18

12月も半ばになると、街はすっかりクリスマスムードで溢れていた。
ボーダーからの帰り道もだいぶ寒くなってきて、ちょっと辛い。
トリオン体なら寒さも関係ないのになと思いながら、雅人くんと帰り道を歩いていた。

「雅人くん、最近楽しそうだね」
「あぁ?」
「ボーダーに入って本当に良かったね。雅人くんが毎日楽しそうで私も嬉しいよ」
「何言ってんだよ。おめーも楽しそうじゃねーか」
「うん。雅人くんの周りに、雅人くんのことを理解してくれて一緒にいてくれる友達がたくさんできて、本当に嬉しい」

雅人くんは、照れくさそうに頭を掻いた。

「何言ってんだよ」

中学までは、家に友達を呼んだり、放課後まで一緒に遊ぶような友達がいなかった雅人くん。
今、雅人くんの周りにいる、ゾエくんや荒船くんたちは、本当に居心地のいい存在なんだなと思うと嬉しくてなんだか泣けてくる。

「こんな俺を一番理解してんのは女主人公だろ」
「それは、もちろん」
そこは譲らないよ。

「ここ最近、ゆっくりできてなかったからな。明日は出かけんぞ」
「え?」
「最近ボーダーばっかだったろ。息抜きだ」
「うん!」

雅人くんとお出かけするのなんて、いつぶりだろう。
人の集まるところに行きたがらないから、ここ数年はずっと家、学校、そしてボーダーだけだった。
そんな雅人くんが自分からお出かけしようと誘ってくれる日がくるとは。

「何突っ立ってんだよ!」
「待って!」

先を行く雅人くんに追いついて、私は雅人くんの手を握った。

「楽しみだね」
「行くとこは任す」
「苗字、了解」







次の日、私はとびっきりのお洒落をして雅人くんの家に向かった。

ピンポーン
とインターフォンを鳴らすと、中からおばさんが出てきた。

「まぁ女主人公ちゃん!いつも可愛いけど、今日は一段と可愛いわね!雅人とデート?」
「そうなんです」
「あらまぁ、楽しんできてね。雅人のことよろしくね」
「はい」

「うっせーぞババア!」

バタバタを階段を駆け下りながら、雅人くんがやってきた。
今日の雅人くんは、ミリタリーのダウンジャケットに黒のタートルネック。
そして黒の細身のパンツを合わせたシンプルなコーディネートでとってもキマッている。
やっぱり背が高くてスタイルが良いから、こういうシンプルな装いが似合う。

「女主人公行くぞ!」
「おばさん、またあとで!」
「はいはい。いってらっしゃい!」

雅人くんは私の手を取ると、そのまま歩き出した。

「とりあえず駅か?」
「うん。映画観に行こう」

私たちは駅を目指して歩き出した。

「なんの映画観んだ?」
「荒船くんがおすすめしてたやつ。アクション系だから雅人くんも楽しめるかなって思って」
「荒船のおすすめかよ」

電車の席に座り、携帯で観る予定の映画のオフィシャルサイトを開いた。

「こんな感じ」
「ふーん…」
雅人くんが携帯の画面をのぞき込んで、「ま、確かに面白そうだな」とつぶやいた。

目的の駅に着くと、私たちは映画館に向かった。
「映画観てから昼メシでいいか?」
「うん」

二人分の映画のチケットを購入して、上映時間まで少しだけ待つ。

「便所。ここから動くんじゃねーぞ」
「わかってるよ。いってらっしゃい」

雅人くんがトイレに向かうと、私はトイレの近くの壁側に寄った。
お昼ごはんはどこに行こうかな、と携帯で検索をしていると、声をかけれた。

「かーのじょ。めっちゃ可愛いね!」
「一人?なんの映画観るの?一緒に観ようよ」
「…」

どうしよう。
無視するか、答えるか。
こういう時はどうするのが正解なんだろう。
今日は雅人くんがいるから、雅人くんが戻ってくるまで無言でやり過ごすことにしよう。

「ねーねー、無視しないでよ」
そう言うと、二人組の内の一人が私の腕をつかんだ。

「放してください」
「喋れるじゃん!ね、一緒に観よ。奢るからさ」
「連れがいるので結構です」

さすがに腕をつかまれたまま無視するのは難しかったので、そう答えた。

「お友達?なら4人で遊びに行こうよ」
「結構です」
「いいじゃん!人数多い方が楽しいよ」
「いい加減に…」

「おい、何してやがる」

怒りを含んだ低音ボイスが聞こえてきて、私は心底安心した。

「は?誰だよ、お前」
「あ?こいつの連れだよ」
「嘘だろ」
「嘘じゃねーよ。さっさと消えろ」

雅人くんの睨みと溢れ出る怒りのオーラに、二人組は怖気づいたようでそそくさと逃げて行った。

「大丈夫か?」
「うん、ありがとう」
「わりぃ」
「雅人くんが謝ることじゃないよ。早く来てくれて助かったよ」

私は雅人くんの手を握った。

「そろそろ入れるよ」
「おう」


荒船くんおすすめのアクション映画は、とても面白かった。
雅人くんも意外と気に入ったみたいで、次回作も観たいと言うくらいだった。

「昼メシどーする?食いてーもんあるか?」
「このカフェに行きたいんだけど、いい?」
「女主人公が行きたいとこならどこでもいい」
「ありがとう」

そう言ってくれたので、さっき調べていた気になったカフェに行くことにした。

見た目が可愛らしいカフェで、人気なのか外まで人が並んでいた。
並んでいるのは大体カップルで、ちょっとだけ気持ちがソワソワする。

「すげー並んでんな」
「さっきチラッと見えたけど、カップルデーみたいなイベントをやってるみたい」
「はあ??なんだそれ」
「カップル限定でお得になるみたいだよ」
「なるほどな。よく考えてんな」

少し待ったけど、雅人くんとなら並んでいる時間も苦ではない。

「いらっしゃいませー!二名様ですね。カップルさんですか?」
「そうです」
「…」
「それでしたら、カップルの証としてお互いの名前を呼び合ってください!」
「雅人くん」
「…女主人公」
「はい!ありがとうございます!それでは手をつないであちらの席までどうぞ〜!」

雅人くんの手を取って、案内された窓側の席に向かった。

「いいのかこれ…」
「お得になるからいいの」

ぶつぶつ言いながらもカップルごっこに付き合ってくれた雅人くん。
二人でパスタランチを食べて、食後のコーヒーを飲んでお店を出る。

「美味しかったね」
「まあまあだな」
「カップルデーの割引が大きくてラッキーだったね」
「まぁな」


久しぶりの休日を、雅人くんと一緒に過ごすことができてよかった。

「雅人くんとのお出かけ楽しかったよ」
「おー」
「また行こうね」
「気が向いたらな」

そう言って、ちゃんとお出かけしてくれることを私は知っている。
なんだかんだ、雅人くんは私に甘いから。

「昔よりも、このクソ能力との付き合い方も分かってきたしな」
「雅人くんのやりたかったこと、一緒にやっていこうね」
「ま、それもいいかもな」

昔みたいに手をつないで、いろんな景色を見たり、いろんなところに行けるといいな。


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