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「あそこが訓練場の入り口だよ!」

私が指をさすと、二人はスピードを速めた。
そして訓練場に入ると大きな声で「千佳!!」と三雲くんが呼んだ。

「…!?」

「そうかそうか、千佳ちゃんと言うのか」

そこには嬉しそうな顔をした鬼怒田さんが、小さい女の子の頭を撫でていた。
なんだこれ?

「すごいトリオンの才能だねぇ。ご両親に感謝しなきゃいかんよ」
「??は、はい」

その女の子は、戸惑っている様子だけど大丈夫なのかな?

「鬼怒田さんはロリコンだった…!?」
「別れて暮らしている娘さんを思い出すんだろ。たしか今中学一年生のはずだ」

佐鳥くんと東さんが何か言ってるけど…。

「女主人公」
「荒船くん」
「見ろよ、あの壁」
「本当に穴が開いてる」

荒船くんからの写真通り、壁に大きな穴が開いている。

「これ、あの小さい女の子が開けたの?」
「おう。すげーだろ」
「すごいね。トリオンの量、どのくらいあるんだろう」
「てか、今日防衛任務休みだったか?」
「そうよ。私も嵐山隊のお手伝いで今日は本部にいるって言ったじゃない」
「そうだったか」
「もう。それを覚えてて連絡してきたんじゃないの?」







風間さんに引き分けたり、戦闘訓練で1秒を切ったり、壁に大穴を開けたりと、三雲くんと新しく入った空閑くんと雨取さんは周りから一気に注目されるようになった。
特に空閑くんは、合同訓練も1位ですごく目立つ。

C級ブースのロビーにいると、空閑くんが時枝くんと一緒にやってきた。
どうやらソロランク戦をやるみたいだ。
あの子は強いから、あっという間にB級に上がってきそうだなーと思いながらランク戦の様子を見ていた。
私も負けてられない!

私がランク戦を終えてブースを出ると、空閑くんたちの姿が見えない。
一旦休憩しにいったのかな?
携帯が鳴ったので見てみると、雅人くんからの連絡だった。

『作戦室で寝てるから帰るとき起こせ』

「本当、作戦室でゴロゴロするのが好きね」

一言「了解」とだけ返信した。

ロビーの入り口が少し騒がしくなってきたので、そちらに目を向けてみると緑川くんと三雲くんがいる。

「あ!女主人公さん!」
「こんにちは、緑川くん」
「どうも」
「三雲くんも、こんにちは」
「女主人公さん知り合いなの?」
「この前の入隊式の時に会ったんだよ」
「ふーん。オレたち今からランク戦するんだ!見ててよ!」
「そうなの?」
「はい」
「わかった。じゃぁ二人とも頑張ってね」
「うん!」

そう言って、二人は空いているブースに入っていった。
10本勝負をするみたい。
でも、三雲くんは大丈夫かな?

「なんだぁ?妙にギャラリーが多いな」
「”三雲”…?」

「あ、米屋くんと空閑くん」
「苗字さん」
「苗字先輩」

知った声が聞こえてきたので振り返ると、米屋くんと空閑くん、そしてカピバラに乗った小さい男の子がいた。

「これ、どういう状況です?」
「緑川くんが三雲くんをソロランク戦に誘ったみたい」
「ふむ?」

10本勝負、結果は緑川くんの圧勝で10対0。

「あっおさむ!?負けた!」
「いつぞやのメガネボーイじゃん」
「ミドリカワ…?」

ブースから出てくると、男の子は三雲くんに対して「こらおさむ!負けてしまうとはなにごとか!」と言った。
この子は玉狛の子なのかな?

「なんか目立ってんなー」
「陽太郎?空閑…!」

「おつかれメガネくん」

上のブースにいた緑川くんが顔を出してそう言った。

「実力は大体わかったからもういいや。帰っていいよ。女主人公さん、ランク戦しよーよ!」
「うーん」

「なぁ、この見物人集めたのおまえか?」
「…ちがうよ。風間さんと引き分けたっていうウワサに寄って来たんだろ。オレは何もしてないよ」
「へぇ…おまえ、つまんないウソつくね」
「…!?」

空閑くんの雰囲気がいつもと違う。
どうやら、緑川くんがわざとギャラリーを集めて三雲くんに恥をかかせようしたと思っているみたい。

「おれとも勝負しようぜミドリカワ。もしおまえが勝てたら…おれの点を全部やる。1508点」
「な…!?」
「あれ?オレとの勝負は?」

空閑くんは元々米屋くんとソロランク戦の予定だったのかな?
だけど、空閑くんは三雲くんを馬鹿にされたことに腹を立てている様子。

「1508点ってC級じゃん。訓練用トリガーでオレと戦うつもり?」
「うん。おまえ相手なら十分だろ」
「…!!」

緑川くんもヒヤヒヤするようなことを言うことがあるけど、空閑くんも相当だ。

「…いいよ、やろうよ。そっちが勝ったら何がほしいの?3000点?5000点?」
「点はいらない。そのかわり、おれが勝ったら”先輩”と呼べ」
「…OK、万が一オレが負けたらいくらでもあんたを”先輩”と呼んであげるよ」
「いや、おれじゃない。ウチの隊長を”先輩”と呼んでもらう」

そう言うと、空閑くんは三雲くんを指さした。
なるほどね。

「くっそー、白チビはオレが先約だったのにー」
「あ…三輪隊の…」
「米屋陽介。陽介でいいよ、メガネボーイ」
「メガ…!?」
「ついでに苗字さんも、陽介でいいですよ」
「考えておくね」
「陽介はしおりちゃんのイトコなのだ」
「え、宇佐美先輩の!?」
「そしておれの陽仲間でもある」
「陽仲間…」

「この子は玉狛の子?」

私が米屋くんに聞くと「そうだ!おれはヨータロー。きみかわいいね。おれのおヨメさんこうほにしてあげてもいいよ」と答えてくれた。
「お嫁さん?」
「やめんか」

二人のランク戦が始まるのを私たちはロビーのソファーに座って観ることにした。

「そういえば、緑川はどの部隊所属なんですか?」
「緑川くんはA級4位部隊だよ」
「強いとは思ったけど、そんなに上だったんですね」
「陽介とどっちが強い?」
「ソロだとどーだろなー。オレ、ポイント覚えてねーし。勝ったり負けたりだな」
「米屋くん、自分のポイントに無頓着なのね」
「苗字さん覚えてます?」
「アステロイドが7000点ちょっとで、スコーピオンがもうすぐ6000点かな?」
「じゃぁもうすぐオールラウンダーですね」
「うん」

そんな話をしていると、あっという間に最初の2本が終わって、緑川くんが2本先取した。

「あー、けっこう経験の差があんなー」
「本当ね」
「けいけんの差ってなんだ!ゆうまもミドリカワに負けるっていうのか!?」
「いや、逆逆。見てな、そろそろ勝つぞ」
「空閑くん、本当に三雲くんが大切なんだね」
「?」

3本目は、空閑くんの勝ち。

「捕まえた。もう負けはねーな」
「どういうことですか…!?」
「ウチの隊の攻撃を4対1で凌いだやつが、緑川一人を捌けないわけねーだろ」
「何の話?」
「おっと、これはオフレコで」
「まぁいいけど。三雲くんのことを悪く言われて怒っちゃったみたいね。二人とも、仲が良いのね」

二人の戦いはどんどん進んで、後残り2本になった。

「緑川は才能もあるし、実際つえーけどまだボーダー入って1年かそこら。覚えたての芸を見せたくてしかたねー犬っころの動きだ。けど白チビは…もっとずっと静かで淡々としてる。ただうまく相手を殺すための動きだ」
「さすが、実戦経験が豊富なだけあるよね」



最後の1本が終わって、2対8で空閑くんの勝ち。

「よくやったゆうま!おれはしんじてたぞ!」

ブースから出てきた空閑くんに、陽太郎くんは声をかけた。

「よーし、白チビ。今度こそオレと対戦」
「遊真、メガネくん」

米屋くんがランク戦に空閑くんを誘おうとしたところで、迅さんの声がした。

「!迅さん!?」
「どもども。ちょっと来てくれ。城戸さんたちが呼んでる」
「城戸司令がぼくたちを…?」

迅さんが来たことに気づいた緑川くんは、ブースから飛び出てきた。

「迅さんS級やめたの?じゃあ対戦しよう!対戦!」

迅さんの周りを回っている姿は、本当に犬のようだ。

「すまんねよーすけ先輩。勝負はまた今度な」
「すまんな陽介」
「ちぇー」
「なら私とランク戦やる?」
「いいんですか!やりましょー!」
「なんだかかわいそうだから」
「やりぃ!」

米屋くんは嬉しそうにブースに入っていったので、私も空いているブースを探して入った。
雅人くんに、もう少しかかると連絡を入れて、米屋くんと10本勝負を始めた。



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