとした嵐山。
「でも、こいつら誰が倒したの?」
男主人公は近くで倒れているトリオン兵に近づいた。
「たしかに。一体誰が?」
嵐山と男主人公が話をしていると、メガネをかけた少年が前に出てきた。
「きみか…?」
「C級隊員の三雲修です。ほかの隊員を待っていたら間に合わないと思ったので…自分の判断でやりました」
「C級隊員…!?」
「C級…!?」
「へー、すごいな」
「…」
嵐山は三雲に近づくと、三雲の肩を叩く。
「そうだったのか!よくやってくれた!!」
「…え?」
隊務規定違反をした三雲は、まさか褒められるとは思っていなかったので驚いた顔をした。
「きみがいなかったら犠牲者が出てたかもしれない!うちの弟と妹もこの学校の生徒なんだ!」
「嵐山」
「ん?」
男主人公に呼ばれて嵐山が振り返ると、そこには嵐山の弟と妹がいた。
「うお〜〜〜っ!副!佐補!」
「うわっ!兄ちゃん!」
嵐山は、そのまま2人に駆け寄ると2人を抱きしめた。
「心配したぞ〜〜!!」
「ぎゃー!やめろー!男主人公くん助けて!」
「そのまま受け入れてあげて」
「やだよー!」
そんな嵐山たちの姿を見て、男主人公は笑みがこぼれた。
「いいなあ、ああいうの」
「本当ですね」
「嵐山に愛されるって、こういうことなんだな」
「多分、嵐山さんに世界で一番愛されてるのは苗字さんだと思いますよ」
「な!」
時枝の言葉に顔を赤くする男主人公。
「そういうこと言うのやめて!」
「わかりました」
そんな男主人公の様子を見て、時枝も思わず笑みがこぼれる。
「そしたら、現場の調査に入りますね」
「よろしくとっきー」
2人を一通り抱きしめて満足した嵐山は、もう一度トリオン兵を見た。
「いや、しかしすごいな!ほとんど一撃じゃないか!しかもC級のトリガーで…。こんなの正隊員でもなかなかできないぞ!」
「本当だよなー。三雲くんすごいね」
「いえ、そんな…」
「いえいえ、そんな」
「なんで空閑くんが謙遜するの?」
冷や汗をかきながら謙遜する三雲を、木虎はジロリと睨んだ。
「おまえならできるか?木虎」
嵐山にそう言われると、木虎はスコーピオンを起動させて倒れているトリオン兵を斬り刻んだ。
「おお〜!」
「ほーう」
「さっすが、木虎だな」
「できますけど、私はC級のトリガーで戦うような馬鹿な真似はしません。そもそもC級隊員は訓練生。訓練以外でのトリガー使用は許可されていません」
そう言いながら、木虎は三雲を睨む。
「彼がしたことは明確なルール違反です、嵐山先輩、苗字先輩。違反者をほめるようなことはしないでください」
そんな木虎の言葉に、周りの生徒たちはざわついた。
「たしかにルール違反ではあるけど、結果的に市民の命を救ったわけだし…」
「そうだよ。少しくらい大目に見てあげようぜ」
「…人名を救ったのはもちろん評価に値します。けれど、ここで彼を許せばほかのC級隊員にも同じような違反をする人間が現れます。実力不足の隊員がヒーロー気取りで現場に出れば、いずれ深刻なトラブルを招くのは火を見るよりも明らかです」
「…!」
「木虎言うねー」
木虎の言っていることはもっともなので、誰も反論できなかった。
しかし、そこに三雲と一緒にいた空閑が反論して余計に嫌な空気が流れた。
そんな空気を変えたのは、時枝だった。
「はいはい、そこまで」
両手を叩いて、木虎と空閑を止める時枝。
「現場の調査は終わった。回収班を呼んで撤収するよ」
「時枝先輩…!でも…」
「木虎の言い分もわかるけど、三雲くんの賞罰を決めるのは上の人だよ。オレたちじゃない。ですよね?嵐山さん」
「なるほど!充の言うとおりだ!」
嵐山はそう言うと、「賞罰が重たくならないよう力を尽くすよ。きみには弟と妹を守ってもらった恩がある」と三雲に伝えた。
回収班を呼び、通常の防衛任務に戻ることになった。
「彼は今日、本部に来るんですよね?」
「そうだな」
「では、私が逃げたりしないよう見張ります」
「そんなことしなくても、三雲くんは逃げないと思うよ?」
「簡単にルールを破るような人間、信用できません。いいですよね、嵐山先輩?」
「わかった。それで木虎が満足するならいいぞ」
「ありがとうございます」
木虎と時枝の2人から、少し離れた位置にいる嵐山と男主人公。
「嵐山」
「ん?なんだ?」
「佐補と副、無事でよかったな」
「ああ。本当に心配したからな。ケガもなくて良かったよ」
そう言って笑う嵐山を見て、男主人公は「…いいな」とつぶやいた。
「何がだ?」
「…嵐山に、そうやって心配してもらえるのが、なんかいいなって思った」
「そうか?」
「おれは一人っ子だし、父さんも母さんも海外だからね。嵐山の愛の大きさがすごいなって思ったよ」
「…男主人公」
嵐山は男主人公の腕を掴むと、自分の方に引き寄せた。
「!嵐山!」
「家族は大事だ。けど、俺は、男主人公を一番に愛してる」
「〜っ!」
「はは、真っ赤だな!」
「あ、当たり前だろ!自分の顔面見たことないのかよ!」
嵐山の真剣なまなざしに、男主人公は顔を赤くした。
「少しは俺のこと意識してくれたか?」
「す、少しどころじゃねーよ!」
そんな2人離れた位置から見守っている木虎と時枝。
「…今、防衛任務中ですよね」
「まあいいんじゃない。進展がありそうでオレは嬉しいよ」
「そうですけど…」
嵐山の恋が実るまで、あと少し。