「よかったやん」
「やっぱり好きだったんだな、苗字も」
「何かあれば、いつでも相談にのるからな」
「へーへー」
ただ、知っているのはクラスでもこの3人だけ。
大体の人間は、影浦に彼女ができたことを知らない。
それは、影浦のことを気になっている女の子にも言える。
「ねー、あんた文化祭で影浦に告白したら?」
「な!何言ってんのよ」
影浦のクラスには、影浦に密かに想いを寄せている女の子がいた。
「べつにあたしは影浦のこと好きじゃないし!」
「ほんとにー?いつも影浦のことを見てんじゃん」
「見てない!」
「みんな影浦のことを怖がって話しかけないのに、あんただけガンガン話しかけんじゃん」
「それは、みんなが必要なことも聞きにいかないから、あたしが代わりに聞いてるだけ!」
影浦は、見た目と目つきの悪さのせいで、クラスメイトから少し怖がられている。
話をすれば、誰にでも噛みつくような人間ではないことがわかるし、仲の良いメンバー(村上、穂刈、水上)には笑顔を見せて、男子高校生らしいバカ話で盛り上がる少年っぽさもあることを知るが、大体の人間はそこに気づく前に影浦のことを避ける。
ただ、その女の子はコミュ力が高く、誰にでも話しかけることができるので、影浦にも気にせず話しかけていた。
「てか、なんで影浦なの?あたしなら、ボーダー組の中なら村上くんがいいなー」
「あんたの好みでしょ。階段から落ちそうになったところを助けてもらったの」
女の子は、以前、階段付近で友達と話をしている中で、大きなリアクションを取った際に、誤って階段から落ちそうになってしまったのだ。
そこに通りかかった影浦に助けられた。
ただそれだけのことだったのだが、女の子にはそれだけでもじゅうぶん恋に落ちる理由になった。
「話してみると、意外にいいやつだよ」
「ほんと?それってあんただからじゃないの?」
「え?」
「だって、影浦って女子と喋ってるところ、あんまり見たことないじゃん?2年の仁礼さんくらい?」
たしかに、とその女の子は思った。
「でもボーダーではわからないじゃん」
「わからないけど、それでも今一番仲良い女子はあんたじゃない?」
「…そうかな」
「そうだよ!だから告れ!んで、砕けろ!」
「砕けたら困るんだけど!」
それからというもの、女の子は影浦に少しずつアピールをし始めた。
「影浦、おはよう!今日もいい天気だね」
「おー…」
「よかったら今日のお昼」
「鋼、ちょっといいか」
「影浦!これからボーダー?途中まで一緒に帰らない?」
「わりーけど急いでんだ」
「ねー影浦!今日のペアワーク、一緒に「鋼とやる」
少しずつであっても影浦にはサイドエフェクトがあるため、自分への好意が分かる。
「ねー…なんか最近影浦に避けられてる気がする…」
「そうなの?気のせいじゃない?」
「気のせいじゃないよー!話けても一言で終わっちゃうし、さりげなくボディータッチしようとしても避けられる…」
「たまたまじゃない?」
「そうかなー…」
影浦は、女の子からの好意に気づき、なるべく関わらないようにしていた。
「最近多いな、あいつの絡み」
「あー…やっぱりそう思うか?」
「ああ」
「カゲのこと好きなんちゃう?」
「…やめろ」
「女主人公と付き合ってること、言った方がいいんじゃないか?」
「なんも言われてへんのに、そんなん言うたら変やろ。むこうはカゲのサイドエフェクトのこと知らへんのに」
「それもそうか」
「だー!めんどくせー!ほんとクソだなこのサイドエフェクト!」
「まぁまぁ落ち着け」
影浦はめんどくさそうに頭を掻いた。
「とりあえず、相手がちゃんと言うてくるまで何もできへんやろ」
「そうだな。今みたいに避けていればそのうち気づくかもな」
「かわいそうやけど、こればっかりはしゃーないな」
「女主人公もいるしな」
次の日、登校をしてきた女の子は、友達のもとに向かうとこう言った。
「あたし決めた!」
「何を?」
「文化祭の日、影浦に告白する!それでハッキリさせる!」
「決めたんだね!いいじゃん!」
そう。
告白してこのモヤモヤした気持ちをハッキリさせることを決めた。
「応援してね!」
「あんたならやれるよ!影浦だって、ただ照れてるだけの可能性もあるし」
「…そうだよね!頑張る!」
そうして迎えた、三門第一の文化祭の日。
影浦のいる3年C組は、今年はお化け屋敷をやることになっている。
女主人公は虫とお化けが苦手なのだが、影浦は自分のクラスがお化け屋敷をすることを教えていない。
「カゲ、女主人公はお化けが苦手だったんじゃないか?」
「おー」
「ちゃんと伝えたのか、オレたちがお化けのことを」
「言ってねー」
「なんやカゲ。何もしらん苗字ちゃん呼んで、暗闇でイチャイチャする気かい」
「んなことしねーよ!」
女の子は、いつも通り4人で仲良くかたまって騒いでいる影浦を、どのように呼び出すか考えていた。
「チャンスはたくさんあるんだから、頑張りなよ!」
「うん!」
文化祭が始まると、一気に忙しくなった。
「お化け屋敷やってるよー!」
「カップルで入ると楽しめますよー!ぜひ寄って行ってくださーい!」
お化け屋敷はシフト制で、午後なら影浦はフリーになる。
それを知っている女の子は、交代のタイミングで影浦に声をかけるつもりだった。
だが、影浦が交代する直前に、先生に呼ばれた。
「ちょっと職員室まで荷物を運んでくれないか」
「先生タイミング!」
そう文句を言いながらも、すぐに行って帰ってくれば間に合うと思い、女の子はダッシュで職員室に向かい、ダッシュでクラスまで戻ることにした。
クラスまであと少しのところで、影浦が水上、村上、穂刈と一緒にクラスの前で話しているのが見えた。
交代になったようだ。
今がチャンス!と思い、女の子は影浦に声をかけようとした。
「か、影浦「雅人くん」
女の子の声は、別の影浦の名前を呼ぶ声と重なった。
女の子が後ろを振り向くと、そこには女主人公がいた。
そして、
「女主人公」
影浦もまた、女主人公の名前を呼んだ。
「…っ」
その顔は、あまりにも優しく、そして愛情に溢れていた。
これは勝てない。
女の子は瞬時にそう判断した。
いつも水上たちに向けている少年っぽさの残る顔でも、クラスメイトと話すときの顔でも、イライラしている時の怒った顔でもない、ただただ愛情深い顔をした影浦。
女主人公にしか見せない顔があることに気づいた女の子は、そのままその場を去った。
女の子は友達に連絡を入れ、校舎裏にいることを伝えた。
しばらくすると、その子の友達がやってきた。
「どうしたの?告白したの?」
「…できなかった」
「なんで?まだ今日は半日あるじゃん!」
「違うの。影浦にはもうとっくに特別な子がいたの…」
「え?」
「…あんな顔するんだなー。もうね、その子のこと大好きっていうのが顔から溢れてたの…」
「…そっか…本当に言わなくていいの?後悔しない?」
「…うん。100%フラれるって分かってて、告白できるほど強くないから」
女の子が泣き出すと、その子の友達はその子をぎゅっと抱きしめた。
「元気出せー!男なんて、この世にいくらでもいるんだからさ!」
「うん…うん…」
たくさん泣いてスッキリした女の子は、「影浦よりもいい男をゲットするぞー!」と宣言した。