そして、それは私たち影浦隊にも大きな衝撃を与えた。
「もう一週間になるけど、どうしちゃったんだろうね、鳩原ちゃん…」
影浦隊の作戦室では、みんなで鳩原さんのことを心配していた。
「今ちゃんや国近ちゃんも連絡取れてないみたいだし…」
「どこ行っちまったんだぁー?」
「心配だね。何事もないといいんだけど」
ただ辞めただけなら連絡が取れなくなるのはおかしい。
みんなそう思っていた。
学校にも来ていないので、余計心配になっている。
「鳩原は遠征に行きたがってたんだろ?選抜試験に落ちたからヤケになったんじゃねーのか?」
「…試験は通ってたんだよ!なのに上層部が…」
「犬飼くんも言ってた。合格ラインをクリアしてたって…」
ユズルくんが目に見えて落ち込んでいる。
「…くそっ。オレがもっとちゃんと話聞いてたら…!」
「ユズルくん…」
「なんとかして、鳩っちともっかいちゃんと話さねーとだよなー」
ヒカリちゃんがそう言うと「でも実家とは疎遠になってるみたいな話してたから、実家に帰ってる可能性も低いよね」とゾエくんが言った。
「そしたらあとは…こっちから呼びかけてくかぁ?」
「呼びかける?どうやって?」
ユズルくんがそう言うと、ヒカリちゃんは明るく答えた。
「テレビだよ!嵐山隊って、たしか全国ネットにもたまに出てんだろ?」
「嵐山隊に頼むってことか?」
「ちげーよ。ユズルが呼びかけんだよ!鳩っちも一番仲良かったユズルの呼びかけになら応えるだろ!」
なるほど。
確かにそれはいいアイデアだ。
「な!やってみよーぜユズル!」
「…うん!」
ヒカリちゃんのその言葉に、ユズルくんの顔にようやく笑顔が戻った。
私たちは、その後すぐに根付さんのもとに向かった。
私たち影浦隊を広報部隊にしてほしいとお願いしに来たのだ。
「きみたちが広報部隊にねぇ…」
「そうそう!」
「うちみてーなデコボコチームがやんのもおもしれーっしょ!女主人公もいるし、第二の嵐山隊になるんじゃねーか!」
「ふむう…それはまあ…確かに苗字くんが広報になるのはありだがね…」
根付さんが揺れている。
ここはもう少し押せばなんとかなるかも。
「私も精一杯頑張りますので」
「嵐山隊とはまたちがう層にアピールもできるし。ね?ユズル」
「お…お願いします!」
ユズルがそう言うと、根付さんは「…わかりました」と言ってくれた。
「ひとまずウチで検討しましょう。司令と本部長の裁可も必要になるがね」
「本当か!」
「よかったー!」
そう言うと、根付さんはそのままその場を去ろうとした。
が、その時、雅人くんが何かに反応した。
「…おい、オッサン」
「雅人くん?」
「何かね?影浦くん」
雅人くんは、根付さんに近づいていくと「その場凌ぎでぬか喜びさせんじゃねーよ」と言った。
「どういうことかね?私は検討すると…」
「あんたの”憐れみ”が刺さるんだよ」
ズドン!
「!!?」
「ま、雅人くん!?」
雅人くんは根付さんを殴ってしまったのだ。
「うわぁ!!カゲ何やってんだ!?」
丁度通りかかった柿崎さんが雅人くんに駆け寄った。
「あわわわ根付さん生きてる!?」
「雅人くん!!何してるの!」
「こいつは検討する気なんて、最初からねーんだよ!」
「だからって殴ることはないでしょ!」
柿崎さんが電話で本部長を呼んで、根付さんは病院に運ばれていった。
柿崎さんが上層部に説明をしてくれたみたいで、雅人くんはボーダーをクビにはならなったけど、雅人くんの暴力行為によって影浦隊もB級に降格処分となった。
「降格で済んでホントよかったよ〜!ザキさんに感謝しないとね。警察沙汰にしなかった根付さんにも感謝だよホント」
「あれはさすがにカゲが悪りーかんな」
「チッ!ムカつくもんはムカつくんだよ…しょうがねーだろ」
「おーまえ、ちゃんと反省しろよー?うちが遠征目指してたらヤバかったぞおい!」
そう言うと、ヒカリちゃんは雅人くんの頭を軽く叩いた。
「鳩原ちゃんについても振り出しに戻っちゃったね…」
「だなーどーっすかなー」
「…鳩原先輩のことはもういいよ」
ユズルくんがそう言うと、ゾエくんとヒカリちゃんは黙ってしまった。
「何も言わずにいなくなったんだから、誰とも会いたくないんだろうし…」
「ユズルお前…」
「オレはもう納得したから…みんな気遣わせてごめん」
「本当にいいのかー?」
「うん」
「まー、また落ち着いたら連絡くらいくるだろ」
「そうだね。きっと大丈夫だよ」
「だね…ちょっと私出てくるね」
「女主人公?」
雅人くんの呼びかけを無視して、私は影浦隊の作戦室を出た。
とりあえず、C級ブース近くの自販機に向かったけど、何も買わずに近くのベンチに座った。
「何してんだよ」
「…荒船くん」
しばらく経ったころ、荒船くんに声をかけられた。
「二宮隊だけじゃなくて、お前たちまでB級に降格してんじゃねーか」
「雅人くんのせいね」
「根付さん殴ったんだろ?何やってんだよ」
荒船くんは自販機で自分の飲み物を買うと、「なんか飲むか?」と聞いてくれた。
「いらない」と断ると私の隣に座った。
「荒船くんは、何してるの?」
「カゲから、女主人公の様子が変だから探してそばにいてくれって連絡がきたんだよ」
「私の心配ばっかり…」
「降格処分で済んでよかったな。一歩間違えれば警察沙汰だろ?」
「そうよ。だから私怒ってるの」
「おお」
せっかくボーダーという居場所を見つけた雅人くん。
その居場所がなくなるところだった。
「仲間思いでほっとけないのは分かるけど、もっとやり方があったと思うの。それなのに本能のまま行動して…本当にバカすぎて…今回ばかりは言葉が出ない…」
そう言うと、私の目から涙が流れ出した。
「泣くなよ」
「泣いてない!」
「泣いてんだろ」
荒船くんは乱暴に私の涙を拭った。
「雅人くんは少し反省すべきね。自分で自分の居場所をなくすところだったんだから」
「そりゃそうだ。でもあいつも反省してるっぽいぞ」
ほら、と荒船くんの視線の先にはばつの悪そうな顔をした雅人くんがいた。
「女主人公…わりぃ…」
「…少しは反省して」
「おう…」
「雅人くんが見つけた居場所だよ。大切にしてよ」
「…努力する」
「仲間思いの素敵な人なんだから、周りから誤解されるようなことしないで」
「俺のことは女主人公が分かってるだろ」
「まったくもう」
そう言われて笑ってしまった。
「そういうのは二人の時にやれ」
「ごめんね」
「うるせー」
雅人くんはそう言うと、私と荒船くんが座っているベンチの隣のベンチに座った。
「さすがに生身にアッパーはだめだな」
「本当よ」
「へいへい」
「降格処分で済んでよかったな。今度からのランク戦、楽しみにしてるぜ」
「ボコボコにしてやるよ」
「言ってろ」
今回の件は、本当に降格処分で済んでよかった。
雅人くんと二人で柿崎さんにお礼しに行かないと。