03

「おまえ、かげうらの次男の彼女だろ?」

入学してわりとすぐくらいに、隣の席の荒船くんに尋ねられた。
何を言っているんだこの人は、と思いながらも丁寧に訂正することにした。

「残念ながら、かげうらの次男の幼なじみです」
「え?おまえら付き合ってなかったのか。あの距離感で?」
「どの距離感なのかわからないけど、付き合ってないのよ」
「まじか。変なこと言って悪かったな」
「素直に謝れるところは、荒船くんの長所よね」

それからというもの、席が隣ということもあって荒船くんとよく話すようになった。

「苗字って、ボーダーに興味あったりするか?」
「え?」
「実は入隊試験を受けて合格したから仮入隊なんだ」
「そうなの?私、もうボーダーに入隊してるよ」
「そうなのか?だったら話が早い。一緒に行かないか?」

次の入隊式は9月だけど、仮入隊の荒船君は訓練用トリガーを使えるみたいで、正式入隊の前にトリガーに慣れておきたいそう。

「(私もまだまだなんだけどな)」
と思いながらも、まぁいいかとOKすることにした。

「そういえば、D組の犬飼って奴もいたな」
「犬飼くん?」

あー、同じクラスの女の子たちもキャーキャー言っていた彼かな?








荒船くんと一緒にボーダーに行くと、すでに雅人くんと北添くんが来ていた。

「あ?荒船じゃねーか」
「誰だれ〜?」
「よう」

荒船くんもすぐに気が付いて、二人に近づいていった。

「かげうらの次男じゃねーか。やっぱりおまえもボーダーだったのか」
「あたりめーだろ」
「こっちのでかいのは?」
「でかいって、確かにそうだけど酷いな〜。カゲと同じクラスのゾエさんです」
「よろしくな。俺も今日から仮入隊なんだ」
「丁度いい。俺たち4人で2対2でもやっか?」

うん。
思っていた通り。
雅人くんと荒船くんはすぐに仲良くなるなと思っていた。
三人のやり取りを聞きながら、私は内心とても喜んでいた。

人付き合いを極力避けていた雅人くんに、こんなにも仲良くできる友達ができたことが嬉しかった。
雅人くんのサイトエフェクトは、戦闘向きではあるけど、日常生活には負の側面が目立つから、毎日辛そうだったけど、ボーダーに入隊してからは笑顔が増えて、目に見えて明るくなってきた。
雅人くんが笑顔で楽しんでいる姿を見ていると、自分のことのように幸せだなと感じた。


「女主人公?」
「ん?どうしたの?」

何も話さない私のことを不思議に思ったのか、雅人くんが私の名前を呼んだ。

「どうしたのは、こっちのセリフだ。何黙ってんだ?」
「んー。雅人くんに友達が増えるの嬉しいなって思ってただけ」
「へいへい。おめーは俺のカーチャンか」
「こんな大きい子どもを生んだ覚えはないけどね」

雅人くんも、嬉しいんだな。
言ってることは可愛くないけど、顔が嬉しそうで私も嬉しくなって口元が緩くなった。

「あ!苗字ちゃんが笑うの、珍しいね!ゾエさんびっくり」
「確かに、苗字はあんまり感情を表に出さないよな」

二人に注目されて、少し恥ずかしくなる。

「あんまり見ないで」
「レアだな!いいもん見れた。苗字は綺麗なんだからもっと笑った方がいいと思うぞ」
「…」
「あ、荒船くん、だいぶストレートだね」
「荒船、おめーはブース入れ!」

なんという天然の人たらし。
他意はないと分かっていても、少し焦ってしまう。

荒船くんは、雅人くんに引きずられて行ってしまい、その場には私と北添くんが残った。

「いやー、びっくりだね。あんなストレートな褒め言葉、恥ずかしくてなかなか言えないよ」
心なしか、北添くんも顔が赤い。

「本当ね。他意はないって分かっていても照れるね」
「でも、確かに苗字ちゃんはあんまり感情を出さないよね?」
「うん。もう昔からの癖になってるから」


そう。
私の大切な幼なじみは、人から向けられる感情に敏感で、部屋で布団を被って泣いていることもあった。
チクチク痛かったり、むず痒い思いをしたり、プラスでもマイナスでも雅人くんに向けられた感情に敏感だった。
まだ子どもだった私は、雅人くんがなるべく苦しくならないように、子どもなりに考えた結果、なるべく自分の感情を殺してフラットに接することにした。
彼の隣にいるには、なるべく感情を向けない方がいい。

そうすることで、徐々に雅人くんから「心配の感情を向けすぎ」と言われなくなった。
その代わり、私は基本的に無表情で気持ちがよく分からないと言われることが増えたけど、私自身はそう言われることに不満はなかったからこれでいい。

「苗字ちゃんが健気すぎて、ゾエさん泣いちゃうよ〜!」
「ありがとう。でも別に私は苦労してないよ?雅人くんの方が大変だったから」

知りたくもない自分への感情を、常に知らされ続けている雅人くんの苦労は、私には理解してあげられない。

「少しでも雅人くんが、一緒にいてラクだなって思える人間でいたいんだ」
「苗字ちゃんは優しいね。絶対その気持ち、カゲに伝わってるよ!」
「ありがとう。私もゾエくんって呼んでいい?」
「もちろん!カゲにつられて女主人公ちゃんって呼びそうになってるから、ゾエさんも名前で呼ぶね」
「うん。ゾエくん、雅人くんと仲良くしてくれありがとう」
「こちらこそだよ」


「おい、ゾエ!」
ブースから出てきた雅人くんが、ゾエくんを呼んだ。

「おめー何女主人公と遊んでんだ!おめーもブース入れ!」
「はいはーい!今行くよ!」

うん、今日も雅人くんの世界は平和だな。



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