私たちの試合は夜の部なので、昼の部の試合を見に行こうかなと思っていた。
ちょうど、ゾエくんが解説をやるらしい。
観覧室に向かおうとしていると、あたりを見回している男の子を見つけた。
「どうしたの?」
「!!」
振り返った男の子は、外国人のような顔立ちをしていた。
「なんだ」
「あ、ごめんなさい。何か困ってる様子だったから」
「よくわかったな」
やっぱり困ってたんだ。
「どうしたの?」
「入隊式に行きたいんだが、ここはどこだ?」
「ここは本部の廊下で、入隊式に行きたいならあっちのエレベーターを使って3階に行かないとだよ」
「そうか。わかった」
そう返事をしてくれたけど、その場から動こうとはしない。
「もしかしてエレベーターの場所もわからない?」
「…」
「連れて行ってあげるね」
「助かる」
そう言って、その子は私の後ろをついてきた。
「私は影浦隊所属の苗字女主人公」
「…ヒュースだ」
「ヒュースくん、よろしくね」
「ああ」
ヒュースくんの肩をみると、玉狛支部のエンブレムがついていた。
玉狛の子なのかな?
エレベーターが3階に着く。
「ここまで来ればあとはわかる?」
「あそこだろ?問題ない」
ヒュースくんはそう言って、歩き出したが止まってこちらを振り返った。
「?」
「…助かった」
「いいえ。どういたしまして。入隊式頑張ってね」
ヒュースくんは少しだけ口元を緩めると、そのまま入隊式の会場に向かった。
今日の上位グループ昼の部は、生駒隊と王子隊、そして玉狛第2の試合だから気になっていた。
ただ、ヒュースくんの案内をしていたら、試合は半分ほど過ぎていた。
「結構進んでるみたいだね」
スクリーンを見てみると、ちょうど蔵内くんが空閑くんに落とされた。
「バッグワーム奇襲…」
あたりを見回したけれど、知った顔はいなさそう。
大人しく、後ろの空いている席に座る。
試合は王子くんが流れを作っていったけれど、玉狛がそれに都度対応して逃げ切り勝利という形だった。
『ここで試合終了!生き残った生駒隊には生存点が追加されます。が…最終スコアは4対3対3!玉狛第2の勝利です!』
実況は国近さんで、解説はゾエくんともう一人は当真くんだったみたい。
二人の解説もなかなか良かったな。
『さて、今回の試合はどうだったかね?』
『王子隊が流れを作って、玉狛がそれを捻じ曲げて、生駒隊はいつも通りな試合だったな』
『接戦だったね。オージ惜しかったなー。最後、空閑くんと刺し違えてれば単独4点で勝ってたんだよね。雨取ちゃんが通常弾撃てないとしての話だけど』
『王子隊は露骨にワイヤー陣をつぶそうとしてたが、玉狛が予想外にがんばったな』
前回の試合で見た、三雲くんのワイヤー戦術。
あれはたしかに脅威だけど、三雲くん、空閑くん、雨取さんの誰か一人でも最初に落としてしまえば完成しなくなる。
『生駒隊が王子隊みたいに最初から玉狛狙ってたら、4点獲るのはきつかっただろーぜ』
『集中攻撃されたらどこの隊だってきついんじゃないの?』
『玉狛は特に集中攻撃されやすいってこった。ほっとくとやばいタイプの戦術だからな』
当真くんの言う通りだ。
空閑くんは単体でもA級レベルの強さがあるのに、ワイヤーが付くと機動力が上がってさらに怖い相手になる。
ワイヤーの奥からは、シールドでは防御ができないレッドバレット狙撃がある。
『得点リードされると特にきつそうだよね』
『だから今後は、今回の王子隊みたいにワイヤー陣完成前を狙う部隊が増えるってこと?』
『たぶんな。チカ子とメガネはまともに戦えばまだ弱えーときてる。完成してからどうにかするより、完成前につぶすほうが楽だって、大抵のやつは考えるんじゃねーの?』
『転送位置次第では、空閑くんはどっちかしか助けられないもんね』
ゾエくんも当真くんも、しっかり試合の振り返りをしていて勉強になる。
当真くんは戦術についてはここまでしっかり考えられるんだから、もう少し普段の勉強も頑張ってほしいところ。
『さっきも言ったが、玉狛は実力的に空閑がいないところが穴になる。今回は機転でうまく乗り切ったけど、それにも限界があんだろ』
雨取ちゃんのジャンプフェイクとハウンドを地面に撃って目くらましに使う方法は良かった。
『メガネもがんばってんだろーがまだまだ足りねぇ。せめて、空閑のほかにもう一人…フロント張れるつえーやつがいればなぁ〜〜』
解説も終わり、隊員たちが続々と観覧室を後にした。
「ゾエくん、当真くん、国近さん、おつかれさま」
「おぉ〜女主人公ちゃん〜!ありがとう」
「女主人公ちゃん見に来てたんだね!」
「よお」
「うん。みんなゆるーい感じだったけど、実況も解説も上手だったね」
「女主人公ちゃんこの後どうする?作戦室戻るなら一緒に行こう」
「そうね。試合見てたら体動かしたくなったから、ソロランク戦しに行こかな」
「お!やる気だね〜そういうの好きだぜ」
「そかそか。カゲは?」
「雅人くんは作戦室で寝てるよ」
私は三人と分かれてC級ブースに向かった。
ブースの入り口で、東隊の小荒井くんと諏訪隊の笹森くんに出会った。
「苗字さん!こんにちは!」
「笹森くん、こんにちは」
「苗字さんだ!どうしたんすか?」
「ソロランク戦しに来たの」
「そしたらオレとやりましょうよ!」
「いいよ」
「やったー!」
二人とC級ブースに入ると、なんだかいつもよりざわざわしていた。
「なんかザワついてるな」
「なんだろ?」
周りを見ていると、三浦くんと巴くんが話しをしていたので、小荒井くんは二人に話しかけた。
「三浦先輩!なんかあったんすか?」
「それが…今日入隊してもうBに上がった人が出たらしいんだ」
「今日入隊…!?じゃぁ1日…いや0日で…!?」
「最短記録じゃないっすか!?」
「そんなすごい子がいるんだね」
「勝負しましょうよ、勝負!そいつもうB級なんでしょ?」
「うーん興味はあるけど…」
「むこうはさっきまでC級だったから、まだトリガー1個しかもってないですよ。シールドもない」
と、巴くんが言う。
「あ、そっか」
「こっちもブレード一本だけで、ポイント移動なしなら大丈夫…かなぁ?どう思いますか苗字さん?」
「そうね…とりあえず聞いてみて、ダメだったらまた今度にしたら?」
「そうしましょう!」
噂の新人は時枝くんと一緒にいるようで、三浦くんが時枝くんに聞きに行った。
「いいって」
「よっしゃ!オレが一番手だ!」
相手から了承を得たので、早速小荒井くんが仮想フィールドへ。
5本勝負をすることになった。
画面を見ると、そこにいたのは迷子だったヒュースくんだった。
「あ…」
「どうしました?」
「ううん、なんでもない」
あの迷子のヒュースくん、実はめちゃくちゃ強かったんだね。
小荒井くんとの5本勝負は、5対0でヒュースくんのストレート勝ち。
続いて巴くん、三浦くんも挑戦したけれど、同じように5対0でヒュースくんの勝ちだった。
「なんなんだ!?こいつ!」
「めちゃくちゃ強いよ!」
三人は驚いた声を上げていた。
「むこうの動きは頭に入れました。一矢報いてきます」
そう言って挑戦したのは笹森くん。
1本獲って、5対1。
「いよぉーし!一矢報いた!」
「ほんとに”一矢”だけどね…」
「ほんとに強いですね。これ、こっちがフル装備でも勝負になるんじゃ…」
「いや、さすがにそれは…。苗字さんもやりますか?」
「私は弧月使わないからなー。興味はあるけど…」
「あっ!」
外を見ていた小荒井くんが「辻先輩!」と辻くんを見つけたようだ。
「…?」
「辻先輩こっちこっち!」
「え?え?何?」
「いいからいいから!」
「あ、苗字さん!こ、こん、こんにち、は…!」
「辻くん、こんにちは」
小荒井くんはほとんど説明をせず、辻くんを仮想フィールドに転送した。
さっきまでの相手よりも手強い、と思ってそうなヒュースくんの顔。
だけど、辻くんも5対2で負けてしまった。
「マスタークラスでも2本かあ〜〜!!」
「強い…!」
「太刀筋が他の人とは違う。実際に、剣術とかやってる人なんじゃない?で、誰?」
「えーと、それが…」
「あーーー!!」
小荒井くんが大きな声を出すので、そっちを見てみるとイコさんが嵐山さんにちょっかいをかけていた。
「イコさん!」
「ん?どないしてんコアラ」
そう言うと、イコさんがブースに入ってきた。
イコさんは対戦結果の出ている画面を見ると「ほうほう、ふんふん、マジで?」と言った。
「辻ちゃん相手に5-2とか、相当な猛者やん、俺も戦りたいわ」
「やった!」
「苗字ちゃんにかっこええとこ見せへんとな」
「楽しみにしてます」
[ソロランク戦5本先取勝負。開始]