私と雅人くんが付き合い始めたことを知っているのは、影浦隊と風間隊のメンバー、そして荒船くんだけど、あの後、特に噂が広まることもなかったので、風間隊のメンバーは誰にも言っていないみたい。
後はタイミングを見て、雅人くんは3Cのメンバーに、私は犬飼くんに報告しようという話になった。
そして、長い夏休みが終わり二学期が始まった。
今年もまた、文化祭のシーズンがやってきた。
「今年の文化祭は、優勝目指すからよろしく!」
「今年は最後だからかなり盛り上がりそうだね」
「だな。今年はあっちの文化祭は行くのか?」
「そうだねー…」
雅人くんたちの文化祭、今年が最後だからできれば行きたい。
だけど、1年生の時の文化祭で嵐山さんにも迷惑をかけてしまったし、何より雅人くんに嫌な思いをさせてしまったから、正直迷っていた。
「最後の文化祭だから行きたいけどね…」
「なら行こうぜ。今回は夜更かししないから安心しろ」
「そうだね…雅人くんに相談してみるよ」
ボーダーから帰宅した後、雅人くんの部屋にお邪魔した。
「ねぇ、今年は最後の文化祭だから、遊びに行ってもいい?」
「あー…」
「お願い!最後に雅人くんと一緒に回りたいの」
「…しゃーねーな。けど絶対荒船と一緒に来いよ」
「うん!雅人くんありがとう!」
そう言って私は雅人くんに飛びついた。
「おま!あぶねーだろ!」
「嬉しくて」
私が飛びついた反動で、雅人くんはバランスを崩して二人でベッドに倒れこんだ。
雅人くんがしっかり私を受け止めてくれたから全然怖くない。
「…おめーよ、ここどこだと思ってんだ?」
「え?」
そう言うと、目の前が反転した。
雅人くんの上にいたはずなのに、一瞬で私は雅人くんのベッドに押し倒された。
「ま…雅人くん…」
「無防備すぎ」
雅人くんは、私の首筋に顔をうずめた。
「ちょっ…」
「俺も男だ」
「雅人くん…」
私がそう言うと、雅人くんは顔を上げて私を見つめた。
「女主人公…好きだ」
「雅人くん」
それだけ言って、雅人くんは私の頬に触れると、そのまま唇を重ねた。
ほんの数秒、優しく触れ合ったまま、すぐに雅人くんの唇は離れていった。
「こんな時間に男の部屋にくんな」
「好きだからいいよ?」
「そういう問題じゃねー」
家にはおじさんもおばさんも、雅人くんのお兄さんもいる。
そんな中でこれ以上何かがあるとは思わないけど、雅人くんにもそういう気持ちがあるんだなと、ちょっと驚いたし、私のことを意識してくれてるということがわかって嬉しかった。
「また今度な」
「うん」
そう言って私から離れようとした雅人くんの首に腕を回して、今度は私から口づけた。
「おめーなー」
「ふふふ、お返し」
もう一度、どちらからともなく近づいて、私たちはもう一度唇を重ねた。
次の日、学校で荒船くんに文化祭に行く許可がもらえたことを伝えた。
「よかったじゃねーか。そしたらまた駅集合でいいな」
「うん。楽しみだねー」
「二人とも三門第一の文化祭行くの?」
今年も同じクラスで隣の席の鈴木さんが「苗字さんの幼なじみがいる学校だよね?」と話しかけてきた。
「そうだよ」
「へー!他校の文化祭、楽しそうだよね。私も友達がいるから遊びに行こうかな」
「高校最後の文化祭だもんね」
「そういえば、苗字さんの幼なじみってどんな感じの人なの?」
「どんなって」
「写真とかないのー?見たい!」
携帯で写真を探してみる。
「見た目は狂犬って感じだよな」
「そうね」
「そうなの?苗字さんと雰囲気違うんだね」
「でも面倒見が良くて優しい人よ」
私は写真を探している手を止めた。
「うーん、やっぱり写真はないわ」
「そうなの?えー見たかったなー」
「ごめんなさい」
そこでチャイムが鳴ったので、私たちは次の授業の準備を始めた。
本当は写真はたくんさんあるけど、知らないところで知らない人に写真を見られるのは嫌だと思うし、今度雅人くんに確認を取ってからにしよう。
授業も終わり、ボーダーに向かう帰り道で私と荒船くんは犬飼くんに会った。
「二人ともボーダー?」
「うん。犬飼くんも?」
「うん!一緒に行こうよ」
三人でボーダーに向かうことになったので、私は犬飼くんに雅人くんとのことを伝えることにした。
「犬飼くん、実は雅人くんと付き合うことになったんだ」
「そうなんだ!きちんと伝えられたんだね」
「うん。二人のおかげだよ。ありがとう」
「役に立てたならよかったよー!今度三人でお祝いでもする?」
「それはいいかなー」
「えー!そっか」
そんな話や、授業のこと、文化祭のことなどを話していたらあっという間にボーダーに着いた。
「そしたら私は作戦室に行くね。またね」
「おう」
「苗字ちゃんまたねー!」
「よかったの?」
「何がだよ」
「苗字ちゃんのこと。おれは荒船くんも苗字ちゃんのこと好きなのかなって思ってたけど」
「好きは好きだけど、俺の好きは恋愛の好きじゃねーな」
「…そっか」
「カゲほどじゃねーけど、俺も女主人公のことは前から見てんだ。あいつがカゲのこと好きなのは見てりゃわかるだろ」
「まぁね。さっきも幸せそうな顔してたね」
「あいつらが幸せならそれでいい」
「ほんとだね」
女主人公と分かれた後、二人は子どもの幸せを願う親戚のおじさんみたいな会話をしていた。