「おかえり!今日は女主人公ちゃんも一緒なんだね」
「おー」
「こんばんは、おばさん」
「二人ともお疲れ様!今日は店で食べてくのかい?」
雅人くんのお母さんに聞かれて「いいですか?混んできたら、部屋で食べますね」と答える。
「今日は平日だし、そこまで混まないと思うよ。もうすぐお店開けるから、少しだけ待っててね」
「はーい」
「なら部屋で時間潰してる」
「あんたは少しくらい手伝いなさいよね」
「気が向いたらな」
「雅人くんったら」
雅人くんはダルそうな声で返事をすると、そのまま2階に上がっていった。
「荷物置いたら手伝いますね」
「いいのよ。女主人公ちゃんはボーダーで疲れただろうし、ゆっくりしてて」
「ありがとうございます」
そう返事をして、私も雅人くんの部屋に向かう。
「入ってもいい?」
「おー」
雅人くんの返事を聞いてから部屋の扉を開けると、雅人くんは制服を脱いで部屋着に着替えている最中だった。
「ちょ!着替えてる途中じゃない!」
「はあ?今更んなことで恥ずかしがるのかよ」
私が恥ずかしそうにそう言うと、雅人くんは心底理解できないという顔をした。
「だ、だって…」
そう。
私たちは幼なじみで、昔から着替えなんてしょっちゅう見てきた間柄。
今更何を恥ずかしがることがある、という雅人くんの気持ちも分からなくはない。
だけど、私たちの関係はただの幼なじみから恋人同士に変わったので、私にとって、今の雅人くんは幼なじみでもあるけど一人の男の人。
だからこそ、雅人くんの裸を見るのはやっぱり恥ずかしい。
そんな私の感情が刺さったのか、雅人くんはニヤッと笑って上半身裸のまま私に近づいてきた。
「何考えてんだよ」
「わ、分かってるくせに」
「今までんな感情、刺してきたことなかったろうが」
「もう!嬉しそうな顔しないでよね!」
「俺のこと、男として意識してんだろ?そりゃあ嬉しいに決まってんだろ」
雅人くんは、私の頬を撫でると「顔、赤っ!」と言って笑いながら私から離れた。
「は、早く着替えてよね!」
「へいへい」
ベッドの上に置いてあったTシャツに着替えた雅人くんは「ちょっとババアのこと手伝ってくるから、女主人公はゆっくりしてろよ」と言って、下に下りて行った。
「まったく…」
ゆっくりしてろと言われて、一人だけゆっくりしているわけにはいかない。
私もかげうらの手伝いをしようと思い、部屋を出ようとするが、その時に机に置いてあった雅人くんのカバンを落としてしまった。
「あっ!」
落ちたカバンと、カバンから飛び出た紙を拾って机の上に戻す。
「あれ?これって」
カバンから飛び出たのは、三門第一高校で実施された身体測定の結果が書かれた紙だった。
「身体測定か、この前私たちも受けたな」
無意識に雅人くんの身体測定の結果を見て、私は「えっ…!」と固まってしまった。
正確に言うと、雅人くんの体重の欄を見て固まった。
「た…体重…ウソ…」
雅人くんの身長は177p、私は162pで、体重がほとんど変わらないという事実を知ってしまった。
「え?ウソでしょ…。そりゃあ、雅人くんは男性としては細い方だけど筋肉はあるし…え、これ本当?」
何度見ても、体重の欄は同じ数字を示している。
ほとんど変わらないと言ったけど、ちゃんと変わる。
もちろん、私の方が軽いことは軽い。
だけど、同じ50s台という事実を私は受け入れられなかった。
「…お好み焼き食べてる場合じゃないわ。ダイエットしないと…!」
私は、身体測定の紙をそっと雅人くんのカバンの中に戻した。
「女主人公、準備できたぜ」
「あ!ま、雅人くん」
「あ?何してんだ?」
「あ、あの…」
「どうした?」
なかなか話し出さない私を見て、雅人くんは首を傾げた。
「ハラ減ってんだろ?さっさと食おうぜ」
「ダ…」
「ダ?」
「ダ…だよね!食べよう。お腹空いたー」
「おー」
ダイエットは明日からにして、今日は最後のお好み焼きを堪能しよう。
こうして、私のダイエットが始まった。
朝はしっかり食べて、お昼と夕飯は炭水化物を抜くという簡単なダイエットをすることにした。
そうすることで、最初はスルスルと体重が減っていって、結果が見えるからやる気も出た。
だけど、順調に減っていた体重も、なかなか減らない停滞期に入ってしまい、思うような結果が出なくなってきた。
「うーん…減らないなぁ」
毎朝、日課の体重測定で変わらない数字を見て私は頭を抱えた。
「せ、せめて…50sは切りたい…」
そんな目標を立てていたが、毎日の通学、授業、ボーダー、と消費カロリーに対して摂取カロリーが足りていないせいか、体がふらつく時が出てきてしまった。
「あー…お腹空いた」
今までしっかり食べていたお昼や夕飯の量が減り、ヒカリちゃんやゾエくんとの作戦室でのお菓子パーティーも断り、国近さんや今さん達との女子会も断っているから、どう考えてもお腹が空く。
「だけど…さすがにあれはショックだったなー…」
雅人くんが軽すぎるのがいけないんだ。
心の中で、そう悪態をつくが、そんなことを言っていても仕方がない。
「これだけ毎日食べずに動いてるんだから、もう少し痩せてもいいと思うんだけどね!」
私はため息をつきながら学校に向かう。
「女主人公、おまえ顔色悪くないか?」
授業が終わり、ボーダーに行こうと荒船くんを誘ったら、心配そうな顔をした荒船くんにそう言われた。
「そう?」
「ああ。そういえば、今日も昼どっか行ってたろ?」
「読みたい本があって」
「ここ最近、毎日そう言って図書室行ってるだろ?ちゃんとメシ食ってんのか?」
荒船くんが怖い顔で聞いてくるけど、一応食べてる。
「食べてるよ」
「何食ったんだよ?」
「えーっと…」
「…おまえ、変なダイエットとかしてるんじゃねーだろうな」
「変って…別に変じゃないわよ」
こういう時、荒船くんは鋭い。
「別にダイエットするなとは言わねぇけど、やり方を間違えんなよ。やるならちゃんと調べてから」
「分かってるよ。大丈夫」
「大丈夫じゃねぇから言ってんだろ」
「もう…いいでしょ!ほっといてよ」
「あ!おい、コラ!」
空腹でいつものように感情のコントロールが上手くいかない。
私は荒船くんを置いて、走って教室を出た。
ボーダー本部への地下通路を通って中に入ると、立ち眩みがした。
「(ヤバ…走ったから…)」
私は急いでトリガーを取り出すと「トリガーオン」と言って、トリオン体に換装した。
「ふぅ…」
トリオン体に換装すれば、なんとか動けそう。
「ふぅ、じゃねえよ!」
そんな私の肩を掴んだのは、教室に置いてきたはずの荒船くんだった。
「足が速いね、荒船くん」
「ふざけんな」
「さっきは八つ当たりしてごめんね」
「そういう事を言ってんじゃねーんだよ」
私たちが言い合っていると、雅人くんとゾエくんがやって来た。
「あ?何してんだよ」
「雅人くん、ゾエくん」
「二人ともお疲れ様ー!」
「おい、カゲ!女主人公のやつ…」
「ちょ!荒船くん、ストップ!」
私は荒船くんが余計な事を言う前に止めようとするが、その前に雅人くんが「女主人公」と私の名前を呼んだ。
「ん?」
「換装解け」
「な、何で?」
「いいから」
「…」
「…女主人公」
雅人くんがジッと私のことを睨むように見つめてくるので、私は観念して「トリガーオフ」と言ってトリオン体を解除した。
「…ホラ」
トリオン体を解除した私に、雅人くんは両腕を広げた。
「…もう、何で分かっちゃうのかな」
「バレバレなんだよ」
私はそのまま雅人くんの方に倒れていき、そんな私の体を雅人くんは抱きとめてくれた。
「お、おい!女主人公!?大丈夫か?」
「女主人公ちゃん!?」
「んな声出してんじゃねーよ。こいつはただ」
「お…お腹空いた…」
そう言った瞬間、私は意識を手放した。