ガラスの靴をきみに贈る

私が物語のヒロインになることはない。
ずっと、そう思っていた。
けど、そう決めつけていただけなのかもしれない。

だって、あたなたはいとも簡単に私の世界を壊していった。







「苗字さーん!」
「プリンスー!」
「かっこいいー!」

「いやー、今日も人気だねイケメン女主人公ちゃん」
「ありがとう」

そう言って微笑むと、女の子たちは顔を赤くした。
私は、生物学上は女だけど、170pと女にしては背が高くて棒みたいだし、胸はほとんどないぺったんこ。
髪の毛もショートヘアで、メイクもほとんどしていないから、制服を着ていないと男か女かわからない。
ずっと、イケメン、プリンス、王子様みたいと言われ続けてきたので、自分が女の子らしくないということは、もう嫌と言うほど知っていた。

「そう言えば、うちの学校に本当の王子様いたね」
「本当の王子様?」
「うん。苗字が王子って言うんだけど、見た目もさわやかでかなりのイケメンなんだって」
「へー」

なるほど、本物の王子様だ。
同い年であるはずのその王子様とは、なかなか会う機会がなくあっという間に1年が経った。
2年になり、新しい教室に入ると親友に話しかけられた。

「女主人公ちゃん!朗報!やっと王子様に会えるよ!」
「同じクラス?」
「うん!」

王子様と同じクラスということもあって、私も少し浮かれていた。
どんな人なんだろう、そう思うながらチラチラと教室の扉に目がいく。

「苗字さん!初めて同じクラスだね!」
「嬉しいー!ずっと憧れてたんだ!」
「本当イケメンー!」
「ありがとう」

王子様が来る前に、私の先の周りに女の子たちが集まってきた。
これじゃあ入り口が見えないな。
そんな風に思っていると、「同じクラスだな王子!」「本当だね」という会話が聞こえてきた。

「あ!王子くんだ!」

私の周りにいた女の子たちも、一斉にそちらを見る。
椅子に座っていた身体を少しずらして入り口を見ると、そこには確かに王子様が立っていた。

「(うわー、かっこいい…)」
「このクラス、2人もプリンスがいるね!」
「いいクラスだわー」

私が王子様を見ていると、彼もこちらを見たので目が合った。
そして、パチンッとウィンクをされた。

「(なっ!)」
「キャー!王子くんかっこいいー!」
「ウィンクが似合う!」
「本当かい?」

王子様は私の席に近づいてきた。

「やあ、初めて一緒のクラスになるね。王子一彰だよ、よろしくね」
「あ、うん。苗字です」
「きみがあの…」
「本物の王子様の前で恐縮です」
「何がだい?」
「え?だって、本物の王子様を差し置いて王子って呼ばれてて申し訳ないです」
「…ふふ、そんな風に思ってたんだ。面白いね」
「え?」
「ぼくは気にしてないよ。ただ、きみが王子様って呼ばれるのは、違う気がするけどね」

やっぱり、エセイケメンである私が王子様って呼ばれるのは申し訳ない。

「ごめんね」
「気にしてないよ」

そんな会話をしていると、担任が教室に入ってきたので王子様は自分の席に戻っていった。



「丁度良かった、苗字ー」
「はい」

担任から呼ばれて、私は教室の外に出た。

「悪い、これ職員室まで運んどいてくれ」
「これですか?」

そこに置いてあったのは段ボールが2箱。

「そんな重くないからおまえならいけんだろ」
「もちろんです」
「頼んだー」

段ボールを持ってみると、なるほどそこそこ重たい。
だけど、持てなくはないからそのまま持ち上げて、職員室まで歩き出す。

「女主人公ちゃん、手伝おうか?」
「ん、重たいから大丈夫だよ。先にご飯食べてて」

そう言って、親友の手伝いを断った。

「(持てるけど…問題は前が見えにくいこだー)」

慎重に、落とさないように歩いていると、何かに躓いた。

「(やば!)」

段ボールをつぶさないように避けたせいで、足首に変な力が入ってしまった。
グニャッと嫌な音が足首から聞こえた。

「…っ、き、気のせい」

あいにく、今の時間は昼休み。
みんな食堂や教室でご飯を食べていて、この道はなかなか人が通らない。
仕方ない、と痛む足に力を入れないようにもう一度段ボールを持ち上げて職員室に急ぐ。
なんとか職員室について、段ボールを担任の机の横に置くと、足首がズキズキしてきた。

「…捻ったかな…」

足をかばいながら歩いていると、「プリンセス?」と誰かを呼ぶ声が聞こえてきた。

「(この学校にプリンセスなんているんだね)」
「無視はひどいな」
「…え?」
「きみだよ、プリンセス」
「わ…私?誰かと間違えてない?」
「きみ以外に誰がいるんだい?」
「(い、いないから間違えてるって言ってるんだけど…)」

王子様は私の足を指さすと「どうしたんだい?」と聞いてきた。

「あ、足首捻っちゃったみたいで…」
「それは大変だね。おいで」

そう言うと、王子様は両手を広げていわゆるお姫様抱っこをしようとしてきた。

「な!!なんで!」
「なんでって、足首が痛いんだろう?さっきから見ていたけど、変な歩き方をしているし。これ以上歩くと、余計ひどくなりそうだよ」
「だ、だからってその持ち上げ方はどうかと思う!」
「どうしてだい?」
「わ、私重いし…背だって高いし、せめておんぶにしてほしい」
「きみにはお姫様抱っこが似合うとぼくは思うんだけどな」
「そういうのいいから!」

やれやれ、といった様子の王子様はその場にしゃがんだ。

「仕方ない。今回はおんぶで我慢するよ」
「本当はおんぶも嫌なんだよ」
「いいから早く。保健室に行こう」
「ありがとう」

私は恐る恐る王子様の背中に乗る。

「ん、思った通り。重くないよ」
「そういう社交辞令はいらないよ」
「ぼくはボーダーだからね。その辺の軟な男と一緒にしないでほしいな」
「王子様ボーダーなんだ」
「え?」
「あ、ごめん」

いつも心の中で王子様と呼んでいたから、とっさに出てしまった。

「王子くん」
「うん」

王子くんの言葉通り、確かに私をおんぶしていても安定していた。
細身なのに、実はマッチョなのかな?
それはそれで顔に似合わないからなー、なんて失礼なことを考えていたらあっという間に保健室についた。

「はい、到着」
「なんだか色んな人に見られてた気がする…」
「気にしなくていいんじゃないかな」
「王子くんは気にしないでしょうね」
「お大事にね。何かあったらぼくのことはいつでも頼ってくれてかまわないよ」
「気持ちだけ受け取っておくね、ありがとう」

お礼を言って保健室に入る。
案の定、捻挫をしていたようで、足首を固定されてあまり動かさないようにと怒られてしまった。



教室に戻って扉を開けようと思った瞬間、中から私の名前が聞こえてきて手が止まる。

「王子もすげーな!プリンスおんぶしてたじゃん!」
「男よりも男らしいのにすげーよな」
「普通逆だろ!」
「王子がおんぶされる側だよなー」

そんな話をしていて、私は固まってしまった。
こういうことは言われ慣れている。
だから、なんともないんだ。

「そうかな?ぼくには、彼女も立派なプリンセスに見えるけどね」
「なーに言ってんだよ!」
「王子くん優しいー!」
「さすが王子様!」

教室の中で騒いでいた男子の一人が扉にぶつかり、その拍子で教室の扉が少しだけ開いてしまった。

「やべ、開いちゃっ…苗字!」
「え?」

扉の前に立っていた私に気づいて、教室の中が静まり返る。

「あ…ほ、本当逆だよね。私も、王子くんのこと潰さないか心配だったんだ」
「だ、だよなー!」
「そうだよね!やっぱりプリンスは抱っこする側じゃないと!」
「う、うん…」

正直、上手く笑えてる自信はなかったけど、教室の中がいつもの雰囲気に戻ったから良かった。
そう思っていると、無表情の王子くんが近づいてきた。

「お、王子くん…?」
「…今のぼくは、あまり機嫌が良くないんだ」
「え?」

王子くんはそう言うと、私の腰の上と太ももの下に手を入れてそのまま持ち上げた。

「な!」

そのまま屋上に向かって歩き始める王子くんに「ちょ!王子くん!」と声をかける。
けど、王子くんは無言のまま。

「(な、なんで怒ってるの…)」

声をかけても答えてくれないので、私はあきらめてそのまま大人しくされるがままになる。
屋上につくと、王子くんは私を下ろしてくれた。

「あ、あの…王子くん?」
「きみは、なんでそんなに無理してるの?」
「え?」
「さっきの、本心じゃないよね」
「…」
「泣きそうな顔をしていたよ」

そう言うと、王子くんは私の頬に手を添える。

「無理して王子様らしく振舞うことはしなくていいんだよ」
「王子くんに…何がわかるの?」
「わかるさ」
「勝手なこと言わないでよ!」

私は思わず大きな声を出してしまった。

「小学生のころから、体も大きくて…かわいい物も似合わない男顔で…ずっとそういう風に見られてきたの!かっこいいもかわいいも持ってる王子くんにはわかんないよ!」
「…」

言い過ぎてしまった、と私は顔を伏せる。

「ご、ごめん」
「ぼくってかっこいいしかわいいんだ?」
「え?」

意外な言葉が返ってきて、私は伏せていた顔を上げた。
すると、嬉しそうに笑う王子くんの顔がある。

「苗字さんにそう言ってもらえるなんて、光栄だな」
「えっと…、そこ?」

王子くんの食いつくポイントがよくわからないけど、さっき言ったことはそんなに気にしてないみたいで良かった。

「ぼくはきみのことを美しいと思っているよ。男顔だなんて、そんなことないよ。きみは自分の良さを知らないだけだね。良さを活かす形で磨き上げれば、きみだって立派なプリンセスだよ」
「…何それ」
「きみは素材が良いんだ。ぼくに任せてくれれば、きみを物語の主人公に変えてみせるよ」

そう言っていたずらっぽく笑う王子くんに、思わずときめいてしまった。



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