それは、学校でもボーダーでも見られる姿で、誰も口には出さないが、二宮が女主人公のことを気にしているということは周知の事実だった。
そう、二宮の同期以外は誰も口にしなかった。
「二宮くん、そんなに見てると女主人公の顔に穴が開いちゃうわよ」
「開くわけねえだろ」
「見てることは否定しないのね」
「…」
「やっぱ二宮って女主人公のこと好きなんだなー」
「永遠に眠らせてやろうか?」
「こっわー」
「(…なんで俺はここにいるんだ…)」
加古と太刀川は、たまたま同じタイミングでラウンジに来て、たまたま先に座っていた二宮を見つけて絡みに行き、たまたま近くを通った三輪を巻き込んだ。
「ねえ三輪くん、二宮くんって意外と初心なのよ」
「はあ?」
「勝手なこと言ってんじゃねえ」
「あら、だって見ているだけで話しかけないじゃない」
「そもそも、俺は見てない」
「それは無理があんだろー。みんなにバレバレだって」
「三輪くんも気付いてたわよね?」
「(興味ないんで)知らないです」
「そうなの?」
みんなにバレバレ、という太刀川の言葉を聞いて、二宮は口に手を当てた。
「どうしたの?」
「…あいつは…気づいているのか?」
「あいつって?」
「…」
この女、という目で加古を睨む二宮。
「…女主人公だ…」
「女主人公は鈍感だから、多分気づいていないわ。気づかせてあげましょうか?」
「やめろ」
加古が余計なことを言わないように、二宮はすぐに否定する。
「別に俺は好きなわけじゃない」
「今更そんなこと言う?隠せてないからなー二宮」
「…おまえに言われるのが一番腹が立つな」
「えー」
二宮の話で盛り上がっていると、ラウンジから女主人公と辻がやってきた。
「面白いメンバーだね?」
「女主人公、ちょうどいいところに」
「何話してたの?」
「実は二宮くんの」
「おい」
加古が話をする前に二宮は女主人公の腕を掴むと「行くぞ」と言って、女主人公を引っ張る。
「え、ちょ、二宮くん?」
「女主人公ちゃん!」
辻が止める暇もなく、二宮は女主人公を引っ張りながらラウンジから立ち去った。
「まあまあ、辻も座れよ」
「…三輪がいるのめずらしいね」
「俺はこの人たちに付き合わされてるだけだ」
「お疲れ」
辻は太刀川と三輪の間に座って、なるべく加古から距離を取った。
「ねえ、辻くん」
「っひゃい!」
加古に話しかけられた辻は、顔を真っ赤にして返事をした。
「おまえは相変わらずだな…」
「うっ…だって…」
「ふふふ、これくらい可愛げがある方が私は好きよ」
「ヒェッ!」
「ね、女主人公から二宮くんのこと聞いてないの?」
「に、にの、みやさんですか…?」
「そう!女主人公から二宮くんの話題とかって出てないのかしら?」
「あ、と…う、その…」
「これじゃあ会話になんねーな。どうなんだ?おまえも二宮が女主人公に気があるのに気づいてんだろ?」
「それは…なんとなくそうなのかなとは思ってます」
加古の代わりに太刀川が辻に質問をする。
「ただ、本人は何も気づいてないです。二宮さんが話しかけてくるのも、たまたま同じ学校で、たまたま俺が二宮隊のメンバーだからだって思ってると思います」
「女主人公は鈍いものね」
「じゃあ全然脈なしってことかよー。ざまー」
「嬉しそうですね、太刀川さん」
「だってよー、二宮のやつなんでも持ってるじゃねーか。これで恋愛までうまくいったら面白くないだろ」
「太刀川さん…」
「でも二宮くんに連れてかれちゃったから、今頃少しは進展してるんじゃないかしら?」
「えー、してるか?あの二宮だぞ?」
「そうね。それに、相手があの女主人公だものね」
「え?」
「?」
加古と太刀川の言葉に、辻と三輪ははてなマークを浮かべた。
二宮に連れられて、女主人公は二宮隊の作戦室にいた。
「秘密の訓練したいならしたいって言ってくれればよかったのに」
「…いや」
「でも私、作戦室のパソコン使ったことないからわかるかなー。氷見ちゃん呼んできた方が早いと思うよ?」
「別に、訓練がしたくて来たわけじゃない」
「そうなの?」
「…おまえとゆっくり話がしたかっただけだ」
そんな二宮の言葉に、女主人公は少し驚いた顔をしたがすぐに笑顔になって「じゃあお喋りしよっか!」と言って、椅子に座った。
「二宮隊の作戦室って、こんな感じになってるんだねー!」
「ああ」
「あっちってオペレータールームだよね?見てもいいかな?」
「好きにしろ」
「ありがとう!」
そう言って、女主人公は奥にあるオペレータールームに入ると、棚に飾ってある恐竜のぬいぐるみを見つけた。
「これ、新ちゃんのでしょ?」
「他に誰がいる」
「やっぱり。新ちゃん、こんなところにまで恐竜連れてきてるんだね。かわいいなぁ」
女主人公の笑顔を見た二宮はつられて口元が緩むが、恐竜のぬいぐるみに夢中の女主人公は気づかない。
「何か飲むか?」
「ありがとう!紅茶がいいな」
「わかった」
二宮は給湯スペースに行くと、お湯を沸かし始めた。
「手伝おうか?」
「座ってろ」
「ありがとう」
女主人公は素直に椅子に座って二宮を待っていた。
二宮は紅茶を入れながら女主人公に話しかける。
「おまえは、チームに所属していないのか?」
「うん。してないよー。本部のオペレーターだよ」
「なぜだ?おまえほどのオペレーターなら、誘われるだろう?」
「うーん、ありがたいことに誘ってくれる子はいるんだけど、なんか違うなって思っちゃって」
「そうなのか」
「うん。ほとんどが私より年下で、ちょっとノリについていけないと言うか、場違いな感じがしちゃって」
二宮は紅茶を女主人公の前に置くと、女主人公の向かいに座る。
「ありがとう」
「意外だな。おまえは年下とも仲が良いだろう」
「それはね。普通にしてる分にはいいんだけど、一緒にチームってなると、なんか違うなって。それなら本部所属のオペレーターとして頑張ろうかなって思ったの」
「そうか」
女主人公は一口紅茶を飲むと「あ、でも」と言った。
「もし新ちゃんや、犬飼くん、鳩原ちゃんが二宮くんの元から独り立ちするってなって、二宮くんが1人になったら一緒にチーム組まない?」
「俺とおまえで、か?」
「そう!2人チームってなかなかいないだろうけど、二宮くんならきっといつまでも戦闘員として戦うんだろうなって思うから、一緒に組もうよ!」
「…ああ」
「あ、でも望ちゃんと太刀川くんも入れてもいいかもね!」
「断る。俺たちのチームにあいつらはいらない」
「えー!才能ある子が好きって言ってたのに?」
「それとこれは別の問題だ」
女主人公は二宮の言葉を聞いて「でも、たしかにの望ちゃんと太刀川くんも入れたらドリームチームすぎるよね」と言って笑った。
「それもある、が…それが理由じゃない」
「そうなの?」
「俺が…2人の方が何かと楽だろ。いちいち連携とか考える必要もねえ」
二宮は素直になれずそれっぽい理由をつけたが、そんな二宮の言葉を聞いて女主人公は特に気にした様子はなく、「そっか」と答える。
「じゃあ、いつか2人チームになったら、A級1位目指そうね!」
「今も目指してるけどな」
「そうだった。二宮くんたちが早く1位になれるように応援してるね!」
「ああ」
そう言って、2人は微笑んだ。
「あの二宮が素直に好きだーって言うわけないだろ」
「それもそうね。女主人公も、ハッキリ”付き合って”って言われても”どこに?”って答えるくらい鈍感だから、二宮くんの気持ちには一生気づかないでしょうね」
「女主人公ちゃんって、そ、そんなに鈍いんだ…」
太刀川と加古の言葉に、辻は衝撃を受けていた。
そして、まったく関係のない三輪は「(…本当に、なんで俺はここにいるんだ…)」と思っていた。