今、影浦隊と玉狛第2は同点で横並びなので、影浦隊が2位。
B級ランク戦ROUND8が終わるまで最終順位がわからないという、今までにない展開になっていた。
最終戦まで後数日。
そんな大事な日に、女主人公と影浦はケンカをしていた。
「まあまあ苗字ちゃん。カゲの性格考えたらそうなるんは仕方ないんとちゃう?」
「だって…私が心配してること、まったく気づいてないんだよ?」
女主人公は生駒隊の作戦室にいる。
影浦や荒船、村上から逃げているのだ。
「うちに逃げてもしゃーないやろ。ちゃんとカゲと話せな」
「今はまだ雅人くんと話したくないの」
「苗字ちゃんも頑固やな」
水上は頭を掻くと、女主人公にわからないように影浦に連絡を入れた。
「苗字さん、だいぶ荒ぶってますね」
「隠岐くーん…」
「なんですか〜」
「隠岐くんのその感じ、とっても癒される」
「ほんまですか?よければもっと癒されます?」
そう言って隠岐は女主人公を抱きしめようと、両手を広げる。
「やめんかい」
が、水上がそれを阻止する。
「水上先輩、痛いです〜」
「隠岐くんの冗談に決まってるでしょ」
「冗談やなかったときがめんどいから止めてん」
「ほんで、苗字さんはこのままでいいんですか?」
「…このままはいやだけど、今は顔を見たくないの」
ROUND7が終わった次の日、影浦、荒船、村上、そして女主人公の4人はラウンジでご飯を食べていた。
「昨日の試合はおもしろかったな」
「結構接戦だったな」
「にしてもカゲ。おまえ犬飼に色々言われてたな」
「遠征狙ってるのか?」
「…別にそんなんじゃねーよ」
「…そんなことあるでしょ?ユズルくんのために2位をキープしたくて空回りしてたくせに」
「うるせー!」
その影浦の様子を見て、荒船は「絵馬は個人でも遠征狙うんじゃないのか?」と聞いた。
「一人よりチームで行った方がいいだろ」
「それは、まぁそうだな。あの時絵馬も言ってたけど、チームで行くほうが安心だよな」
「でも、それってイコール雅人くんも行くってことだよね?」
女主人公がそう言うと、三人は女主人公を見る。
「なんだ?女主人公はカゲが遠征に行くのは反対なのか?」
「…前も言ったけど、遠征先って敵国ってことじゃない。そんなところで向けられる感情って、雅人くんにとってとても不快だと思うの」
「まぁ…普通の感情ではないな」
「そんなところに雅人くんを連れて行きたくないっていうのが本音」
「だからって、ユズル一人じゃ心配だろうが」
「それは分かるけど…でも私は雅人くんの方が心配なの」
女主人公の言葉に影浦は顔をしかめる。
「別に普段と変わんねーよ」
「変わるでしょ」
「変わんねー」
「変わるよ!敵国って、向けられる感情はきっと”殺意”だよ!?普段のランク戦の”攻撃すんぞ”っていう感情とは全然違うでしょ!」
女主人公の気持ちが伝わらない影浦に、女主人公は少し苛立ちながらいつもよりも少し大きな声を出した。
このように女主人公が怒る姿を見たことがない荒船と村上は驚いた顔をしていた。
そして、周りの隊員たちも、女主人公のいつもとは違う雰囲気に驚いていた。
「落ち着けよ」
「落ち着いてるよ!雅人くんは自分のことをもっと大切にしてよ!私は、今まで向けられたことがない感情に苦しむ雅人くんを見たくないの!」
「勝手に決めんなっつーの!行ったこともねーんだから、まだわかんねーだろ!」
「行ったことはないけど、当真くんとか出水くんたちの話を聞いてたら大体想像できるでしょ!」
「お…おい二人とも落ち着け」
荒船が二人の間に入って言い争いを止めようとする。
だが、二人の耳には入らない。
「ユズルのことが心配だって話から、なんで俺の話になんだよ!」
「ユズルくんのことを心配してる雅人くんが、私は心配なの!私だって、ユズルくん一人で行くよりも、チームで行くほうが安心できるっていうのはわかるよ。でもそれ以上に雅人くんが苦しむ姿を見たくないの!」
「だから!んなことまだわかんねーだろって言ってんだよ!」
「〜〜〜〜っ!雅人くんのバカ!」
女主人公はそう言うと、席を立ちラウンジから走り去っていった。
「あ!おいこら女主人公!」
影浦はその後を追おうとしたが、荒船によって止められた。
「なんだよ!」
「カゲ、少し落ち着け。今、女主人公を追いかけたところで逆効果だろ」
「二人とも頭に血が上っててさ冷静に会話できてないな」
「少し時間を置いてからにしたほうがいい」
「…チッ!」
二人にそう言われると、影浦はあきらめて席に座り直す。
「なんなんだよ!」
「おまえのことが心配なんだろ」
「だからってあんな過剰に心配する必要ねーだろ!まだどうなるかもわからねーのに」
「それだけ女主人公はカゲのことが大切ってことだろ」
「昔から、おまえがサイドエフェクトで苦しんでる姿を見てきてるんだ。過剰に心配するのも仕方ないだろ」
「…」
「実際、ランク戦の”殺意”と紛争地域の”殺意”じゃ、本当に別物だと思うぜ。あっちではマジで命のやり取りをしてるんだ。俺たちのランク戦とはわけが違う」
影浦は荒船にそう言われて、殺意の違いを冷静に考えて、そう言われれば、たしかにそうなんだろうな、と納得した。
「あー、クソ!」
「ちゃんと女主人公に謝るんだな」
「今なら女主人公の気持ちもわかるだろ?」
「…わーってるよ」
影浦は女主人公に連絡を入れる。
が、いつまで経っても返信はこず、電話にも出ない。
「…こりゃかなり怒ってんな」
「カゲって女主人公とケンカしたことあるのか?」
「…ねー」
「こんだけ一緒にいて初めてのケンカかよ」
「…どうすりゃいいんだ?」
「謝るしかないな」
「…クソ」
「つーか女主人公のやつバカって言ったな。あんな風に怒鳴るのも初めて見た」
「よっぽどカゲのことが心配だったんだろうな」
「うるせーな!女主人公探すぞ!」
影浦たちは手分けして女主人公を探すことにした。
そして、冒頭に戻る。
「もう苗字さんはうちの子になりましょうよ」
「なんでやねん」
「でもそうすると一人抜けないといけなくなっちゃうよ?」
「ほんなら水上先輩にお願いして、影浦隊に移籍してもらいましょ」
「俺と苗字ちゃんのトレードやねって、んなわけあるかい」
「おぉ関西のノリツッコミ」
女主人公の怒りはだいぶおさまっていた。
ただ、影浦や荒船たちの連絡を無視し続けているのは意地でもあった。
「カゲたちならすぐここに辿り着くと思うで?」
「どうだろうね。私のことわかってそうで、わかってない気がするから」
と、そこで生駒隊の作戦室が開いて生駒が入ってくる。
「なーなー。うちの作戦室の前にカゲたちがおんねんけど、どうしたん?」
「ほら見てみぃ」
「…水上くん連絡したでしょ…」
水上は女主人公の言葉を無視して席を立ち、作戦室の扉を開けると外にいる影浦、荒船、村上に声をかけた。
三人は水上に連れられて、生駒隊の作戦室に入る。
「…」
「…」
「…ほら、さっさと言え」
「…チッ」
荒船に背中を押されて、影浦は女主人公の前に立つ。
「…悪かった」
「…何に対して謝ってるの?」
「…おめーの気持ちをちゃんとわかってなかったこと」
「私が言ってもわからないのに、荒船くんたちに言われると納得するんだね」
「だから!」
「カゲ」
「…ユズルのことが心配だから、もしチームで遠征行けるってなったら行ってやりたいと思ってる。けど、別に俺自身を軽んじてるわけじゃねー。俺の能力は確かに敵地だとひでーもんだと思うけど、本当にヤバくなった時のことも上と相談して考える」
「…本当?」
「おう。だからそん時は女主人公も一緒に来てくれ」
「…わかった」
女主人公はそう言うと、少しだけ笑った。
「まぁまずはB級2位をキープしないといけないんだけどね」
「だな」
「今回の遠征ではB級からも何人か選ばれるんだろ?おまえたちは上位だから選ばれる可能性が高いだろ」
「どうだろうね。何を基準にして選ぶのかがわからないけど」
「B級2位キープ、んでダメなら個人で遠征狙う感じになりそうだな」
「うん」
水上は「で、仲直りでええやんな?」と二人に聞く。
「そうね」
「悪かった」
「私もバカって言ってごめんね」
「苗字さん、影浦先輩にバカって言ったんですか?」
「勢いあまって」
「苗字さんも結構言う時は言うんですね」
「まあね」
「え?何?苗字ちゃんとカゲってケンカしてたん?」
「ケンカってほどではないんですけどね」
影浦と女主人公の初めてのケンカは、周りの協力もあってすぐに仲直りすることができた。
ただ、ラウンジでの言い争いを見ていた隊員たちが、影浦と女主人公はケンカ別れをしたと噂していることをここにいるメンバーは知らない。
後日、「女主人公さんのこと泣かせるなって言ったじゃないですか!」と、出水に言われてようやく知った影浦だった。