素直になれない男と鈍感女

「そういえば、知ってる二宮くん」
「…さっさと自分のクラスに戻れ」
「あら、少しくらい私の話を聞いてくれてもいいじゃない?」
「おまえの話に興味はない」
「この前入ってきた新人で、面白い子がいるんだって」
「…人の話を聞いてたか?」

二宮と加古は、六頴館高校の3年生。
クラスは違うが、同時期にボーダーに入隊したこともあってたまに加古が二宮のクラスに来て話をしていく。

「将来有望らしいんだけど、女の子が苦手みたいなのよね」
「…」
「いい子なのにもったいないわよね。せっかくB級になれたのに、チームが組めないんですって」
「…そう言うなら、おまえが引き取ればいいだろう」
「人の話聞いてた?女の子が苦手なのよ」
「おまえは女の子じゃないだろう」
「まあ、失礼しちゃう」

二宮は加古のことを無視して、持っていた本を読み続ける。

「二宮くんも、チームメンバー探してるんでしょ?」
「東さんから独り立ちの許可をもらったからな」
「声かけてあげなさいよ」
「なんでおまえにそんなことを言われなきゃいけねえんだ」
「社交性の欠片もない二宮くんのチーム作りを助けてあげてるんじゃない」
「ハチの巣にするぞ」

そんな話をしていると、予鈴が鳴る。

「さっさと戻れ」
「はいはい。私は影浦くんに声をかけようと思ってるから、取っちゃだめよ」

加古はそう言い残すと自分のクラスに戻って行った。







「(あいつか…)」

二宮は、C級ブースの画面を見ていた。
そこに映っていたのは、黒髪の少年。
男相手のソロランク戦は、たしかに腕が良く、良いサポートをしてくれそうだと二宮は思った。
ただ、加古の言っていた通り、相手が女に変わるとその場で動けなくなり、あっという間に負けてしまった。

「(まあ…何もしないで落とされるのは問題だが…それでも悪くないな)」

二宮はそう思った。
ブースから出てきた少年に声をかけようとするが、その前に二宮は出水に声をかけられた。

「あっれー、二宮さん!何してるんですか?」
「出水か」
「バトります?」
「…いや、今日は他に用事がある」
「何かあったんですか?」
「出水、おまえあいつを知っているか」

そう言って、二宮は辻の後ろ姿を指さした。

「あー、辻ちゃんですね。同い年なんで知ってますよ!」
「あいつは、女が苦手なのか?」
「詳しくは聞いてないですけど、そうっぽいですね」
「どの程度だ?」
「え?さー…そこまでは。どうしたんですか?チームに誘う感じですか?」
「ああ。あいつはこれからもっと強くなる」
「なるほど。たしかに二宮さんのとこなら辻ちゃんが女の子苦手でもなんとかなりそうな感じはしますね」

二宮は出水に一言声をかけてから辻の後を追った。

C級ブースを出て廊下を歩いていると、自販機の前で辻が飲み物を買って休憩をしている後ろ姿が見えたので、二宮は辻に声をかけた。

「辻」

「「はい?」」

二宮の呼びかけに反応したのは、辻だけではなかった。

「あれ、二宮くん」
「…だ…(誰だ?)」

そこにいたのは辻と、辻の身体に隠れていて見えなかったオペレーターの制服を着た女だった。

「に、二宮さんって…あの…?」
「うん。あの二宮くんだよ」
「そ、そんなすごい人が俺に何の用ですか?」
「おまえ…女が苦手なんじゃなかったのか?」

目の前にいる辻は、普通に女と話している、と二宮は混乱した。

「苦手です…」
「じゃあなぜだ?」
「女主人公ちゃんのことですか?」

そう言って、辻は隣に立っている女主人公を見た。

「女主人公ちゃんは俺の従姉弟です」
「そういうことか」
「身内はさすがに大丈夫だよね」
「慣れれば大丈夫ということだな」
「…と言いますと?」
「辻、俺の作るチームに入ってくれ」
「え?」
「え!すごい!新ちゃん、二宮くんに誘われたよ!」

二宮が辻をチームに誘うと、辻以上に女主人公が喜んだ。

「お…俺はいいです…」
「なんで!?」

それは俺のセリフだ、と思いながらも二宮は辻の言葉を待つ。

「だって…女の人を前にすると何もできずに落とされちゃうから。足手まといになるくらいなら、どこのチームにも入らない方がいいかなって…」
「新ちゃん…」

二宮は「そんなことか」と言った。

「二宮さんみたいな強い人が作るチームに、俺みたいなのが入ったら申し訳ないです」
「俺は、おまえの実力を見た上で誘っているんだ。足手まといかそうでないかは、俺が決める」
「…で、でも…」
「まあ、俺も無理にとは言わない。だが、俺はおまえを認めている。だからこそ一緒にチームを組みたい」
「…少し…考えさせてください」
「わかった。急に悪かった」

初対面でこれ以上は難しいだろうと思った二宮は、その日はそのまま帰った。



次の日、いつものように昼休みを自身の席で過ごしていると「二宮くん」と声をかけられた。
二宮はが本から顔をあげると、そこにいたのは女主人公だった。

「おまえは辻の…」
「新之助の従姉弟の、辻女主人公です。二宮くんとはクラスが違うから、初めましてだね」
「昨日話ただろう」
「話したって言っていいの?」

そう言うと、女主人公はクスッと笑った。

「私、新ちゃんと同じタイミングで入隊したんだ。戦闘員としての適性はなかったからオペレーターなんだけどね」
「そうか」

女主人公はそう言うと、二宮の前の席の椅子に座った。

「二宮くん、昨日はありがとう」
「なぜおまえが礼を言う?」
「新ちゃんって、昔からあんな感じだったから仲間外れにされることも多かったんだよね。特にゲームとかになると、女の子がいるってなった時点で新ちゃんの負けが決まってるから」
「…まあ、そうだろうな」
「そんな自分を変えたくてボーダーに入隊したみたいなんだけど、やっぱり怖いから私に一緒に入隊してって頼んできたり、まだまだ甘えたなところはあるんだけど、頑張ってるんだ」

辻のことを話す女主人公の姿は、まるで本当の姉のようだった。

「だからね、新ちゃんのことをちゃんと見てくれた二宮くんに感謝してるんだ。新ちゃんを、認めてくれてありがとう」

そう言って微笑んだ女主人公の顔を見て、二宮は自分の胸がギュッと苦しくなったように感じた。

「(病気か…?)…別におまえに礼を言われる筋合いはない」
「二宮くんかわいくない〜」
「うるさい。さっさと自分のクラスに戻れ」
「もう少しお話ししようよ。せっかくボーダー同士なんだからさ」
「…」
「それに、新ちゃんをチームに入れてくれるんでしょ?」

女主人公の言葉に、二宮は眉間にシワを寄せた。

「あいつは…入るつもりはないだろう」
「そんなことないよ。多分、新ちゃんは二宮隊に入るよ」
「なぜわかる?」
「これでも新ちゃんのこと昔から見てきてるからね!」
「余計なことはするな」
「しないよ」

予鈴が鳴り始めたので、女主人公は席を立つ。

「今日もボーダー行く?」
「ああ」
「そしたら、二宮くんがよければ一緒に行かない?」
「わかった」

二宮がそう答えると、女主人公は嬉しそうに笑った。

「じゃあ、また放課後ね!」

そう言うと女主人公は自分のクラスに戻って行った。



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