「第一試験の審査官…!」
忍田の言葉に驚く隊員たちだが、影浦だけは「チッ…道理でチクチク鬱陶しいと思ったぜ」とサイドエフェクトで気づいていた。
「雅人くん大丈夫?」
「様子見されててうぜー」
『説明会はこれで終了だ。最後に2つだけ、注意点がある。まず1つめ、今回決まった臨時部隊のチームメイト同士は、試験開始までコンタクトを禁ずる。つまり、試験までの間、事前にチームで作戦を練ったり、連絡を取り合ったりはできないということだ。そして2つめ、16日にある”隊長面接”は、今回決まった臨時部隊の隊長が対象となる。忘れずに参加するように。以上だ。後ろの席の隊員から順に退出してくれ』
隊員たちが退出すると、A級の隊員たちが今回の試験の順位を予想する会議に入った。
長時間戦闘試験では二宮8番隊が断トツの1番人気で、2番目に歌川1番隊、それ以外のチームは評価が割れた。
閉鎖環境試験は、古寺隊、村上隊、水上隊、そして来馬隊が上位に予想されている。
目立って低いのは若村11番隊だった。
作戦室に戻った影浦隊のメンバーは先ほどの遠征選抜試験について話をしていた。
「まさかゾエさんが臨時部隊の隊長に選ばれるとはね」
「本当だよーゾエさんもびっくり!」
「当たり前だけど、本当にみんなバラバラのチームなんだね」
「アタシらはいいけど、カゲ、おめーだいじょうぶかあ?」
「あ?」
「犬飼と一緒だろ?ケンカすんなよ」
「うっせーな!あのクソ犬がケンカ売ってこなけりゃ問題ねーよ!」
「心配だなー」
影浦は、事前アンケートで一緒に行きたくない人にいれていた犬飼と同じチームになってしまった。
「…チッ!ザキさんも何考えてんだよ」
「まあまあ。何か考えがあったんじゃないかな?女主人公ちゃんは鋼くんのところだね」
「うん。蔵内くんと堤さんだし、オペは氷見さんだから安定してそう」
「…」
「ケンカとかは起きなさそうだよね。みんな大人だし」
「そうだね」
北添は「ユズルも雨取ちゃんと同じチームでよかったね」と言った。
「別に」
と絵馬は少し照れながら答えた。
「ま!なんとかなんだろ!一週間頑張ろうぜ!」
「その後の長時間戦闘試験も頑張ろうね!」
今日はそのまま解散し、それぞれ帰路についた。
影浦と女主人公は一緒に家に帰っていた。
「遠征選抜試験、まさかのシャッフルチームだとは思わなかったね」
「ああ…」
「どんなことやるのか全然想像できないな。雅人くんも、犬飼くんとなるべく仲良くね」
「わーってるよ!」
少しだけ先を歩く影浦の手を握る女主人公。
「雅人くん…何か機嫌悪い?」
「別にわるかねー」
「…本当?」
「本当だっつーの!」
影浦はそのまま女主人公の手を握り返して歩く。
ただ、影浦の様子がおかしいと思っている女主人公は納得できていない顔をしていた。
影浦は家に帰ると母から呼ばれた。
「雅人ー!」
「なんだよババア!」
「まったく、口が悪いんだから。そんなことより、お母さんとお父さん、明日から一泊で温泉行ってくるからね」
「は?」
「デパートの福引で当たったのよ。ペアチケットだからお母さんたち二人で行ってくるから、あんたとお兄ちゃんはお留守番しててね」
「急だなババア。来週の月曜からボーダーの泊まり込みで一週間以上帰らねーからな」
「あらそうなの?女主人公ちゃんも一緒?」
「一緒だけどチームがちげーから多分会わねーな」
「あら、あんたたち一週間以上会わなかったことなかったのに大丈夫?」
「ガキじゃねーんだから大丈夫だっつーの!」
そう言うと、影浦は自分の部屋に戻る。
「雅人」
夕飯の後、影浦の兄が部屋を訪れた。
「なんだよ」
「ちょっといいか?」
そう言って、部屋に入る。
「さっき聞いたけど、明日母さんたちいないだろ?俺も友達の家に泊りに行くから女主人公ちゃん呼べば?」
「…はあ!!?」
「声がでけーよ。悪い、この前おまえたちが部屋でちゅっちゅしてるの見ちゃったんだよ」
「勝手に見てんじゃねーよ!!」
影浦はそう言うと兄に殴りかかる。
「わー!たんまたんま!悪かったって!」
影浦の兄はそう言うと、影浦の腕を掴んで防御した。
「で、だ!おまえたち、付き合ってからもうどれくらい経つんだ?」
「関係ねーだろ」
「いや、ある!おまえまだ童貞だろ?」
「本気で殴るぞ」
「真剣に話してるんだよー。雅人、女の子にだってな、性欲はあるんだ」
「ぶっ殺す」
影浦は、今度は本気で殴る。
「痛いって!ストップストップ!本当なんだって!兄ちゃんが周りの女の子たちに聞いたんだって!」
「どこぞの女と女主人公を一緒にすんじゃねー!」
「まあ人によってそれぞれだけど、それはそれとしてお泊りなんてチャンス、次いつ来るかわからないんだぞ!男を見せろ!」
「クソみてーなアドバイスだな!」
影浦の兄は殴られたほほをさすりながら言った。
「まあいいけどさー雅人がそれでいいなら。でもボーダーの試験の話してから機嫌悪いだろ?なんかあったか?」
「別になんもねーよ」
「言いたくないならいいけどさ。何かあれば頼れよ」
「わーってるよ」
「そんじゃ、俺も明日泊まりでいないから、後は好きにしろよー」
「とっとと出てけ」
突然やってきて、色々言いたいことだけを言って満足した影浦兄は、部屋を出ようとする。
「あ」
「なんだよ」
「ヤるときはちゃんと避妊しろよ」
「おめーマジで殺すぞ!」
そう言うと影浦はベッドにあった枕を思いっきり投げつけた。
「痛!大事なことだろ!」
「さっさと出てけクソ兄貴!」
影浦兄は逃げるように部屋を出て行った。
「…クソ」
影浦は考えていた。
閉鎖環境試験の臨時部隊の編制で、女主人公が村上と一緒のチームになった。
一週間どころか3日以上会わないということが、生まれてこのかたなかったので、それだけでも相当なストレスなのに、女主人公が村上と一週間閉鎖環境で過ごすという事実を、なかなか受け入れられずにいた。
女主人公が自分のことを好きなのは伝わっているし、女主人公が村上と自分の重ねて見ていることはない、とわかっているが、それでも心が納得できなかった。
「ガキか俺は…」
そして、そう思っていることを少なからず女主人公にもバレている。
「あー…クソったれ!」
影浦は考えるのことに疲れたのか、布団に入って目を閉じた。