「起きたか?」
「…雅人くん…」
雅人くんの肩に寄りかかるようにして眠っていたようで、私は体を起こす。
どうやらかげうらまで運んでくれたらしい。
目の前には、心配そうな顔をしているゾエくんと呆れた顔をしている荒船くんがいた。
「美味しそう…」
鉄板で美味しそうな音を立てて焼かれているお好み焼きを見たら、お腹が鳴ってしまった。
「も〜!!いきなり倒れるからゾエさん心配したよ〜!」
「やっぱり無理なダイエットしてたんじゃねぇか!」
「返す言葉もありません…」
私がシュンとしていると、雅人くんが私の頭に手を置いた。
「心配かけんな」
「ごめんね」
「ちょっと待ってろ」
そう言うと、雅人くんは一旦席を立った。
「それで?何でダイエットなんかしてたんだよ」
「それは…」
「ダイエットなんかする必要ないよ〜!美味しい物たくさん食べないと、人生損しちゃうよ!」
「ゾエくん…」
ゾエくんの大きなお腹を見て、私は思わず笑ってしまった。
「ほらよ」
そこに雅人くんが戻って来た。
「これは?」
「卵スープ。いきなりお好み焼き食べたら胃がビックリすんだろ」
「ありがとう」
私は雅人くんが持って来てくれた卵スープを一口飲む。
じんわりと温かいスープが胃の中に広がって、思わず「美味しい…」と呟いた。
「さっき女主人公が倒れた時、カゲは冷静だったな?」
「ね!ゾエさんたちだけ慌ててた気がする」
「あ?んなもんこいつの顔見れば、ただの腹減りだって分かんだろ」
「いや、さすがに分かんねーよ」
「さすがカゲだね」
私は卵スープを飲み干すと「お好み焼き食べていい?」と雅人くんに聞く。
「もう少し待て」
「はーい」
雅人くんはお好み焼きへのこだわりが強いので、私は大人しく従うことにした。
「ほら、皿貸せ」
「はい」
雅人くんのGOサインが出たお好み焼きがお皿に乗る。
「お好み焼き久しぶりだ〜」
「最近全然うち来なかったろ」
「うん」
「カゲは知ってたの?女主人公ちゃんがダイエットしてるって」
「あ?知らねーよ」
「なら、なんで女主人公が腹減ってるって分かったんだよ」
荒船くんがそう聞くと、雅人くんは「だから、さっきも言ったろ?顔見りゃ分かる」と、さも当たり前のような顔で答えた。
「さすが幼なじみー」
「敵わねぇな」
「けど、なんでんな無理なダイエットしてるのかは知らねーよ」
雅人くんは私の方を見て「とっとと白状しろ。なんでダイエットなんかしてんだよ」と眉間にしわを寄せながら聞いてくる。
まさか、雅人くんの体重を知ってダイエットをしているなんて言えない。
「もうすぐ夏だからね」
「夏終わんだろ」
「もうすっかり涼しくなってきたねー」
「そこ、余計なことを言わない」
目の前の座る二人が余計なことを言う。
「今まで体重なんか気にしてなかっただろ」
「そうだけどさー…」
「女がダイエットを決心する時は大体がくだらねえ理由だろ」
「荒船くん、今のセリフは全世界の女性を敵に回すわよ」
「荒船くん、オブラート、オブラート!」
私がキッと荒船くんを睨むと「なら言えんだろ?理由」と聞いてくる。
「うっ…!」
「ほら見ろ。言えねーってことは、くだらないことなんだろ」
「あ、荒船くんが優しくない…」
「元々荒船はこんなだろ」
「だねー」
荒船くんは「こいつがバカなダイエットなんかするのが悪い」とバッサリ斬った。
「まあ、言いたくねーなら別に無理に聞かねーけど、ダイエットすんならちゃんと考えてしろよ」
「…雅人くんだって、体重の軽い子の方がいいでしょ?」
「はあ?」
私がボソッとつぶやいた言葉を聞いて、雅人くんが怪訝そうな顔をした。
「おまえ何言ってんだ?」
「だって!」
「何?」
私はうつむいて「…ほとんど変わらなかったんだもん」と言った。
「何が?」
「…」
「何が変わらなかったんだよ?」
「…」
「女主人公?」
私は顔を上げて雅人くんの方を見ると「体重が!雅人くんと私!ほとんど変わらなかったの!」と一思いに答えた。
「…はあ?」
「んなわけねぇだろ」
「そんなわけあるのよ!」
「そ、そうなの?」
ポカンとした顔の三人に、私は「女の子に夢見すぎ!みんな女の子は体重40s台が普通だと思ってるんでしょ」と言った。
「つまり、カゲの体重が50s台ってことだな」
「それはカゲ痩せすぎだよー!」
「それは同感だな。俺より背が高いのに、俺より体重軽いってどういうことだよ」
「身長変わんねーだろ」
「体質か」
「体質だな」
二人はそう言うと、私の方を見た。
「何?」
「カゲは体質だから気にすんなよ」
「体重なんか、誰にも気にしねーだろ」
「ここに気にしてる人がいるんですけど」
「女主人公ちゃんは全然太ってないよー!それよりもちゃんとご飯食べて。今日みたいにまた倒れたらって思うと、ゾエさん心配だよ」
そう言ってくれるのはありがたいけど、私も女としてのプライドがある。
「せ、せめて40s台になりたいの」
「身長いくつだ?」
「…162」
私が答えると、荒船くんは携帯を取り出して何やら調べ物をしている。
「…あー、やめとけ。おまえの身長で40s台は痩せすぎだ」
「モデル体重ってことか」
ゾエくんも荒船くんの携帯をのぞき込んでそう言った。
「今だって50s台とか言って、どうせ50s前半だろ?」
「そ、そうだけど…」
「ならなんも問題ねーだろ。いたって健康、むしろ美容体重って書いてるぜ?」
「う…」
「カゲの体重気にすんのは勝手だけどよ、体重なんてただの数字だろ?もっと健康的に運動して、引き締めた方がよっぽどいいだろ」
荒船くんの言うことはごもっともすぎて何も言い返せない。
私は雅人くんの方を見て「…本当に気にならない?」と聞いた。
「そりゃあ、ゾエみたいになったら気にするけどよ」
「え!?ゾエさん気にされてたの!」
「おめーは太りすぎだ!女主人公は全然普通だろ。何気にしてんだよ、バーカ」
「だ、だって…」
「何キロだろうがおまえはおまえだろ。んな小せーこと気にしてんなら、俺の作ったお好み焼きを旨そうな顔で食ってくれる方がいいだろうが」
雅人くんのその言葉を聞いて「本当?」と、私はもう一度確認する。
「ウソ言ってるように思うか?」
「…思わない」
「ならとっとと食え!まだまだ焼くから、残さず全部食えよ」
「うん!」
雅人くんは席を立つと、厨房の方に歩いて行った。
さらにお好み焼きを焼くために、タネを用意しようとしてくれているんだろうな。
私が笑顔で雅人くんの後ろ姿を見送っていると、荒船くんが「おーおー、幸せそうな顔して」と言ってきた。
「数字に縛られちゃダメね」
「だからそう言ってんだろ。そもそも、少し太ったくらいでカゲがおまえのことを嫌いになるわけないだろ」
「ゾエくんくらい丸くなっても大丈夫そうね」
「女主人公ちゃんがゾエさんくらい丸くなったら、ゾエさんがビックリだよ」
焦ったように言うゾエくんに「さすがにここまでになる前に止める」と、荒船くんが言う。
「ここまでおまえのことを運んだのはカゲなんだぜ?しかも生身で。カゲが運べるうちは大丈夫だろ」
「雅人くん…」
後でお礼を言っておかないと。
「逆に雅人くんに悪いことしちゃったかなー」
「何で?」
「雅人くんだって、好きで痩せてるわけじゃないかもしれないじゃない」
「まあ、それはな。けど、あれはあいつの体質なんだから、それこそ気にしてても仕方ねーだろ」
「そうだけど…。私は余計なことを言ったばかりに傷付けちゃってたら申し訳ないな」
「本当に気にしてたら本人が言うだろ。言ってこないってことは気にしてないってことだろ」
「…そっか」
たしかに、荒船くんの言う通りだ。
私が、これ以上雅人くんの体型や体質に関して何か言う必要はなさそう。
「それに、気にしてんなら良い案があるぜ!」
「な、何…?」
荒船くんが良い笑顔で何かを提案してくる時は、大体良くないことだというのは今までの経験から知っている。
だけど、一応聞いておこうかな。
「おまえら一緒に俺が作る筋トレメニューをやるんだよ。体が引き締まって綺麗に見えるし、カゲは筋肉がついて体重も増えるし、一石二鳥だぜ?」
「おお〜」
荒船くんにしては珍しく、本当に良い案を提案してくれた。
「何か失礼なこと考えてんだろ?」
「いえいえ。そんなそんな」
「俺のメニューで穂刈も筋トレしてるからな。効果は間違いないぜ?」
「それはー…やっぱり遠慮しておこうかな」
最近の穂刈くんの体を思い出すと、ムキムキすぎるからやめておこう。