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「女主人公、おめー大丈夫か?」
「うーん…いつものことだから大丈夫。薬飲んで、寝てれば治るよ」

女主人公は布団の中にいた。
女の子の日、それも一日目で体調がすこぶる悪い。
一日目だけは毎回このような調子だから、影浦も対応には慣れている。

「無理すんなよ」

そう言って、女主人公の母から渡された湯たんぽを布団の中に入れる。

「雅人くんありがとう」
「…俺は今日空閑たちとランク戦してからウチでメシ食ってるから、何かあればすぐ呼べ」
「うん」
「別の日に変えるか?おめーも来たがってただろ」
「それはみんなに悪いから。また次の機会作ってよ」
「…わかった。とにかく薬飲んで寝てろ」
「うん。いってらっしゃい」

影浦は女主人公の部屋を出て、ボーダーに向かった。



「よう、カゲ」
「おう」

そこには約束をしていた村上の姿があった。

「女主人公は?一緒じゃないのか?」
「体調悪くて寝てる」
「大丈夫なのか?」
「あー…大丈夫だろ」
「そうか。それならいいけど」

2人がそんな話をしていると、「どうも、おまたせ」と空閑もロビーに到着した。

「おせーんだよ」
「おつかれさん」

この3人は、次のランク戦の対戦相手だ。

「さーて、次の試合の前に一丁軽く揉んでやるかね」
「こっちのセリフだボケ!」

3人がそれぞれ10本勝負を終えると、夕飯の良い時間になってきた。

「そろそろ終わるか?」
「そうだな」

そう言うと影浦は絵馬に連絡を入れた。

「ユズルも呼ぶ」
「いいな。他にも来れそうなやつに声かけてもらうか」
「かげうら先輩の家って、何屋さんだっけ?」
「お好み焼きだよ」
「ほほう。おれ、お好み焼きって初めて食べる」
「なんだ?おめーの住んでたとこにはなかったのかよ」
「ありませんなー」
「んじゃあうめーから楽しみにしてな」
「だな。カゲの家のお好み焼きは日本一だよ」

絵馬が当真を連れて合流し、北添もそこに合流。
6人はかげうらに向かった。







「ほっ」

ぺんっ
ジュー!

空閑がお好み焼きをひっくり返す。

「おー、やるじゃねーの」
「上手い上手い」

空閑がひっくり返したお好み焼きに、北添はソース、マヨネーズ、かつおぶしを順番にかけた。

「おお!かつおぶしが生きてるみたいだ」

焼けたお好み焼きを、空閑に取り分けると大きな口で食べる。

「んまい」
「どーだ!うめーだろコラ」
「うまうま」
「ヤケドするなよ」

村上は空閑に水を渡した。

「にしてもカゲ、おめーずいぶん空閑のこと気に入ってるよな」
「あー?」
「だよね。自分から店に連れてくるとか。カゲに友達が増えて、ゾエさんうれしいよ」
「うるせー!こいつは他のやつとは違うんだよ」

影浦はそう言うと空閑を指さした。

「普通のやつは、攻撃してくるときに攻撃より先に”攻撃すんぞ”って感情が刺さってくる。俺のクソ能力のせいでな。けど、こいつにはそれがねえ。メカか昆虫かってくらい、攻撃の感情が読めねえ」
「ムシ?」
「こんなに感情を消して攻撃してくんのは、こいつ以外じゃ東のおっさんくれーのもんだ。だから斬り合いにスリルがあっておもしれえ。そこがいいんだ」
「なるほど。無心の剣か…」
「ふむ、よくわからん」

ある程度お腹が満たされると、影浦は話を変えた。

「空閑、こいつ、おめーんとこのチビスナイパーに気ぃあるみたいなんだわ」
「!!?」

影浦は隣に座る絵馬のことを見ながらそう言った。
影浦の言葉を聞き、絵馬は飲んでいた水を吹き出した。

「ほう、お目が高い。チカは一本の芯が通ったいいやつです」
「…」
「ユズルにガールフレンドが…ゾエさんうれしいよ」
「うれし泣いてばっかりだな、ゾエ」
「うれしかねーよ。こいつ、次の試合わざと負ける気だぞ」
「雨取ちゃんに勝ちを譲るってこと?ユズルだけに」

絵馬は「…だって、べつにうち遠征狙ってるわけじゃないじゃん」と言った。

「だったら真剣に遠征狙ってる人に譲ったほうがいいんじゃないの?」
「だからってわざと負けるってのは…」
「…」
「あー、そのへんは大丈夫なんでおかまいなく。チカは遠征行くの決まってるし」
「え…?」

空閑の言葉に絵馬は顔を上げる。

「どーいうこった?」
「チカはトリオンがすごいから、チカがいると遠征の艇をでっかくできるんだと。城戸さんは遠征に人数たくさん連れて行きたいから、チカを貸してくれって頼まれてんの」
「そういえば、B級からも何人か遠征メンバー選ぶって、こないだ通達があったね」
「遠征艇はせめーからな。チカ子のトリオンで艇を増築するわけか」

空閑の話を聞いた影浦は「ならなんも問題ねえじゃねーか。遠征行きが決まってんならわざと負けてやる必要もねえ」と、絵馬を説得する。

「遠征行きが決まってるのは雨取さんだけでしょ。一人で行くより、チームで行くほうが安心できるに決まってるじゃん」
「ふむ?」
「それはたしかにそうか」
「あー言えばこー言うなこいつは〜」

影浦は絵馬の頭を乱暴に撫でた。


「いらっしゃいませー」


「お?なんだ?何の集まりだ?」

かげうらの扉が開くと、荒船と穂刈がお店に入ってきた。

「荒船、穂刈」
「あらふねさん」

二人が隣のテーブルに座ると、村上がさっきまでの話を簡単に説明する。

「…なるほど。話は大体わかった。けど、何も難しいことはないだろ」

村上の話を聞いて、荒船がそう言った。

「絵馬が個人で遠征メンバー目指して、玉狛のチビちゃんについて行けばいいだけの話だ」
「…!オレが遠征部隊に…!?」
「チビちゃんが心配なら自分で行って自分で守れ」
「自分で…」

「まぁ手を抜いてくれてもくれなくても、こっちはどっちでもいいけどね。どっちにしろ勝つのはうちだ」
「…」

空閑のその言葉に、絵馬はお金を机に置くと席を立った。

「ととと、どこ行くの?ユズル?」
「基地に帰る。帰って玉狛のログ見直す」

そう言うと、絵馬はお店を後にした。

「…あのバカ金置いて行きやがった。奢りだっつってんのに」
「でも吹っ切れたみたいだな。”勝ちを譲る”って顔じゃなかった」
「よかった〜荒船くんのおかげだよ」
「そうか?そういえば、カゲ。女主人公はどうした?」
「あいつは寝てる」
「寝てる?なんだ?具合でも悪いのか?」

荒船が影浦に聞くと「女にしかわかんねーのがあんだろ」と言葉を濁してそう言った。

「ああ、なるほどな」
「今日だけだから心配すんな」

「あらふねさんって、苗字さんと仲良いんだね。付き合ってるの?」
「は?」
「おいおい空閑」
「む?」
「カゲ、おまえ空閑に言ってないのか?」
「聞かれてねーのにいちいち言わねーよ」
「女主人公が付き合ってるのは俺じゃなくてカゲだ」
「なんと。かげうら先輩、大変失礼しました」

空閑は影浦に対して深々と頭を下げた。

「まだ荒船とって勘違いしてるやつ多そうだな。ま、俺も最近まで知らなかったけどな」
「いつから付き合ってるの?」
「空閑もこういう話好きなんだな」
「まあね」
「いつでもいいだろ」
「付き合い始めたのは夏くらいだけど、こいつらは生まれたときからの幼なじみなんだよ」
「なんで荒船が答えんだよ!」
「ほほう。気心の知れた仲ってやつですな」
「おめー難しい言葉知ってんだな」

影浦と女主人公の話で盛り上がっていると、またかげうらのお店の扉が開き、今後は仁礼がやってきた。

「おー!寂しい男どもよ!ヒカリさんが来てやったぞー!」
「おせーよ。もう食い終わったぞ」
「アタシにも1枚焼け!おっす、あらふね&ポカリ!」



仁礼が食べ終わると、それぞれお店で解散し、北添がバイクで空閑を玉狛まで送って行った。



「女主人公、入るぞ」

影浦は女主人公の部屋を訪れる。

「ん…雅人くん?」
「わりぃ起こしたか?」
「ううん…大丈夫」
「体調はどうだ?」
「うん。だいぶマシになったよ」

女主人公が体を起こすと、影浦も女主人公のベッドに座る。

「お好み焼きのいい匂いがする」
「おめーは明日な」
「うん。今日は楽しかったみたいだね」
「まあな。ユズルも、もう大丈夫そうだ」
「そっか。それならよかった。明日には体調も回復すると思うからまた訓練頑張るね」
「ほどほどにしろよ」
「うん」
「また明日迎えに来る」
「わかった。わざわざありがとう」

影浦は女主人公の部屋を出ると、自分の家に帰って行った。



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