「今日からだね」
「おう」
「頑張ろうね。一週間なんて、きっとあっという間だよね」
「だな」
私たちはめずらしく、手を繋いでボーダーまで向かった。
端末には、それぞれのチームの集合場所が記されていて、私たちは途中で分かれることになる。
「じゃあ雅人くん、またね」
「おう」
私は村上10番隊の待ち合わせ場所に向かった。
「女主人公、おはよう」
「鋼くん、おはよう」
一番乗りは鋼くんだった。
さすが隊長。
「今日からよろしくね」
「ああ。よろしく頼む」
その後すぐに、蔵内くん、堤さん、そしてオペレーターの氷見さんが到着した。
「苗字先輩!よろしくお願いします」
「こちらこそ」
集合時間になると、技術部の人らしき人がやってきた。
「ではまず、あちらで衣類をすべて着替えてもらいます」
そこには個室の入り口があって、中に入るとロッカーと洋服、そしてコンテナが置いてあった。
「トリガーや通信機器はロッカーに預けてください。施設に持ち込める私物は、既定の個人コンテナに入る分だけです」
やっぱり携帯はここに置いて行かないといけないらしい。
雅人くんとはお話できなそうだ。
「試験用の服はいくつか種類がありますが、試験中にも服を交換する機会はあるので、あまり悩まず選んでください」
と言われてたものの、私は迷っていた。
あまり体のラインが出る服が好きではないため、制服の時は大きめのベストやカーディガンを着てごまかしたり、私服もあまり体のラインが出ないものを選んでいた。
影浦隊の戦闘服も、ゆったりとしたミリタリージャケットなので快適。
ただ、今回ここに並んでいる服は、Tシャツにシャツにポロシャツで、どれもジャストサイズらしく、しっかりと体のラインが出てしまいそう。
けど、そこを相談するのも男性の技術部の人だし言いにくい。
ここは気にせず着るしかなさそうだ。
あまりピッタリサイズの服を着たことがないから、少しソワソワする。
個室から出ると、もうすでにみんな着替え終わっていた。
「苗字先輩、ロンTにされたんですね。シャツだと思ってました」
「そうなの。雅人くんならロンTにするかなーって思って」
「相変わらず仲が良いですね」
「みなさんに試験用のトリガーを渡します。これは、それぞれ個人専用の物になりますので、紛失などしないように注意してください」
そう言って、試験用のトリガーが全員に配られる。
「では、閉鎖環境施設の中へどうぞ」
技術部の人が扉を開けると、中は真っ暗だった。
「9時から第一試験が開始になります」
バタン!
「え!閉めちゃうの」
「そりゃあ閉めるだろう」
「だってこんなに暗いよ?」
「苗字先輩、お手をどうぞ」
氷見さんが私の手を握ってエスコートしてくれた。
私の中で、暗闇=お化けだから助かります。
「これはなんだろうな?」
「手…かな?」
「触ってみるか」
そう言って、鋼くんが手に触れると灯りが点いた。
「これが電源だったのかな?氷見さん、ありがとう」
「いいえ」
ピピッ
『みなさんお疲れ様です。こちら選抜試験運営です。只今より、第一試験を開始します』
選抜試験運営の沢村さんの声が聞こえてきた。
先ほどの手のパネルは、トリオンをチャージして設備を動かすためのものだそうで、手のパネルの上に表示されたゲージはトリオンの残量とのこと。
これが0になると照明やキッチンなどの設備が動かなくなってしまい、水も補充されなくなるみたいなので、こまめにトリオンをチャージしなくてはいけないみたい。
「この中の設備はオレたちのトリオンで動いてるってことだな」
「そうですね」
『では次に、試験用のトリガーを起動してトリオン体に換装してください』
「服装は変わらないんだな」
『試験中は、毎日午前9時から午後9時までは必ずトリオン体で過ごしてください。このルールが守られない場合は、減点の対象になります』
そして、机に置いてあるパソコンと通信デバイスの説明を聞く。
これもトリオンで動いているようで、やっぱりこの施設の中の物はすべてトリオンで動くようだ。
『ここからはすべて、隊長の指示に従ってください。そして、各チームの隊長は、最初の指示を出す前に自分が選んだ臨時部隊のコンセプトを隊員に説明してください。では、始め』
沢村さんの説明が終わり、隊長である鋼くんが話し始めた。
「えーっと、単純にくじを引いた時点で一番いいと思った駒を採った感じだな。フォーメーションとかは特に考えてなかったけど、氷見がオペだしどの組み合わせでも行けると思った」
「うむ」
「オレは隊長をやったことがないから、無意識にチームの補佐役を集めた感はあるかもしれない」
確かに、私もだけど蔵内くんも堤さんも、ガンガン前に出て数字を獲りにいくというよりは、サポートに回るタイプだ。
「至らないことがあったらすぐ”学習”するから言ってほしい。以上です」
「了解!」
みんなの気持ちが一つになった感じがしていい。
やっぱりこのメンバーなら争いごとは起こらなさそうで安心できる。
けど、だからこそ余計に雅人くんが心配だ。
「よし、そしたらまずは設備と物資の確認をしようか。この中がどうなってるのか、後は食べ物がどんな感じなのかを確認しよう」
鋼くんの指示で、まず施設内の設備の確認を始めた。
この施設の中は、入り口の隣に開かない扉が2つあって、そのまままっすぐ進むと左右に寝室がある。
片方はツインルームでもう片方はシングルルーム。
シングルの隣にトイレがあって、シャワーと脱衣所、それから洗面台の水回りが集まっていた。
そして、一番の奥の部屋がさっきまでいた仕事部屋になる。
仕事部屋に入ってすぐ右手には、大きなカプセルベッドがあった。
「このベッドは遠征艇にあるベッドなのかな?」
「狭いな…堤さんだとギリですか?」
「ギリギリだな」
「男性には狭いですよね」
「一つベッドが足りないですね」
「たしかに。開かない扉にでもあるのかな?」
次にキッチンに向かう。
キッチンにはある程度のものが揃っているから、工夫次第で色々料理が作れそう。
キッチンの奥にある食料庫も結構充実しているからよかった。
「トリオン体は消化吸収率がいいから1日2食で充分だな」
「そっか。そしたら1日2食で献立考えるね」
「女主人公は料理できるんだよな」
「うん」
「料理できる人助かるな!」
「そんな大したものは作れないですよ」
堤さんが期待に満ちた目を私を見ていたので、少し焦ってしまった。
「いつもカゲの弁当おいしそうだなって見てたから、女主人公の手料理楽しみだな」
「雅人くんからもらわなかったの?」
「独り占めしてた」
「影浦にも可愛いところがあるんだな」
「そうですか?」
小麦粉などもあったから、ホームベーカリーを使って朝はパンを焼くのも良さそうだ。
「この感じだと、朝はパンかな」
「いいな。オレは朝はパン派だからな」
「鋼くんはご飯なイメージだったよ」
「そうか?」
「うん」
そんな私たちのやり取りを見ていた蔵内くんが「仲が良いな」と言って笑った。
私たちは仕事部屋に戻ると、それぞれパソコンを起動させた。
「”第一試験の規定”を見てるんだが、上からの指示は一度オレのパソコンに送られてきて、それを共有する形らしい。共有フォルダに入れたら各自のパソコンからアクセスできる仕組みみたいだな」
さっそく鋼くんが共有に入れてくれた”第一試験の規定”をみんなで確認することにした。