「本当に…犬飼くんを慰めようと思ってたのに…」
「全然!気にしないで!おれたちは大丈夫だけどね。二宮さんが責任感じてるみたいなんだよねー」
二宮隊がB級に降格してすぐ、私たち影浦隊もB級に降格。
犬飼くんからしてみたら、何してるんだって話。
「犬飼たちは、何か聞いてないのか?」
「うーん…そうだね」
「どうしたんだろうね、鳩原さん」
「…ま、いつかひょっこり会える日が来るんじゃないかな!」
犬飼くんと分かれて、私たちはB組に向かった。
「そうだ。俺、次のランク戦からスナイパーになるからな」
「次のってことは6月の?」
「おう。これから荒船隊はスナイパー3人部隊になる」
「他の二人は何か言ってた?」
「いや」
穂刈くんも半崎くんも、荒船くんが決めたことを反対するようなイメージはない。
「面白い、としか思ってなさそうだな」
「そっか。それならよかった」
早速その日の翌日から、荒船くんがスナイパーのトリガーに変更して、スナイパーとしての訓練が始まった。
荒船くんがアタッカーからスナイパーに転向したことは、あっという間にアタッカー界隈に広がった。
「えー!荒船先輩ってスナイパーになったの?」
「なんで?オールラウンダーならガンナーかシューターじゃねーの?」
「思い切ったな」
「でもなんでこのタイミング?」
「もしかして、弟子の村上先輩が…」
いろんな噂話が出ていたが、荒船くんは特に何も言わなかった。
私がC級ブースでソロランク戦をしていると、鋼くんに話しかけられた。
「女主人公…」
「鋼くん。どうしたの?雅人くんなら作戦室にいるよ」
「あぁ…いや、カゲじゃなくて」
「?」
「あ…いや、なんでもない」
「そう?変な鋼くん。大丈夫?」
「あぁ大丈夫だ。呼び止めて悪かったな」
「ううん」
そう言うと、鋼くんはC級ブースを後にした。
鋼くん、なんだか元気がなかったように見えたけど、大丈夫だろうか。
ちょっと心配だなーと思いながら、私も影浦隊の作戦室に戻ろうとすると「やぁクイーン」と呼ばれて振り返る。
「…王子くん。そのあだ名はなんなの?」
「きみのあだ名さ!愛らしく美しい憧れの存在、きみにピッタリじゃないか」
「疲れるからもう聞かないことにする」
「そうかい?」
「それで、どうしたの?」
「そうそう。今からみずかみんぐとチェスをやろうと思ってるんだけど、一緒にどうだい?」
「チェス?水上くんってチェスできたっけ?」
「彼ならなんだってできるだろう。さ、生駒隊の作戦室に出発だ!」
王子くんはそう言うと、私の腕をつかんで生駒隊の作戦室に向かった。
途中で諏訪さんに「おめーら何してんだ?」とツッコまれたが、王子くんは「諏訪さんも一緒に行きますか?」と笑顔で対応した。
「行かねーよ。俺は本を読むのに忙しい」
「残念」
「諏訪さーん、また今度おすすめの推理小説貸してくださいね」
「おう」
あっという間に生駒隊の作戦室に到着。
「入るよ、みずかみんぐ」
「勝手に入んなや」
「お邪魔します」
「苗字ちゃんやん。王子に連れてこられたんか?」
「連れてこられちゃった」
生駒隊の作戦室に入ると、そこには水上くん以外の生駒隊メンバーも全員いた。
「苗字さんや」
「え、苗字ちゃんやん!本物や」
「苗字さんだー!こんにちはっす!」
「隠岐くん、イコさん、南沢くん、こんにちは。お邪魔します」
「マリオちゃん!苗字ちゃんおんで!」
「イコさん!余計なこと言わんといて!」
奥からオペレーターの細井さんがやってきた。
「マリオは苗字さんに憧れてるから、照れてるんです」
「ほらね、ぼくの言った通りやっぱりピッタリのあだ名じゃないか?」
「意味わからない王子くんはほっときましょう。細井さん、こんにちは」
「苗字さん、こんにちは!」
水上くんが奥からチェス盤を出してきた。
「ほんまにやるん?」
「いいじゃないか。チェスもできるんだろう?」
「いや、ほとんど知らんねんけど」
「みずかみんぐにできないことはないだろう」
「褒めてるみたいやけど、逆やろ?ディスっとるやろ?」
「まさか!さあさあ、始めよう!」
水上くんと王子くんは、二人でチェスを始めた。
私は、チェスのルールは全く知らないので、二人の対戦を眺めているだけ。
「苗字ちゃんわかる?」
「まったく分かりません」
「ほんまに?よかった、俺だけやなかった」
「オレもさっぱりわかりません!」
「海はわからんやろな」
「えー!隠岐先輩ひどいっす!」
そんな話をしていると、チェスをしている水上くんから「チェックメイトやな」という声が上がった。
「ふう。やっぱりみずかみんぐは強いね」
「手加減してくれておおきに」
「水上くん勝ったんだ」
二人がもう一回やろうとしているところに、雅人くんから電話がかかってきた。
『どこにいんだ?』
「今は生駒隊の作戦室にいるよ」
『生駒隊?なんでんなとこいんだよ』
「王子くんに捕まっちゃった」
『はあ?王子に捕まって生駒隊?意味わかんねー』
「とりあえず、生駒隊。もう帰る?」
『そっち向かうから待ってろ』
そう言うと、雅人くんは電話を切った。
「カゲくんかい?」
「うん、こっち来るって」
「もうこんな時間やもんな。俺らはこの後防衛任務やから、王子もはよう帰りや」
「そうだね。カゲくんを待ちながらもう一回やろう」
「せやったら将棋のほうがええわ。一瞬で終わる」
「初心者相手に手加減をしないつもりかい、みずかみんぐ」
水上くんが将棋の準備をしようとしていると、王子くんはやれやれ、といったしぐさをした。
「あ、将棋なら今勉強してるからなんとなくわかるよ」
「なんや苗字ちゃん、将棋に興味あったん?」
「水上くんに初めて会った時、将棋と落語が趣味って言ってたから勉強してるんだ。同じシューターとして仲良くできたらって思ったから、水上くんの好きなことを勉強しようと思って」
私がそう言うと、水上くんは一瞬驚いた表情になり、その後右手で顔を隠した。
「あ〜〜、もうそういうとこやでほんまに」
「え?」
「今のはクイーンが悪いね」
「なんで??」
「苗字ちゃんって、天然の人たらしやな」
「苗字さん、それは殺し文句ですよ」
「苗字さんにそんなこと言われたら照れますね」
「オレもドキドキしちゃいました!」
何がそんなにダメだったんだろう。
と思っていると、生駒隊の作戦室の扉が開いた。
「…なんだ」
「雅人くん」
異様な雰囲気の生駒隊作戦室に、少し困惑気味の雅人くん。
「カゲくん、クイーンはみんなから愛される存在だよね」
「は?何言ってんだ」
「王子くんはほっておいて、帰りましょう。お迎えありがとう」
「おう」
「皆さんお邪魔しました」
「また来てくださいね!」
「細井さん、ありがとう」
そう言って、私たちは生駒隊の作戦室を出た。
「なんだったんだ?」
「さー?」
生駒隊の作戦室では
「水上先輩と仲良くなりたいから、水上先輩の好きな将棋勉強してますーって言われて照れへんわけないですよね」
「隠岐くーん、ちょっと黙って」
「水上先輩が照れてるの、レアっすね!」
「海も黙ろうか」
「まぁしゃーない。男やったら誰でも照れるで!あんなん!」
「イコさん…」
「さすが苗字さんやな。あんなんサラって言われてもうたら惚れるわ」
「マリオも、もうええて」
「まぁあれがクイーンの怖いところだよね。無自覚でやってるんだから」
「ほんまに。カゲも苦労するな」
という会話があったとか。