闇を照らす光になりたい

おれが女主人公ちゃんに初めて会うたんは、中学3年生の3月。
正隊員になって半年くらい経ったくらいやったな。
ボーダーがネイバー侵攻の被害を受けて身寄りのない子ども達を引き取って育てる、ボーダーの養護施設、”ボーダー園”に慰問した時。
根付さんに連れられて、生駒隊の5人で初めてボーダー園の中に入った時は、独特の雰囲気やなという当たり障りのない感想が出るくらい、おれにとっては慰問は仕事という感覚やった。

「おっ、どうしたんや?ボクら?」

イコさんと水上先輩が子どもたちの前で漫才しとると、隣の部屋で本を読んどる子たちがおったから、おれは何気なく声をかけた。

「こっちで一緒に遊ばへんの?」
「べつにいい」
「だって、あんたらもうこないじゃん」

そんなことを言われるとは思わなかったおれは、あっけにとられた。

「女主人公ちゃんも、慰問にくるボーダー隊員には期待しないほうがいいって言ってた」
「女主人公ちゃん?」

おれがそう聞くと、女の子達がリビングに入って来る。

「おお、女主人公ちゃん、おかえり」
「梨香ちゃんも、一緒に買い物ありがとうね」
「戻りました」

梨香ちゃんと呼ばれたんは、漆間隊の六田ちゃん。
ボーダー本部でも見たことがあったけど、話したことはなかったからボーダー園に住んでいたとは知らんかった。
もう一人の女の子は、見たことがなかった。
その女の子は右手に杖を持っていた。

「こんにちは。今日遊びに来てます、生駒隊の生駒です」
「同じく水上です」
「南沢っす!よろしくです!」
「オペレーターやってます細井です」
「…はあ」

女主人公ちゃんと呼ばれた女の子は、イコさんたちの自己紹介を聞いてもめんどくさそうに返事をするだけだった。

「あれ?お気に召さない感じやな?隠岐ー!ウチの一番のイケメンの出番やで!」
「イコさん、ちょっと空気を読みましょう…」
「なんでや!女の子は、みんなイケメンが好きやろ?」

そう言うと、イコさんは隣の部屋にいたおれを見つけると「お、隠岐!出番やで」と言ってリビングに呼んだ。

「生駒隊の隠岐です。よろしく〜」

おれが自己紹介をすると「…初めまして。さようなら」と言って、女主人公ちゃんは隣のキッチンに行ってしまった。

「あらら、隠岐くらいイケメンでもアカンかったか」
「イコさーん…」
「なんやねん、感じ悪いな」
「マリオ先輩!そういうこと言ったらダメっすよ!」
「そ、そうやけど!」

ボーダー園の園長が「み、みなさんすみません。女主人公ちゃん、良い子なんですけど…ネイバー侵攻で家族や友人を失ってしまって…」と教えてくれた。

「そうですか。俺たちは全く気にしてないんで、園長も気にせんといてください」
「ありがとうございます」

おれは園長さんの話を聞きながら、リビングとキッチンの扉から時折見える女主人公ちゃんの横顔を何度も盗み見していた。





「あっ…」
「…」

女主人公ちゃんとの再会は意外とすぐに来た。

「女主人公ちゃんやんな?同じクラスやねんな」
「…どうも」

高校1年生になり、三門第一に入学したおれは、教室の中で女主人公ちゃんのことを見つけた。

「席も隣やな」
「…」

女主人公ちゃんは無言でカバンから本を取り出すと、そのまま本を広げて読み始めた。

「女主人公ちゃん、同い年やってんな。あ、勝手に女主人公ちゃんって呼んどるけどええ?」
「…ご自由にどうぞ」
「ほなそうさせてもらうわ〜。おれ、隠岐な。隠岐孝二。去年大阪から越して来てん」
「…」
「ボーダー以外に知り合いおらんから、女主人公ちゃんと知り合えて嬉しいわ〜」

おれがそう言うと女主人公ちゃんは「…分かったので少し黙っていてもらえますか?」と言ってきた。

「ええー。まだ先生も来うへんし、もう少し一緒にお喋りせん?」
「一緒に、というか、一人で喋っているだけだと思いますが」
「でも、会話になってるやん」

おれが笑ってそう言うと、女主人公ちゃんはあきれた様にため息をついて「…勝手にしてください」と言った。

「勝手にさせてもらうわ〜。そや!おれ、また休みの日に園に遊びに行こうと思っとるからよろしくね」

おれがそう言うと、女主人公ちゃんは本をバンッと机に置いた。

「…あの、あんまりそういうことするのやめてもらえますか?」
「え?」
「あなたの目的が何なのかわからないですけど、あの子たちに変に期待させるようなことはやめてください」
「変な期待って?」
「どうせ、私たち孤児のことを…”可哀想”だとか”守ってあげなきゃ”とか、そういう偽善的なことを考えているんじゃないんですか?」

女主人公ちゃんの言葉に、おれは「そ、そんなことは…」と言いかけたが、すぐに否定ができなかった。

「どうせ、その場だけの自己満足になって終わるんですから、これ以上私たちに関わらないでください。一回の慰問で結構です」

そう言うと、女主人公ちゃんは本を広げて読書を再開させた。



次の休み、おれは宣言通り園に顔を出した。

「また来たで〜!」

おれを見て、最初は怪訝な顔をしていたチビたちが、訪問を重ねるにつれてどんどんなついてくれるようになってくるのが、純粋に嬉しかった。
だけど、女主人公ちゃんとはいつまで経っても距離は縮まらんかった。

「隠岐、また休日に連絡つかんかったやろ。何やってるん?」
「えー。色々やってますよ」
「なんで誤魔化すん?やっぱり彼女なん?」
「隠岐先輩、彼女いたんすね!」
「いやいや、いませんよー」

おれが休みの日に園に行っていることは、生駒隊のみんなには内緒にしている。
なんとなく園に顔出すんわタブーなんかなって思っとったけど、たまに来る城戸司令や、忍田本部長、鬼怒田さん、それに玉狛支部長さんたちに何も言われへんから別にみんなに言ってもええかなとは思っとるけど、別にええかなって。

「明日は休みやけど、隠岐はなんか予定あるん?」
「そうですねー」
「イコさん、隠岐に聞いても答えませんよ」
「ほんっま、あんたは秘密主義やな」
「いやいや〜」

イコさんたちに色々言われたけど、おれは明日も1人で園に顔を出す。



「そう言えば、最近女主人公ちゃん見ぃへんけど、どないしてるん?」

園でチビたちに聞くと「こーじ、知らないのか?」と聞いた。

「女主人公ちゃんひとりぐらしするんだよ」
「え?そうなん?」
「おう。もう17になるし、ここにいられるのは18歳までだからな。早めに一人の生活になれたいんだって」
「知らんかった…」

おれが驚いた顔をすると、チビが「こーじって、本当に女主人公ちゃんにきらわれてるんだな」とバッサリ言われた。

「き、嫌われてるんかなーやっぱり…」
「まあ好かれてはないよね」
「うっ…!」

チビは「まあしかたないんじゃない。女主人公ちゃんはあのネイバー侵攻でたくさんのものを失っちゃったからね」と言った。

「…達観しとるなー、ホンマに小学生なん?」
「おとなになんなきゃやっていけないよ」
「2人とも苦労したんやな…」
「まあね。でも、おれたちにとってはもうここがホームみたいなもんだし、そこまで気にしてないかな」
「けど女主人公ちゃんは家族も家もともだちも、それに左足も失っちゃったからね…」

チビの言葉に「左足も?」と聞いた。

「あれ?しらないの?」
「こーじは本当に女主人公ちゃんのこと何も知らないな」
「イチイチ棘があるやん」

たしかに杖を使っているから足が悪いのだとは思っとったけど、まさか左足がないとは思ってもみなかった。

「女主人公ちゃん、左足はぎそくだよ」
「義足…」
「ガレキに足が挟まっちゃって、きるしかなかったって言ってたよ」
「…そうなんか…」

おれが何とも言えない表情をしていると「だけどさ、こーじ。女主人公ちゃんは”かわいそう”じゃないからな」とチビが言う。

「え?」
「おれたちは、別にかわいそうじゃない。そんな風におもわれてるのって意外と伝わるから、こーじも気をつけなよ」
「…す、すまん」
「別に。こーじが悪いヤツじゃないってことはわかってるから気にすんな!」
「だけど、こーじが女主人公ちゃんに嫌われてる理由はそこにあるのかもね」
「だな!どうじょうしんがダダモレだ」

おれは両手で頭を抱えながら「なんでそんな難しい言葉知っとんねん…」とやってしまった感ダダモレの声で呟いた。



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