「み、水上くんー、わたし本当に数日お風呂入ってないから汚いよー…」
「なんも気にすることないやろ?」
「でもねー、そこはわたしの乙女心が…」
「大丈夫やって、どんな女主人公でもホンマにかわええから心配せんでええよ」
「うー…。水上くん、乙女心がわかってないよー」
「んなもん知らんわ」
水上はそう言うと、女主人公に顔を近づけて口づけしようとするが、その前に女主人公が両手で水上の口を押さえる。
「…なんやねん」
「ちゅ、ちゅーするならせめて歯磨きさせて!」
「気にせんでええって言うてるやん」
「そこはわたしが気にするの!そこは断固拒否!」
「…はいはい」
女主人公の様子を見て、さすがに水上も諦めた。
「そ、それにさっきすみくんに何もしないって宣言してたでしょ!」
「…そうやったっけ?」
「忘れてる!?」
「一週間ぶりに会えたんやで?ホンマに何もせんと思っとったん?」
「もう!」
サラッと言ってのけた水上に、女主人公は顔を赤くした。
「ちゃんとお風呂に入って歯磨きしてからね!」
「お預けやな」
水上はそう言うと、女主人公の部屋にあるソファーに座り「そういえば、今日ボーダーの記者会見があるらしいんやけど、見る?」と聞く。
「ボーダーの記者会見?」
「おん。この前の大規模侵攻の結果報告するんやて。ただ、亡くなった人も何人かおって、連れ去れたC級もそこそこおるみたいやから、見たくないんやったら見ん方がええかもしれんけど」
「…わたしたちの成果ってことだよね…」
「せやな。まあ、マスコミは叩くんが仕事やから、穏便に終わるとは思えへんな」
「…でも、水上くんが一緒に見てくれるなら…見たい」
「…わかった。せやったら1時からやから、先にお風呂入って来たらええんちゃう?」
水上にそう言われ、女主人公は「そ、そうだね!そうする。水上くんはリビングで待ってて」と答えた。
2人揃ってリビングに下りて行く。
「お母さん、すみくん」
「女主人公!」
「女主人公〜!!やっと部屋から出て来た!」
「あ、あはは…ご心配おかけしました」
「本当だよ!!」
下りてきた女主人公を見て、犬飼は女主人公に駆け寄って抱きしめた。
「うー、すみくん苦しいー」
「あらあら。澄晴ったら、水上くんの前でいい度胸してるわね」
「ホンマですよね」
「うるさいなー!おれだって、この一週間全ッ然女主人公と会えなくてさみしかったんだから!」
「それは俺のセリフやな」
女主人公は犬飼を抱きしめ返すと「ご、ごめんねすみくん」と謝った。
「わたし、ボーダーの記者会見が始まる前にお風呂入ろうと思って」
「見るの?」
「ボーダーの記者会見なんてあるの?」
「うん。ちゃんと見ておかないといけないなって思ったから」
「そう」
「すみくん、水上くんのことよろしくね」
「うん」
そう言うと、女主人公はお風呂場に向かった。
女主人公がお風呂から出ると「女主人公、水上くんが持って来てくれたケーキ食べる?」と母親が聞く。
「食べる!お腹空いちゃった!」
「あなたちゃんとお昼ご飯食べたの?」
「夜に食べるね」
「全く…、心配かけないでよね」
「うん。ごめんね、お母さん」
1時になり、女主人公たちはリビングでケーキを食べながらボーダーの記者会見を見ていた。
記者会見には根付がマイクの前に立ち、防衛戦の結果報告をしていた。
『…報告は以上です。お手元の資料に、より詳細な数値が載っています。質問があれば受け付けます』
根付の他に、城戸、鬼怒田、忍田、林藤も出席している。
「ボーダー上層部、勢ぞろいやな」
「…通信室で…6人も…。あの時、わたしは本部の中にいたのに…」
「女主人公…」
「女主人公のせいやないで。だから、自分を責めんといてや」
「…うん」
テレビの中では、記者が根付に質問をしている。
『…それは戦闘の規模が大きかったから、40人程度は誤差の範囲ということでしょうか。行方不明の32人の中に、私の知り合いの息子さんがいるんですが、その親御さんにも同じことが言えますか?』
『行方不明になった32人の訓練生は、ネイバーの迫る戦線のすぐ近くで避難誘導の任に当たっていました。危険を顧みず最後まで前線に残った彼らの働きが、民間人の死者0という結果に繋がったと考えています』
女主人公はその言葉を聞いて「そ、そっか、今回の大規模侵攻では民間人の被害はなかったんだね…」とホッとした表情を浮かべた。
「そうだね」
「そうよ。あなたたちが頑張ってくれたから、私たちが安心して過ごせているのよ」
「だね。女主人公はあんまりマイナスに考えすぎちゃダメだよ」
「…そうだよね」
そして記者会見は訓練生のトリガーに緊急脱出、いわゆるベイルアウト機能が装備されていないことを指摘した。
『トリガーの数が足らんからに決まっとろう!全員に付けられるもんなら付けとるわい!』
「それはそう」
「珍しく鬼怒田のおっさんがええこと言うやん」
その話が出た後、別の記者が、今回狙われたのが訓練生ばかりだったということが、ネイバー側に訓練生はベイルアウトができないと知られていたのではと続けて指摘した。
先月の上旬、私立第三中学校にネイバーが現れた事件で、訓練生がトリガーを使って戦っていたという目撃談があったため、ネイバーに情報が漏れたのではないか、と質問する。
「先月の中学校の事件って」
「嵐山隊が現着した時には、もうトリオン兵が倒されていたやつだよね」
「せやったな。それをやったんがあのメガネやったってことか」
「これ、何で今ここで言う必要があるの?」
「…記者の矛先をボーダー全体からメガネ一人に向けさせるためやな」
女主人公は「そ、それって、今回のことを三雲くん一人のせいにするってこと!?」と聞く。
「まあ、平たく言えばそうやな」
「そ、そんな…酷い!まだ三雲くんは中学生なのに!」
「そうやな…」
女主人公がテレビに向かって怒っていると、その三雲が画面に現れた。
「え!?」
「なんでメガネがここにおんねん」
「しかも入院着のままだよね。大丈夫なのかな?」
「あの子、ケガしてるの?大丈夫なのかしら…」
三雲は、隊務規定違反を犯したのは自分であることを記者たちに伝えると、記者からの質問に答えると宣言した。
「み、三雲くん…!」
「やるやん」
記者たちがここぞとばかりに三雲に意見をぶつける。
『あなたがはじめから正隊員だったら、学校のお友達も守れてトリガーの情報も洩れなかった。ヒーローになりたいなら、順序を守ってまず正隊員になるべきだったんじゃないの?』
『運命の分かれ目はこちらの都合とは関係なくやってきます。準備が整うまで待っていたら、ぼくはきっと一生何もできません』
そう言うと三雲はしっかりと顔を上げて『ぼくはヒーローじゃない。誰もが納得するような結果は出せない』と続けた。
『ただその時やるべきことを、後悔しないようにやるだけです』
三雲がそう言い切った瞬間、女主人公は胸が熱くなった。
「…わ、わたしも…わたしも三雲くんみたいになりたい!」
「え!?」
「は?」
そう言った女主人公を、犬飼と水上はぎょっとした顔で見る。
「すっごいかっこいいよ三雲くん!わたしも、三雲くんみたいな考えができるようになりたい!」
「…たしか、三雲くんって中学3年生だったっけ?」
「知らん」
「だいぶ年下だけど、たしかに女主人公よりはだいぶ大人だよね」
「それは言ったらアカンやろ」
女主人公は「ちょっと!小さい声で話してるつもりだろうけど聞こえてるからねー!」と怒る。
「憧れに年上も年下も関係ないよ!ヒーローじゃないって、とってもかっこいい言葉だね!」
「そ、そう?」
「さあ?」
「わたしも、これからも自分にできることを精一杯やりたいと思った!」
その言葉を聞いた水上は「せやったら、ボーダー続けるんやな?」と聞いた。
「うん!ボーダーのわたしだからできることが、まだまだたくさんあると思うんだ。一週間、サボっちゃったから怒られると思うけど、でもちゃんと謝って許してもらう!」
「まあ、諏訪さんならちゃんと話せばわかってくれるでしょ」
「せやな」
「2人とも、色々心配かけてごめんね。完全復活しました!」
そう言って笑った女主人公を見て「結局、女主人公のことを完全復活させたんわメガネやったってことか」と水上が面白くなさそうな顔で言う。
「本当に!なんか納得できないんだけど!」
それに犬飼も便乗した。