三歳年上の友達のお姉さん

物心ついた時から、俺はお兄ちゃんだった。
両親の仲が良いのは良いことだけど、弟が2人生まれ、妹が2人生まれて、あっという間に俺は烏丸家の長男になっていた。
家は裕福じゃないから5人の子どもたちを養うために、両親は共働きでいつも忙しくしていた。
だから、必然的に俺が家事をやる。
小学校低学年くらいのころは、なんで俺だけ、と思うこともあったけど、高学年になるころにはもう慣れた。

そして、もっと色々できるようになって、両親の負担を軽くしてあげたいと思うようになってきたころ、ボーダーの存在を知った。
中学生の俺でもお金が稼げる場所。
そう思ったら、すぐに入隊試験の申し込みをしていた。



「めっちゃイケメンが入隊してきたって話は本当だったんだな!」
「…誰だ?」

無事にボーダーに入隊した俺に話しかけてきたのは、同い年の佐鳥と時枝だった。

「オレ、佐鳥賢!同い年で同じ鳥同士、仲良くしようぜー!」
「時枝充だよ。よろしくね」
「よろしく。烏丸京介だ」
「烏丸って読むのか!オレ、とりまるだと思ってたわ」
「人間の苗字か、それ?」
「たしかに」

俺たちがラウンジで話をしていると、周りからの視線が刺さる。

「大丈夫?」
「慣れてる」
「言ってみたいなー!そんなセリフ!」
「茶化さないよ」
「ご、ごめん!」
「いいよ」

自分の容姿が人よりも優れているということは、昔から気づいていた。
だけど、こんな薄皮1枚に何をそんなに騒ぐことがあるのか。
俺の外見だけを見て騒いでいる人たちを見ると、恋愛以外考えることがなくてうらやましい人生だなと思ってしまう。

「とりまるは今日はまっすぐ帰る感じ?」
「ああ。夕飯の準備がある」
「夕飯!?自分で作ってんの?」
「両親が共働きだからな。その分家事は俺が引き受けてる」
「顔も良くて、家事までできるのかよー!こりゃあモテるわけだ!」
「賢…いい加減にしなよ」

同い年でもこうも反応が違うのか、と少し驚く。

「じゃあ、俺は帰る」
「了解!また明日!これからよろしくなー!」
「またね」

家に帰る前にスーパーの特売セールに寄って、家に帰って夕飯を作って、弟と妹たちを寝かせる。
ボーダーに入隊したことで、少しは俺の日常にも変化があるといいな。







「そうだ、今日はボーダーに行く前に三門第一に寄ってもいいかな?」

ボーダーに入った後も、特に変わることのない俺の日常が続いていたある日、時枝がそう言った。

「いいよー。嵐山さんでも迎えに行くの?」
「ううん。姉さんに用事があるんだ」
「え!とっきーってお姉さんいたの!?」
「初耳だな」
「あんまり家族の話ってしてないよね」

時枝にはお姉さんがいたのか。

「オレも兄貴いるけど、めっちゃ怖いよ」
「たしかに弟っぽいな、2人とも」
「とりまるは長男っぽいよね!」
「アタリだ」
「やっぱり!」

そんな話をしながら三門第一に向かう。

「お姉さんに何の用?」
「今日部活で使う楽譜を間違えて持ってきちゃったんだ。だからそれを渡しに行きたいんだ」
「へー。お姉さんボーダーじゃないんだね?」
「うん」

三門第一の校門が見えてくると、帰宅していく高校生たちとすれ違う。

「高校生って、やっぱ大人に見えるね!」
「そんな変わらないだろ」
「とりまるはたしかに大人っぽいけどさー!」

校門の前まで行くと、時枝があたりを見回す。

「どこにいる?」
「多分、そろそろ出てくると思う」

そう言って時枝が携帯を確認していると、校舎から小走りでこちらに向かって走ってくる女の人が見えた。

「充ー!」

その人は、手を振りながら笑顔で時枝の名前を呼んだ。

「姉さん。走ると危ないよ」
「大丈夫だよ。わざわざ本当にごめんね」
「ううん。通り道だし、大丈夫」

時枝はカバンから楽譜を取り出すと手渡した。

「はいこれ」
「ありがとう!今日から使うのになくてびっくりしちゃった」
「おれのカバンに入れてたら、そりゃあ見つからないよね」
「ふふ。2人は充のお友達?」

その人はそう言うと、俺たちの方を見た。
時枝に似た綺麗な茶色い髪と緑色の目。
目が合った瞬間、なぜが胸が苦しくなった。

「こ、こんにちは!み、充くんとは、いつも学校でもボーダーでも仲良くしてもらっています!」
「こちらこそ、充と仲良くしてくれてありがとう」
「いえ!あの、オレ、さ、佐鳥賢です!お姉さん、彼氏はいますか!?」
「え?」
「賢、怒るよ?」

その人は微笑むと「充の姉の女主人公です。ボーダーに入るって聞いた時は少し心配だったけど、素敵なお友達と一緒みたいで安心したよ。ちなみに彼氏はいません」と言った。

「そうなんですか!」
「姉さん、律儀に答えなくていいから」
「きみ面白いねー」

女主人公さんはそう言って笑うと、今度は俺の方を見て「えっと、きみは?」と聞いてきた。

「とりまる?」
「どうしたの?」

何も言わない俺を不審に思ったのか、3人が俺のことを見る。

「いえ…烏丸京介です。よろしくお願いします」
「烏丸くんと佐鳥くんだね。こちらこそ、これからも充と仲良くしてくれると嬉しいな」
「もちろんです!」

俺たちが話していると、校舎から今度は嵐山さんと迅さんが出てきた。

「嵐山さん!迅さん!」
「3人ともお疲れ!なんでここにいるんだ?」
「わたしのせいなの」
「時枝の?」
「わたしが部活で使う楽譜を充のカバンに入れちゃって。持ってきてもらったの」
「そうだったのか」
「嵐山さん、とっきーにお姉さんがいるのご存知だったんですね!」
「ああ。俺たちは同じクラスだからな!充の話もよく聞くよ」
「オレにも教えてくださいよー!」

俺が黙っていると、嵐山さんが話かけてきた。

「たしか、最近B級に上がった烏丸だよな?」
「ああ、きみが。たしかにイケメンだねー」
「どうも」
「B級?」
「ボーダーでは実力に応じて隊員たちがA級、B級ってわかれてるんだ」
「そうなんだ」
「時枝ちゃんはボーダーにあんま興味ないよね」
「そんなことないよ。充の所属してるところだもの。だけど、あんまり一般人にあれこれ言ったらダメなんでしょ?」
「そうだな」
「だから気になるけど、聞かないようにしてるの」

なるほど。
ボーダーに興味を持って、あれこれ聞いてくる人よりも断然好感が持てると思った。

「それに、嵐山くんや迅くんがいるんだから安心してるよ」
「それは光栄だな!」
「期待を裏切らないように頑張るよ」
「2人とも頼んだよ」

女主人公さんは時計を見ると「やばい!」と言った。

「そろそろ部活が始まる時間だから、行くね」
「姉さん、部活頑張ってね」
「うん!充も訓練頑張って。ケガだけはしないようにね」
「わかってるよ」
「烏丸くんも、佐鳥くんも頑張ってね」
「ありがとうございます!」
「はい」

そう言うと、女主人公さんは来た時と同じように小走りで校舎の中に戻って行った。

「じゃあ俺たちも行くか」
「まさかこのメンツでボーダーに行くことになる日が来るとはね」
「たしかにな!」

嵐山さんと迅さんが先を歩き、俺たちが後ろを歩く。

「さっきからとりまる静かだけど、どうした?」
「そうか?いつもと変わらないだろ」
「えー、そうかな?とっきーのお姉さんが来たときくらいから妙に静かだったような気がしたけど」
「…そんなことない」
「ごめん、姉さんうるさかった?」
「まったく。むしろ今までにない反応に新鮮だった」
「そう?」

俺と初めて話す人は、だいたい顔を赤らめるか、そこまでではなくても顔を凝視してきたり、何かしらのリアクションがある。
だけど、女主人公さんはそんなこと一切なく、ただただ一人の人間として普通に接してくれた。
それが新鮮で、嬉しかった。

「まあ、だいだいがとりまるの顔面に驚くよねー」
「烏丸はかっこいいからな!」
「それ、嵐山もだからね」
「そうか?」

先ほどのことを思い出すと、少しだけ口元が緩む。
そんな俺の表情を見ていたのか、迅さんが「おっ、なんだー?おまえ、時枝ちゃんに惚れたか?」と聞いてきた。

「え?」
「うんうん。いいと思う。時枝ちゃんはかわいいし、いい子だしな」
「ほぼ初対面の人間に何言ってるんすか」
「無自覚かー」
「自覚もなにも、別にそういうんじゃないです。だからそんな怖い顔で見るな、時枝」
「え?見てた?ごめんね」

隣を歩いている時枝が、いつもは眠そうにしている目をしっかりと開いて俺のことを見ていた。

「自分の気持ちには素直になれよー」
「余計なお世話っす」

本当、余計なお世話だ。
そう思いながら、俺は耳が熱くなっているのを感じていた。



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