ここには、影浦、村上、水上、そして穂刈の4人のボーダー隊員がいる。
4人はいつものように集まって、屋上で昼ご飯を食べていた。
「仲直りしたのか、荒船と」
「あぁ。というかオレの勘違いだったよ」
村上は、来馬から荒船の動画を見せられ、荒船がアタッカーからスナイパーに転向したのは自分のせいではないということを知った。
「だから言ったじゃねーか!あいつがそんなこと気にするかよ」
「せやな」
「みたいだな。今までの経験で勝手に勘違いしてたみたいだ」
「おめーも苦労してんだな」
「お互いな」
影浦も村上も、サイドエフェクトで苦労してきているので、お互いの気持ちがよく理解できているようだ。
「そういえば告白されていたな、荒船が」
「またかよ!」
「最近多いな」
「全部断っているみたいだけどな」
「荒船モテるな」
「なんでおめーが嬉しそうなんだよ」
「断ってる理由ってやっぱり苗字ちゃんがおるからなんかな?」
水上がそう言うと、三人は影浦を見た。
「…なんでこっち見んだよ」
「苗字ちゃんのことやからな」
「ぶっちゃけどう思ってるんだ、苗字のこと」
「カゲのそういう話は聞いたことがないな」
「あぁ?ほっとけよ」
「ほっとけへんなー。荒船と苗字ちゃんが本当に付き合ってもええんか?」
「…別に。女主人公がそうしたいならそうすればいい」
影浦のこの気持ちは嘘ではないが、本音でもなかった。
「なんやハッキリせんな」
「俺なんかより、荒船の方が女主人公を幸せにできんだろ」
「それは本心なんか?」
「…うるせーな」
今日は影浦隊、荒船隊、生駒隊、そして鈴鳴第一は防衛任務がないので、3Cの4人は、そのまま学校からかげうらに直行していた。
ちなみに六頴館の二人、荒船と女主人公は学校の用事でいない。
「さーて、ほんなら続きといこうか」
「…なんでおめーが気合入ってんだよ。つーか何も話すことねーよ!」
4人は昼休みに話し足りなかったため(主に水上が)、かげうらで影浦を問い詰めることにした。
「でもオレも気になってた。カゲは女主人公のことをどう思ってるんだろうなって」
「だから前にも言っただろ!俺たちは幼なじみなんだよ!それ以上でもそれ以下でもねー!」
影浦はめんどくさそうに答えた。
何が悲しくて自分の家で男3人に囲まれて恋バナをしなくてはいけないのか、と。
「でも好きなんだろ、苗字のことが」
「好きじゃなかったら一緒にいねーだろ」
「それは幼なじみとしてってことなのか?男としてなのか?」
「…グイグイくんな…」
「こういう話は友達っぽくないか!」
村上の目は生き生きとしていた。
「俺は、カゲは苗字ちゃんのことが恋愛的な意味で好きなんやと思ってた」
「…なんでだよ」
「誰が見てもそう思うやろ」
影浦の女主人公に対する態度は、誰がどう見ても愛情で溢れている。
「生まれたときから一緒にいんだよ」
「カゲの性格やったら、それだけが理由で一緒にいるってことはないやろ」
「…あいつの感情がわかんねー…」
「感情が?」
「サイドエフェクトが効かないのか?」
「そうじゃねー。感情を隠すのが上手いんだよ」
女主人公は、小さいころから影浦と一緒にいるため、影浦のために自分の感情をなるべく表に出さないようにしてきた。
影浦に対する感情が、影浦を不快にさせてしまうと思っているからだ。
実際には負の感情は不快に感じて、好意的な感情は不快には感じないのだが、昔、影浦が女主人公に言った「変な感情刺してくんじゃねー!」の言葉を女主人公は忘れられなかった。
まだ自分のサイドエフェクトがどういうものか知らないときに、ポロっと出てしまったその言葉。
その言葉で女主人公は自分の感情を出さないようにした。
だからこそ、影浦は女主人公に対して申し訳ないという気持ちがあり、自分が相手じゃなければもっと感情表現ができる女になっていたのに、という後悔があった。
「悪いと思ってんだよ。俺が余計なことを言わなきゃ、女主人公はあんな無表情じゃなかった…」
「なるほどな」
「んで、あいつの感情がまじでわかんねー。だからあいつが俺のことをどう思ってるか知らねー」
自分のせいで、我慢をさせてばっかりだった彼女のことを解放してあげたい。
そう思う気持ちもあって、それは嘘じゃない。
だけど、それ以上に自分のことを理解してくれる人間はいないと思っている。
だから影浦は正解が分からなかった。
「要するに、カゲは苗字ちゃんのことが大好きやっちゅー話やな」
「…おめー人の話聞いてたか?」
「めっちゃ聞いとったで。苗字ちゃんのことが大事で大好きっちゅーことやん。何も難しく考えんと、シンプルに考えようや」
「そうだな。カゲは女主人公が好きなんだな」
「だーもう!好き好きうるせー!!」
「好きやけど、苗字ちゃんの感情がわからんくて一歩踏み出せへんってことやろ」
「ヘタレだな」
「うるせー!!」
いつの間にか運ばれてきたお好み焼きを、影浦は焼き始めた。
「ただ、俺はマジで女主人公が荒船を好きならそれでいいと思ってる」
「そこは気持ち次第ってことだな、苗字の」
影浦は決めていた。
女主人公が自分のことを好きで、これからも自分のそばにいたいと本人がそう望んでくれるのであればいくらでも一緒にいると。
ただ、女主人公が自分以外の誰かを好きで、その相手も女主人公のことを好きで大切にしてくれるのなら、喜んで今のポジションを譲ろう、と。
「女主人公はカゲ以外を好きになるか?」
「なるだろ」
「苗字ちゃんは、なかなか人を好きにはならんやろ」
「そうか?」
ガラーッ
かげうらのドアが開くと、そこには荒船と女主人公がいた。
「抜け駆けじゃねーか」
「お腹すいたー」
「荒船!女主人公!」
「鋼くん」
二人はテーブルに座ると「疲れたー」と水を飲んだ。
「お疲れ様。体育祭の練習か?」
「そう。今回が最後の体育祭だから、みんな気合入ってるんだよね」
「俺たちももうすぐ体育祭だな」
「この時期だよね」
影浦は焼けたお好み焼きを女主人公に渡した。
「食え」
「わー雅人くんありがとう!」
「俺にはないのか?」
「焼いてやるから待ってろ」
「みんなは何の話してたの?」
「ボーイズトークやな」
「何それ」
「カゲのことが好きだろ、苗字は」
「もちろん」
「ならよかった」
「何が良いんだよ、おめーらうぜー!」