03

さて、なんでおれがこんな昔話、って言うほど昔やないねんけど、そんな話をしているのかというと香取ちゃんに話をふられたからや。
おれらは今、閉鎖環境試験の真っ只中。
3日目ともなるとみんな環境にも慣れてきて、どうでもいい話も出て来るようになる。
まぁ、元々おれら諏訪7番隊は、そこまで真面目な話は最初からしとらんかったけど。
夕飯を食べながら、雑談をしていると香取ちゃんに「そういえば、隠岐先輩って怒ったり泣いたりするの?」と聞かれた。

「んー?どないしたん急に?」
「隠岐先輩ってずっとニコニコしてるから、怒ったりするのかなって」
「たしかにー。隠岐先輩が怒ったりするのって想像つかないかも」
「たしかにそうですね」
「人間なんだし、隠岐だって怒ったりすることもあるだろ」
「諏訪さんに聞いてないんだけど」
「俺が怒るぞ?」

おれはそんな諏訪隊の会話を聞きながら「そら、ありますよー」と答えた。

「え!あるんだ!」
「あるでー。人間やしな」
「想像できなーい。ちなみに何が原因で怒ったか聞いても?」
「おい、あんまりプライベートなこと聞くなよ」

諏訪さんは止めようとしてくれたけど、おれは気にせず答える。

「せやな、最近っていうてももう1年くらい前か。2年生になった頃、同級生の女の子にな」
「そうなの?」
「痴話げんか?」
「隠岐、おまえ彼女いたのか?」

諏訪さんに聞かれて「いや、彼女ではないですよー」と否定した。

「彼女ではないけど??」
「隠岐先輩は好きなんだ??」
「じょ、女性陣お二人がいつも以上に積極的ですね…」

三雲くんがそう言うと、香取ちゃんが「あったり前じゃない!あの隠岐先輩の恋バナよ!」とハイテンションで答えとる。

「まさか感情の話から隠岐先輩の恋バナになるとはねー」
「恋バナなのか?」
「さ、さあ…?」

香取ちゃんが「それで?それで?どんなシチュエーションだったか教えて!」とおれに質問してくるから「そうやなー…」とあの時のことを掻い摘んで話した。



「何そいつ!性格悪くない!?」
「それをおまえが言うか」
「諏訪さんは黙ってて!」

おれの話を聞いた香取ちゃんが騒いどる。
そういえば、なんとなくやけど女主人公ちゃんは香取ちゃんとちょっと似とるかもしれん。

「まあ、アタシもその人の気持ちはわからなくもないけど、それでも隠岐先輩に当たるのは違うでしょ!」
「まあまあ、でもわかり合えたってことだよね?」
「せやなー。おれはわかり合えたと思っとるけど、どうなんかな〜」

おれが笑って答えると「なんか、隠岐先輩楽しそうですね」と三雲くんに言われた。

「ん?楽しいで。こういう話は好きやからな」

おれは2回目の大規模侵攻の時を思い出しながら続きを話す。

「1月に2回目の大規模侵攻があったやん」
「ありましたね」
「そん時な、わざわざクラスが違うのにおれのクラスまで来てくれてん」
「え?」



***

2回目の大規模侵攻が始まった時、おれは学校におった。

「…緊急呼び出しやな」
「どないする?」
「せやな…とりあえず、水上先輩と海と合流しとこか?」
「そ、そやな!何かあったら隊のメンバーと一緒におった方が良さそうやしな」

おれは担任の先生に避難するようにと告げてから、マリオと一緒に教室を出た。
まずは海の教室に向かおうと廊下を歩いとったら、反対から女主人公ちゃんが急ぎ足でおれらの方に向かって来とることに気づいた。

「女主人公ちゃんやん、何しとるん?みんなと一緒に避難しといてや」
「…」
「どしたん?」
「隠岐、先行っとるで?」
「おん。すぐ追いつくわ」

マリオが空気を読んで先に行ってくれた。

「女主人公ちゃん?」
「…い、行くの?」
「ん?」
「…だから…ネイバーを倒しに行くの?」

女主人公ちゃんの声は震えとった。

「心配してくれてるん?」
「あ、当たり前でしょ!!また…大勢の人が亡くなるんじゃないかって…。それに、あんたも…隠岐も…」

不安そうにしとる女主人公ちゃんを安心させるように、おれは慎重に声をかける。

「女主人公ちゃん、おれな、ボーダーの中では結構優秀やねん」
「え?」
「成績もそこそこ上位やし、スナイパーやから最前に立つことはほとんどない。後方支援でちゃんとみんなのこと守ってくるから安心して待っといてや」
「…隠岐」

おれは女主人公ちゃんの頭に手を置くと「大丈夫やから。女主人公ちゃんのことも、町のこともちゃーんと守るから、安心してな」と言って頭を撫でる。

「…ちゃんと帰って来なかったら許さないからね」
「もちろん、約束すんで。ちゃんと女主人公ちゃんの元に帰って来る」
「…気をつけてね」
「女主人公ちゃんのその言葉で気合入ったわ!ほな、行ってくるから、女主人公ちゃんはちゃんと避難しとってな」
「…うん」

***



「まさかおれのこと心配して来てくれるとは思わんかったから、グッときてしまったわ」
「へー!あんなに毛嫌いしてたのに!」
「ギャップにやられちゃった感じだね〜」

おれの話を聞いていた三雲くんが「それで、隠岐先輩とその方はお付き合いをされていらっしゃるんですか?」と聞いてきた。

「んー、それがなぁ」
「え!まさか付き合ってないの?」
「えー!とってもいい感じなのに」

2人が騒いどると、諏訪さんがため息をつきながら「おい、おまえら。それ以上はやめとけ」と話に入ってくる。

「なんでよ!諏訪さんだって気にならないの!?」
「だから、これは隠岐とその子のプライベートな話だろ」
「えー!諏訪さんのケチー!」
「ケチとかじゃねぇんだよ」
「諏訪さん、大丈夫ですよー」

おれは諏訪さんに感謝しつつ、そのまま話を続ける。

「そう簡単な話やないねんなー」
「そうなの?」
「おん。おれはな、正直女主人公ちゃん、って言うんやけど女主人公ちゃんのこと、もっと知りたいと思っとるし、できればおれが女主人公ちゃんの心の拠り所になれたらええなって思ってんねん」
「それって、もう隠岐先輩は好きってことだよね!」

香取ちゃんにそう聞かれて、おれは「そうやなー。おれは女主人公ちゃんのことを支えていきたいって思っとるから、それはきっと好きってことなんやろなとは思うで」と素直に答える。

「わー!」
「キャー!」
「何か、引っかかっているんですか?」
「…そうやな。おれやなくて、女主人公ちゃんがな」
「え、なんで?」

諏訪さんが「全く…おまえら何もわかってねえな」とあきれた様に言うと、香取ちゃんがイラっとしながら「はあ?諏訪さんに言われたくないんですけど」と反論する。

「その子のこと、ちゃんと思い出してみろよ」
「その子のこと?」
「…足のこと…ですか?」

三雲くんがそう言うと、おれは「そうや。女主人公ちゃんな、そういうところが引っかかってるんやって」と教える。

「今はええけど、長くいればいるほど、自分の足のことを重荷に感じるときが来るって…自分は何も返せないからって今の友人の関係が一番ええって」
「そんな…足のことはその人のせいじゃないのに…」
「その子にとっては重たいことなんだろ」
「…ホンマ、そうみたいです。自分は幸せになる権利がないって…」

諏訪さんはおれのことを見ると「だがな、隠岐。本当にその子との未来を考えるなら、そういうところはちゃんと知っとかねーとだめだぞ。生半可な気持ちで付き合うのは、その子にとってもおまえにとってもマイナスだ」とアドバイスをくれた。

「はい。そこは、おれもちゃんと理解しとるつもりです」
「それならいいけどよ。まあ、おまえがそんな中途半端なことするようなヤツじゃねーってことはわかってっけど、一応な」
「諏訪さん、ありがとうございます」
「隠岐先輩、高校生なのに考え方が大人だよねー」
「女主人公ちゃんの横に立つには、おれも大人にならなアカンからなー」

香取ちゃんが「アタシは…隠岐先輩とその人が幸せになればいいなって思うよ」と言ってくれた。

「香取ちゃんは優しいなー」
「べ、別に!いつも隠岐先輩にはお世話になってるし、報われてほしいって思っただけ!」
「香取、ツンデレだね〜」
「う、うるさい!」

おれはこの部屋についているカメラの方を見て「って、言ってくれてる後輩もおんでー。はよ、おれの気持ちに応えてくれてもええんやない?女主人公ちゃん?」と問いかけた。

「え?」

そんなおれを見て、諏訪さんを除いた3人が驚いた顔をした。

「え!その人モニターで見てるの!?」
「その人ボーダーに入ってないんだよね?」
「入ってなかったんやけど、2回目の大規模侵攻の後、エンジニア枠でボーダーに入ってん」
「そうなの!?」
「あー、なんか最近優秀なエンジニアが入ったって、雷蔵が言ってたな」

おれは「この試験も、モニタールームでA級の人たちと一緒に見るって言っとったなぁ」と笑顔で答える。

「ってことは、さっきまでの会話も聞かれてたってこと?」
「せやで。みんながおれの恋を応援してくれとること、女主人公ちゃんにもしっかり伝わったから、ここから出るのが楽しみやわ」
「隠岐先輩、やるね〜」
「良い性格してんな」

多分、モニタールームで顔を真っ赤にしとる女主人公ちゃん。
女主人公ちゃんにやって、幸せになる権利はあるんやで?
だから、観念しておれと幸せになろうや。



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