崩れ落ちる瓦礫の中を、走り回る一人の少年。
「父上ー!母上!」
「もうここは無理だ!おまえもこっちに逃げろ!」
「離してください!探しに行かないと!」
少年は捕まれた腕を振り払うと、そのまま駆け出した。
だが、途中で転び、その場に転倒する。
「いたっ…」
少年は立ち上がると、また走り出そうとした。
「男主人公!」
「クローニン様!」
「何をしている!一緒に逃げるぞ!」
「父上と母上を探しているのです!」
「…二人は…もう」
「…そんな…」
「男主人公!早く逃げましょう!ここはもう危険よ!」
「…私はここに残ります…」
「な!何をバカなことを言ってるの!そんなこと、私が許さないわ!」
「…男主人公、アリステラのマザートリガーはこのお二人が継承している。私たちは、最後まで王家に仕える人間だ」
そう言われ、少年は自分の使命を思い出した。
「…わかりました」
この日、ネイバーフッドにある一つの国であったアリステラは滅んだ。
だが、アリステラのマザートリガーは失われることはなく、若き王女と生まれたばかりの王子に継承され、ボーダーの助けを借りて玄界へと脱出した。
あれから約5年。
「さぁ着いた。ここが我らがボーダー、玉狛支部だ」
迅は三雲、空閑、雨取の三人を連れて、玉狛支部にやってきた。
「川の真ん中に建物が…!」
「ここは元々は川の何かを調査する施設で、使わなくなったのを買い取って基地を建てたらしい。いいだろ」
迅はそう言うと、携帯を取り出した。
「隊員は出払ってるっぽいけど、何人かは基地にいるかな?」
「(玉狛支部の隊員…迅さんの同僚…やっぱりみんな腕利きなのか…?)」
「ただいま〜!」
と、迅が玄関の扉を開けると、カピバラに乗った少年が出迎えた。
「!?」
「おっ陽太郎。今だれかいるか?」
「…しんいりか…」
「”新入りか”じゃなくて」
「おぶっ」
迅は陽太郎の頭をチョップした。
「迅さんおかえり〜」
階段の上を見上げると、そこには玉狛支部のオペレーター、宇佐美栞が荷物を運んでいた。
「あれ?え?何?もしかしてお客さん!?やばい!お菓子ないかも!」
「…」
慌てた様子の宇佐美を、三雲は何とも言えない表情で見つめる。
三人は玉狛支部のリビングに案内されて、ソファーに座る。
「どらやきしかなかったけど、でもこのどらやきいいやつだから食べて食べて!アタシ、宇佐美栞。よろしくね!」
そう言って差し出されたどらやきを三人はありがたく頂いた。
「なんていうかここは、本部とは全然雰囲気がちがいますね」
「そう?まぁウチはスタッフ全員で11人しかいないちっちゃい基地だからねー。でもはっきり言って強いよ!」
「!」
三雲の疑問に、宇佐美はハッキリと答えた。
「ウチの防衛隊員は迅さん以外に4人しかいないけど、みんなA級レベルのデキる人だよ。玉狛支部は、少数精鋭の実力派集団なのだ!」
「(全員A級…)」
「キミもウチに入る?メガネ人口増やそうぜ!」
「さっきあの…迅さんが言ってたんですけど、宇佐美さんもむこうの世界に行ったことがあるんですか?」
「うんあるよ。一回だけだけど」
「じゃぁ…そのむこうの世界に行く人間って、どういうふうに決めてるんですか?」
「…!?」
雨取の質問に三雲は驚いた。
「それはねーA級隊員の中から選抜試験で選ぶんだよね。大体はチーム単位で選ばれるから、アタシもくっついて行けたんだけど」
「A級隊員…ってやっぱりすごいんですよね…」
「400人のC級、100人のB級のさらに上だからね。そりゃツワモノ揃いだよ」
「(千佳のやつ…まさかむこうの世界に…?)」
「よう3人とも」
迅が部屋に入ってきて、3人に泊っていくことを提案した。
そして、空閑と三雲を呼ぶと、3人は支部長のいる部屋に向かった。
2人が支部長の林藤と話をしている間、雨取はボーダーについて宇佐美に聞いていた。
そこで、雨取はボーダーに入ることを決意し、空閑も同じようにボーダー入隊を決めた。
3人でチームを組んで、ネイバーにさらわれた雨取の兄と友達を取り返すために、そして空閑の体を元に戻す手がかりを探すためにA級昇格、そして遠征部隊選抜を目指すことになった。
次の日、A級を目指すための講義が宇佐美によって開かれた。
まだボーダーについて何も知らない空閑と雨取のためにも、一つずつ説明をしていく。
「千佳ちゃんと遊真くんの二人に、B級に上がってもらわなければならない!それはなぜか!」
ボーダーは、入隊するとまずC級の訓練生となる。
そしてB級から正隊員と呼ばれるようになる。
正隊員にならなければ、防衛任務にも、A級に上がるためのランク戦にも参加することができない。
「”ランク戦”?」
「そう、ランク戦。上の級に上がるには、防衛任務の手柄だけじゃなく、”ボーダー隊員同士の模擬戦”でも勝ってかなきゃダメなの。それが通称”ランク戦”」
宇佐美は、空閑や雨取が理解しやすいよう、図を使いながら丁寧に説明をしている。
「遊真、おまえはボーダーのトリガーに慣れる時間がいるだろ。ランク戦におまえのブラックトリガーは使えないぞ」
「ふむ…?なんで?本部の人に狙われるから?」
「それもあるけど、ブラックトリガーは強すぎるから、自動的にS級扱いになってランク戦から外されるんだ。メガネくんや千佳ちゃんと組めなくてさびしくなるぞ」
「ふむ…そうなのか、じゃあ使わんとこ」
「千佳ちゃんはどうしよっか?オペレーターか戦闘員か…」
「そりゃもちろん戦闘員でしょ。あんだけトリオンすごいんだから」
雨取は、いざという時に自分の身は自分で守れるよう、戦闘員になることに決まった。
防衛隊員は戦う距離によって、アタッカー、ガンナー、スナイパーの3つのポジションに分かれている。
「わたくしめの分析の結果、千佳ちゃんにいちばん合うポジションは…」
「スナイパーだな」
「あー!!迅さん!アタシが言いたかったのに!」
雨取の性格や特徴を考慮するとスナイパーが適任であるということになった。
「なんで言っちゃうのもー!」
「おまえがもったいぶるから」
そんな話をしていると、リビングの扉が勢いよく開いた。
バン!!
「あたしのどら焼きがない!!!誰が食べたの!!?」
髪の毛の長いセーラー服を着た女の子は、陽太郎を見つけると「さてはまたおまえか!?おまえが食べたのか?!」と両足を持って宙づりにした。
「ごめーん、こなみ。昨日お客さん用のお菓子に使っちゃった」
「はあ?!」
宇佐美がそう言うと、小南と呼ばれた少女は宇佐美に近づき頬っぺたを引っ張った。
「また今度買ってくるから〜」
「あたしは今食べたいの!!」
「なんだなんだ。騒がしいな小南」
「いつもどおりじゃないすか?」
「小南さん、女性なんですからあまり騒がないでくださいね」
「(この人たちが玉狛支部の…?)」
小南の後に、3人の男が部屋に入ってきた。