彼女の声が心地よい。
荒船を呼ぶ時の声で、オレのことも呼んでほしい。
そう思うのは、オレのわがままか、願望か。
ボーダーにスカウトをされ、三門市に引っ越してきてから数か月。
配属されたのが鈴鳴支部ということもあって、オレは久しぶりにボーダーの本部に来ていた。
入隊してすぐに仲良くなった荒船と10本勝負をしていた。
10本勝負が終わって、(今回も荒船に勝てなかった)ブースを出た後、荒船が俺に問いかけてきた。
「そういえば鋼、お前はまだ俺の隊のメンバーに会ったことなかったよな」
「穂刈はこの前会ったけど、他のメンバーはまだだな」
「暇してるみたいだから呼ぶな」
「あぁ。そういえばどういうメンバーなんだ?」
「アタッカー2人、スナイパー2人の4人部隊だな」
「そうか、荒船隊は4人か」
「俺の幼なじみがいる」
「荒船に幼なじみがいたんだな」
「なんだよ、意外そうな顔して」
そう言うと荒船は自分のスマホを取り出すと、メッセージを送っていた。
「どんな子なんだ?」
「あー…、アホ?」
「アホ?」
「ちゃんと見てねぇとすぐにケガしそうなアホ」
「それは…大丈夫なのか?」
「なぜか戦闘中は集中力が上がって大丈夫なんだな」
と言ってあきれた様に笑う荒船からは、その幼なじみが大事だ、という気持ちが伝わってきた。
そんな顔で笑うのか、と少し驚きつつ、荒船にそんな顔をさせる幼なじみの存在が気になった。
荒船がメッセージを送ってから数分後。
「荒船」
穂刈と一緒に、同じ隊服に身を包んだ荒船の幼なじみがやってきた。
「哲次〜、急に呼び出さないでよ。せっかく穂刈くんと映画観てたのに」
「なかなか面白かったな、荒船セレクト」
「あれ?もしかして、噂の村上くん?」
そう言って、彼女はオレに目線を向けた。
「あぁ。同い年だし、仲良くしろよ」
「誰目線?哲次の幼なじみの、苗字です。村上くん、よろしくね!」
「こちらこそ。苗字さん」
「穂刈くんは会ったことあったの?」
「この前な」
「えー!ずるい!」
「半崎は?」
「寝ている、隊室で」
「なんだそれ」
苗字さんは、荒船と同時期に入隊した同期らしい。
「私もアタッカーなんだけど、まだまだだからよければ村上くんも相手してね!」
「オレでよければ喜んで。ただ…もしかしたらあんまり戦いたくないかもしれないけど」
「なんで??」
初対面の相手に話すかどうか迷って荒船の方を見ると
「言え、こいつは大丈夫だ」
「なになに?言いにくいなら無理しなくていいよ?」
「いや、後々分かることだと思うから先に言っておくよ」
オレはサイドエフェクトについて話した。
今までも、強化睡眠記憶のサイドエフェクトの影響で友人関係にヒビが入ってきた。
このサイドエフェクトのおかげで強くなれるのはもちろん嬉しいが、その分失うものも多く、好きになりきれないのは事実だった。
「そっか〜。でも私が同じサイドエフェクトを持っていたとしても、多分村上くんみたいに成長できないと思うから、それは村上くんの才能だと思うよ!」
そう言いながらニコリとほほ笑んだ苗字さんの顔を、オレは多分忘れない。
それからというもの、オレ、荒船、苗字さんの3人でソロランク戦をすることが増えた。
「やっぱり村上くんは強いね!」
「苗字さんも強いよ。さすが荒船の一番弟子」
「哲次の教え方は論理的すぎて、あんまり理解できてないんだけどね」
ここだけの話、といった感じで話す苗字さん。
「それはお前の脳みそのせいだな」
「ひどい!哲次と違って頭は良くないですよ!」
そう言うと苗字さんは荒船の背中を殴った。
「いってぇなくそバカ力!」
「そんなに痛くしてないでしょ!哲次が弱すぎるの!」
「どう考えてもお前のバカ力のせいだろ」
「か弱い乙女に向かって何てこと言うの!」
「か弱い?どこにいるんだ?」
「ちょっと本気で意味わからないって顔しないでよ!」
二人のテンポのいいやり取りに少し驚いていると
「鋼、お前も触ってみろよ!女主人公の腕、筋肉やばいぞ」
「え?」
「そんなことないですー!村上くん!そんなことないよね!」
そう言って苗字さんに手を取られると、彼女は自分の二の腕に俺の手をもっていった。
「あ…」
「ほら!村上くん!どう!?」
「ど…どうって…」
「あー…女主人公、やめてやれ」
「え?」
そう言って二人が一斉に俺の方を見た。
「村上くん、顔真っ赤!ごめん!嫌だったよね!」
「いや…大丈夫だ。なんでもない」
そう言いながらも自分でもわかるくらい顔が熱かった。
「よかったな。お前みたいなメスゴリラでも鋼は照れるらしい」
「そろそろ本気で殴るよ?」
「やってみろ」
「よーし!ブースに入りなさい哲次!10本勝負!」
「返り討ちにしてやるよ!」
「村上くん、本当ごめんね!また後でソロランク戦しようね!」
「鋼、すぐに終わらせるから待ってろ」
「あぁ、いってらっしゃい」
二人がそれぞれブースに入って、ランク戦を始めた。
いつもなら集中して見ることができるのに、さっきの感触が忘れられず、なかなか試合に集中することができなかった。
「…変態か、オレは」
こういう時に、寝ても忘れられない自分のサイドエフェクトが嫌になる。
口喧嘩をしながらも、いつまでも仲が良い二人をうらやましいと思った。
特に、彼女が荒船を呼ぶ時の声のトーンが心地良くて、そんな彼女に名前を呼ばれる荒船が、少しうらやましい。
「オレももっと仲良くなりたいな」