おれはA組で女主人公ちゃんはD組。
クラスが別々になったことで、おれらは全く接点がなくなってしもうた。
「ボーダーでも一緒、クラスも一緒やん。イヤやわー」
「まあまあ細井さん、仲良しってことじゃない」
「そんなんちゃうから!やめてや!」
「賑やかなクラスになりそうやな〜」
A組にはマリオと里見がおる。
女主人公ちゃんのD組には、たしか三輪と三浦と仁礼さんがおった気がする。
「そや。今日防衛任務ないやろ?イコさんが作戦室でタコパしたい言うてたで?」
「あー、そういやそんなこと言っとったなぁ」
「さすが関西人!やっぱりみんなタコ焼き機持ってるんだね」
「関西人で一括りにせんといてや!まぁ、みんな持っとるけど!」
「せやなぁ」
おれは「後から合流するから、先に帰っといてくれてええで」とマリオに言った。
「はいはい」
放課後になると、おれはD組に向かった。
教室の外から中を覗くと、女主人公ちゃんが三輪と仁礼ちゃんと話をしている姿が見えた。
2人には笑って会話をしているのがわかって、おれは内心ショックを受けた。
「(あんな風に笑って話すんやなー…。おれにはいつも仏頂面やったのに…)」
面白くない。
なんでかわからんけど、出て来た感情はそれやった。
「お!隠岐じゃねーか。何してるんだ?こんなとこで?」
「仁礼ちゃん、いつも元気やね」
「おう!それがアタシの取り柄だからな!」
いつの間にか仁礼ちゃんと三輪が教室の外に出てきていたのをおれは気づかんかった。
「うちのクラスに何か用か?」
「いや、用ってほどやないんやけど…」
「何だよ隠岐ー!おまえさてはお目当ての女子でもいんのかァ?」
仁礼ちゃんにそう言われて、おれは内心ドキリとしたけど平然を装った。
「あはは、仁礼ちゃんおもろいこと言うやん〜」
「用がないなら行くぞ。俺たちはこれから防衛任務だ」
「そうだった!じゃあまたな隠岐!」
「おん。防衛任務頑張ってなー」
そう言って、おれは2人を見送った後、もう一度D組の教室の中を覗く。
女主人公ちゃんは掃除当番だったようで、何人かの生徒たちと一緒に掃除の準備をしとった。
ただ、杖をついて歩いている女主人公ちゃんは、箒を使うことに慣れていおらんみたいで動きがぎこちない。
見かねた他の女子生徒が女主人公ちゃんに近づくと、手を出した。
「苗字さん。大変だろうから掃除、大丈夫だよ」
「でも、掃除当番だから」
「いいのいいの!気にしないで」
そう言うと、その女子生徒はチラッと目線を女主人公ちゃんの左足に向けた。
「掃除くらい私たちでやるから。苗字さんは先に帰っていいよ」
「…わかった…。任せちゃってごめんね」
「全然!気にしないで。気をつけて帰ってね」
女主人公ちゃんはうつむいたまま手に持っていた箒をその女子生徒に渡して、自分の席に戻るとカバンを持って教室の外に出て来た。
「っ!」
「あ…」
外にいたおれと目が合うと、女主人公ちゃんは顔を歪めておれから顔を逸らして反対方向に歩いて行った。
これが、チビたちの言ってた”同情心”か…。
そう思ったおれは、咄嗟に女主人公ちゃんの後を追った。
「女主人公ちゃん!」
「…」
「クラス変わってしまったから遊びに来たでー」
「…」
「三輪と仁礼ちゃんと仲ええんやな。2人ともボーダーやとおれの大先輩やからおれ、今でも喋る時少し緊張すんねん。同い年なのに変やろ?」
「…」
何を言っても返事をしてくれない女主人公ちゃんに、おれは構わず話しかけ続けた。
「よかったら一緒に帰らん?チビたちから聞いたけど、一人暮らししてるんやろ?買い物とか掃除とか、手伝えることがあればなんでもやるで?」
おれがそう言うと、女主人公ちゃんが急に立ち止まった。
「女主人公ちゃん?」
女主人公ちゃんは顔を上げると、おれに向かって持っていたカバンを投げつけてきた。
おれに当たったカバンは、そのままおれの足下に落ちた。
「女主人公ちゃん?」
「…さっきから、なんなの…。あんたもさっき、教室の中で私がどんな対応されてるのか見てたでしょ?それなのに、あんたも私に同情するの?」
「…そ、そういうわけや…ないけど…。そう感じさせてしまったんなら謝るわ。ごめんな」
「別に謝ってほしいわけじゃない。そういう対応されるのは、もう慣れてるから」
女主人公ちゃんはそう言うと、スカートのスソをめくって太ももを見せた。
「ホラ、見ればわかるでしょ?この通り、私は義足なの。ボーダーの技術のおかげで、生身に限りなく近い見た目の義足だから、気づかなかったんだろうけどね」
「女の子がそんな風にしたらアカンよ」
「ハッ!女の子?誰が私みたいなのをそういう目で見るの?左足もない、脱いだら肩から背中にかけて大きな火傷の跡があるの。見せてあげようか?」
「そんなんせんでええから…」
おれがそう言うと、女主人公ちゃんは鼻で笑う。
「あんたはいいよね!あの惨状を知らないんだもの。4年前のあのネイバー侵攻で…私が…私たちが何を失ったのか…。関西の、遠いところから来て慰問しに来ただけでわかった気にならないでよ!」
「…それはその通りや…。わかった気になってたのかもしれん…。そんなおれの態度が女主人公ちゃんのことをイラつかせとるんやったら、ホンマにごめん」
「だったら」
「けど!」
おれは女主人公ちゃんが何かを言う前に話を遮った。
「それでもおれらはボーダーにスカウトされてこの町にやって来てん。三門市を、みんなを守るために」
「…あんた1人の力で何ができるのよ」
「おれ1人の力でできることは少ないと思う。けど、ボーダーにはたくさんの隊員がおって、まだまだこれからも増えていくやん?1人じゃできなかったことも、組織ぐるみで動けばきっと大きな力になるで?」
「…あっそ。なら好きにすれば。私は関係ないから」
女主人公ちゃんはおれの方に歩いてくると、おれの足下に落ちとったカバンを拾った。
そして、そのまま回れ右して帰ろうとするから、おれは女主人公ちゃんの腕を掴んで慌てて引き留めた。
「ちょ、待ってくれへん?」
「離してよ!」
「女主人公ちゃんは、何でそんなにボーダーに嫌悪感みたいなんを抱いとるん?」
「…あんたに関係ないでしょ」
「関係ないかもしれへんけど、おれかてボーダー隊員やし、この1年ちょっと、園に顔出しとってめっちゃ違和感あってん。女主人公ちゃんが異様にボーダーを毛嫌いしとるなって」
「…大っ嫌いよ…ボーダーなんて…」
そう言うと女主人公ちゃんは下を向いた。
「何でなん?」
「…私のお父さんとお母さんを助けてくれなかったから…」
「え?」
女主人公ちゃんは「…私、倒壊した家の瓦礫に左足が挟まって身動きが取れなくなってたの…。私のことなんて無視して逃げればいいのに、お父さんとお母さんは私を助けようと必死になっていたわ」と話し始めた。
「…そこに、あのネイバーがやって来た…。私の目の前で2人はそのネイバーに殺されたのよ…。私のせいで…。私も殺される、ってところでボーダー隊員が来てネイバーを倒したわ」
「…そうやったんか」
「あと少し…あとほんの少しだけでも早く来てくれれば、お父さんたちは助かったかもしれない…。そう思ったら、感謝の気持ちもあるけど恨んでいるのよ」
「…そうやったんやな…」
女主人公ちゃんはうつむいていた顔を上げると、おれのことを睨んだ。
「それならいっそのこと、私も死なせてくれれば良かったのに!!中途半端に私だけ助けてくれなくて良かった!!」
その言葉を聞いた瞬間、おれは思わず女主人公ちゃんの頬を叩いてしまった。
「…ッ!な、何すんのよ!!」
「…そんなこと…」
「何!?」
「…そんなこと…言うたらアカン…」
おれは女主人公ちゃんのことを見ながら「せっかく女主人公ちゃんのご両親が助けたいって思った女主人公ちゃんの命を、そんな風に言うたら絶対アカン!」と思わず叫んだ。
「あ、あんたに何がわかるのよ!」
「そりゃあ全部はわからんよ!女主人公ちゃんの気持ちも、ご両親の気持ちも!でも、この1年間、女主人公ちゃんのことを学校でも園でも見てきたやん。女主人公ちゃんが頑張っとることはよーくわかっとるよ!」
「っ!」
「ホンマは、死にたかったって思うくらい辛かったって、言ってくれなきゃわからんやん」
「い、言ってどうすんのよ!どうにかしてくれるわけ!?」
「女主人公ちゃんの心の負担を軽くできるように、できる限りのことはしたいと思っとるよ。話を聞いたり、辛い時に傍におったり…むしろそれくらいしかできへんけど…」
「…ちょ、ちょっと」
女主人公ちゃんが驚いた表情をしたのが見えたけど、おれは気にせず思ったことを伝える。
「女主人公ちゃんを助けたいって…生きてほしいって願ったご両親が悲しむやん!おれかて悲しいわ…そんな寂しいこと言わんといて」
「…な、なんであんたが泣いてんのよ」
女主人公ちゃんに指摘されて、おれは初めて自分が泣いとることに気づいて袖口で涙を拭う。
「あんま見んといてや」
「…ごめん」
女主人公ちゃんは横を向いて「…初めて話したわ」と言った。
「おれでよければこれからも話聞くで?女主人公ちゃんのこと、もっとちゃんと知りたいねん」
おれがそう言うと、女主人公ちゃんはもう一度おれの方を見た。
「…ありがと、隠岐…」