YOU

「荒船くんも報われないよねー」

犬飼と二人でラウンジにいると、ひどい言葉を言われた。

「…おまえ、喧嘩売ってんのか?」
「カゲみたいなこと言わないでよ!」
「今、カゲの気持ちが理解できた」
「ひどい!思ったことを言っただけじゃん!」

犬飼は両手で顔を隠して泣く真似をした。

「で?突然暴言吐いてきて、なんなんだよ」
「暴言じゃないけどね!だって、荒船くん苗字ちゃんのこと好きなんでしょ?」
「ぶっ!!」

犬飼の言葉に、飲んでいた水を吹き出した。

「ねー汚い」
「…おまえ俺に対してだけひどくないか?」

吹き出し水を急いで拭きながら、犬飼のことを睨む。

「だってさー、荒船くん見てるとなんていうか、モヤモヤというかむしゃくしゃというか」
「別に何もしてないだろ?」
「おれにじゃなくて苗字ちゃんに!好きなのに、なんか遠慮してるっていうか。アプローチしてるようでしてない感じが見ててむしゃくしゃする」
「なんなんだよ…」
「苗字ちゃんとカゲって、付き合ってないんでしょ?」
「そう言ってた。ただの幼なじみだって」
「ならもっと積極的にアピールしてかないと、苗字ちゃんには全然伝わってないよ?」
「うっ…」

痛いところをついてくる犬飼を俺は無言で殴る。

「痛い!」
「トリオン体なんだから痛くないだろ!」
「もう!そういうところまでカゲに似なくていいよ!」
「なんでそう思う?」
「え?」
「なんで伝わってないって思うんだよ」
「だって、苗字ちゃんってアプローチかけられ慣れてるでしょ?カゲの鉄壁ガードもあったんだし、ストレートにアプローチしてかないと絶対伝わらないでしょ!」

たしかに、昔からモテていたらしい女主人公。
中学卒業までは、遠回しにアプローチしてくる男はカゲが蹴散らしていたと言っていた。

「カゲの鉄壁ガードをかいくぐって積極的に好意を示してくる男子としか関わってないんだから、荒船くんのアプローチなんてアプローチにならないでしょ。カゲがボディーガード役を任せたから、仕方なく自分と一緒にいるんだって思ってると思うけどな」







あの後、犬飼は二宮隊の防衛任務の時間になったからと作戦室に戻っていった。
好き勝手言いやがって。
だが、俺は犬飼に言われた言葉を思い出していた。
俺自身は少しずつだけど、確実に女主人公にアプローチをかけているつもりでいた。
が、犬飼曰、女主人公には全然伝わっていないようだ。

「あれ?荒船くん?」
「女主人公…」

そんなことを考えていると、女主人公がラウンジにやって来た。

「一人で何してるの?」
「さっきまで犬飼と勉強してた」
「そうなんだ。ここ座っていい?」

女主人公は俺の前の席を指さして、机に鞄を置いた。

「おう」
「疲れたー」
「何してたんだ?」
「ん?」
「先にボーダー行ってろって言ったから先行ったけど、なんかあったか?」
「…まあ…」
「あ?」
「ちょっと…先生に呼ばれて」
「…誰?」
「…えっと…」
「本当のこと言えよ」
「…呼び出しでした」
「クラスは?」
「わかんない。見たことない人だったし、でも下の学年の子だったよ」

女主人公のボディーガード役をやるようになってから、女主人公を呼び出す男が減ったように見えていたけれど、実際は俺のいないところで呼び出しはあるらしい。

「言えよ」
「や、でも毎回荒船くんに迷惑かけるのもなーって思って」
「迷惑じゃねーから言えって言ってんだよ」
「本当に付き合ってるわけでもないし、雅人くんに頼まれてるからって、無理しなくていいんだよ」
「…」

犬飼の言ってたことは当たってたらしい。
どうやら女主人公は、俺が本当にカゲに任されたから一緒にいるだけと思っているようだ。

全然伝わっていない。

ムカつくな。

「荒船くん?」
「俺は、おまえと一緒にいたいからそう言ってんだよ」
「え?」

俺は席を立って、女主人公の横に座る。

「あ、あの?荒船くん?」
「友達に頼まれたからって、好きでもないやつのためにボディーガードやったり付き合ってるふりしたり、そんなことするようなやつに見えるのか?」
「えっと…どうしたの?」

ここまで言っても伝わっている感じがしない。
こいつはバカなのか?
頭がいいはずなのに、男女の恋愛については初心者すぎるだろ。

俺は女主人公の手を握る。

「カゲに頼まれたからやってるんじゃない。俺が、女主人公と一緒にいたいからやってるんだ」
「それって…」

「少しは俺のことを男として意識しろ、バカ」



そこまで言って、俺は席を立った。
勢いで言ってしまったが、俺も内心バクバクだった。
俺が言った後、女主人公がどんな表情をしていたか確認もせずに席を立ってしまったのは失敗だったが、正直、そこまで考えている余裕はなかった。

俺は作戦室に戻った。

「どうしたんだ、その顔?」
「荒船さん、熱でもあるんですか?」
「なんでもない」
「異常だな、トリオン体でその顔色は」
「開発部行きます?」
「いや、すぐに治まるから気にするな」

そう言って、俺は作戦室の奥に引っ込んだ。



ブブッ

俺の携帯が鳴った。
見てみると、差出人はカゲ。

『おめー女主人公に何か言ったか?』
「なんで?」
『ラウンジで放心状態』

送られてきた写真には、顔を赤くしてボケーっとしている女主人公の姿。

『告ったか?』
「ほぼな」
『良かったな』
「まだ結果わかんねーだろ」
『女主人公は押しによえーから、後はおめーの頑張り次第でなんとかなんだろ』
「本当か?」
『せいぜい頑張れよ』

そこでカゲからの返信は途絶えた。

これは脈ありということなのか。
カゲの言う通り女主人公は押しに弱いから、今が押し時なのか。
とりあえず、明日の学校が楽しみだな。



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