「…いまいち理解できないな、そんな理由で争奪戦であれだけ執着したブラックトリガーを…あれはおまえの師匠の形見だろう?」
「形見を手放したぐらいで最上さんは怒んないよ。むしろ、ボーダー同士のケンカが収まって喜んでるだろ」
「…」
「…あ、そうそう。もうひとつ。おれ、ブラックトリガーじゃなくなったからランク戦復帰するよ。とりあえずソロでアタッカー1位目指すからよろしく」
「…!?」
「…!そうか、もうS級じゃないのか!そういやそうだ!おまえそれ早く言えよ!何年ぶりだ?3年ちょっとか?」
迅の復帰宣言に喜ぶ太刀川、そして顔をしかめる風間。
二人の反応は両極端だった。
「こりゃあおもしろくなってきた!なあ風間さん!」
「おもしろくない、全然おもしろくない」
迅が玉狛支部に戻ると、宇佐美、空閑、三雲がリビングでくつろいでいた。
「あ、迅さんおかえり〜」
「おつかれさまです」
「ふぃ〜す」
「最近いなかったけど、どうしてたの?」
「あっちこっちで大人気なんだよ、実力派エリートは」
迅は机に置いてあるマカロンを手に取って食べた。
「遊真、ボーダーのトリガーには慣れてきたか?」
「しおりちゃんにいろいろ教えてもらったからな。こなみ先輩に勝ち越す日も近い」
「ほぉ、これは期待できるな。メガネくんは、訓練進んでる?」
「えーっとその、ぼちぼちです…」
「とりまるくんはバイトで忙しいからねー」
「いや、でも特訓メニューは組んでもらってるんで…」
「まあ京介は教えるの上手いから大丈夫だろ。いざとなったら男主人公に聞いてもいいしな。鍛えろよ、若者。あっという間に本番がくるぞ」
迅は机に置いてあったマカロンを口の中に詰め込むと、「おやすみ〜」と言ってリビングを後にした。
自分の部屋に戻ると、ベッドに寝転んだ。
「ふ〜…大丈夫だ…未来はもう動き出してる…」
「…何がですか?」
「うわっ!!男主人公いたの?」
迅の部屋のドアが開き、男主人公が入ってきた。
迅は慌てて体を起こすと、ベッドに座った。
「どうした?もう夜も遅いんだから、先に休んでてよかったのに」
「…あなたを待っていたんです」
「ん?」
男主人公は迅に近づくと、迅の腰に触れた。
「ちょっと〜男主人公さん?ずいぶんと積極的だな?」
「…どこにあるんですか?」
「何が?」
「…風刃…」
「…これでよかったんだよ」
迅は男主人公の頭を撫でる。
「これがおれの見た未来で一番いい結果につながるんだ」
「…だからって、あなたの師匠の形見ですよね?手放す必要があったんですか?」
「必要なことだからそうしただけだよ」
「…俺たちのせいであなたの師匠は…」
「男主人公、それは違う。何かあった時は助ける、助け合う。それが同盟ってことでしょ?あのまま放っておいたらおれたちの国にまで被害が及んだのに、そうならなかったのはみんなが守ってくれたおかげだよ」
迅は男主人公を抱きしめると「男主人公のせいじゃないし、男主人公の国のせいじゃない。最上さんも、男主人公たちを守れてよかったって思ってると思うよ」と言った。
「悠一…」
「だからそんな顔しないの。男主人公には笑っていてほしい」
「…」
迅は男主人公を抱きしめたままベッドに寝転んだ。
「男主人公、心配してくれてありがとう」
「…バカ…」
次の日、男主人公が起きるとすでに迅の姿はなかった。
「起こしてくれればよかったのに…」
身支度を整えて、下に降りるともうすでに小南と空閑は訓練室に入っていた。
「おはようございます」
「男主人公さん、おはようございます」
「おはようございます」
烏丸と三雲に声をかけ、男主人公は朝ごはんの準備をする。
「今日はみなさん早いですね」
「そうすね。もう入隊式まですぐなんで、ラストスパートってことで張り切ってます」
「京介もご飯食べました?」
「はい」
男主人公が朝ごはんを食べていると、三雲が烏丸に相談をしていた。
「烏丸先輩、実は…ぼく、ガンナーになりたいと思ってるんですが…」
「ガンナー?」
「ガンナーですか」
「ガンナーは自分のトリオンを弾丸にして飛ばすから、アタッカーより消費が激しい。ふつうはトリオンに余裕のあるやつがなるもんだぞ?」
「それは…そうなんですが…」
「…ちょっと待ってろ、メニューを組み直す」
「…!はい!ありがとうございます!」
「京介」
「大丈夫です、少し考えます」
そして正式入隊日の1月8日がやってきた。
「京介はバイトが終わってから来ると言っていた。男主人公も一緒に来るか?」
「そうですね」
木崎の車でボーダー本部に向かう。
「それじゃあ行こうか」
「おう」
「俺は適当に時間をつぶしているので、帰る時に連絡くださいね」
「わかりました!」
「俺もいったん支部に戻るが、大丈夫だな?」
「大丈夫です」
三雲、空閑、雨取の三人は入隊式が行われる会場に向かった。
男主人公は久しぶりに本部に来たので、本部の中を見て回ることにした。
「男主人公」
「風間さん、それに太刀川さん」
「よー男主人公。この前ぶりだな」
「はい、先日はどうもお世話になりました」
二人は自販機で買った缶コーヒーとカフェオレを飲んでいた。
「お二人はどうされたんですか?」
「俺はランク戦、んで風間さんは入隊式を見に来たんだと」
「入隊式を?珍しいですね」
「ああ。今日はあのネイバーの入隊日だからな。少し様子を見に来た」
風間の言葉に、男主人公は納得した。
「彼は礼儀正しいネイバーなので安心してください。俺と同じですよ」
「それはわかっている。だが、迅のやつがあそこまでして入隊させたがる理由がわからない」
「…きっと、自分と似ていてほっとけないと思ったんでしょうね」
「本人も言っていたな」
太刀川は飲み終わった缶コーヒーをゴミ箱に捨てると「最近三輪のやつが今まで以上にまいってるっぽいな」と言った。
「目の下のクマがやばい」
「…そうですか」
「おまえはいつまで三輪に黙っているつもりだ?」
「…聞かれないから答えないだけですよ」
「…三輪の傷が深くなる前に、自分から話しておくんだな。俺たち遠征組はわかっているが、三輪はおまえの出身について知らない。タイミングを見て、きちんと伝えろ」
風間はそう言うと、その場を後にした。
「…風間さんはああ言ってるけど、俺はあんまり賛成できないな」
「…でも風間さんの言う通りです。これ以上秀次に黙っておくことはできないです」
「男主人公が言うってんなら俺は止めないけどなー」
「話せばわかってくれると信じていますが、もしダメだったときは、秀次のフォローをお願いします」
「俺にその役目は難しいな」
男主人公の言葉に太刀川は笑って返す。
「ま、三輪もおまえの言うことならちゃんと聞くだろ。多分理解するまで時間がかかると思うが大丈夫だろ」
「…そうだといいのですが、これ以上秀次を傷つけるのは、少しかわいそうですね」
「遅かれ早かれ知ることにはなるだろ」
「…そうですね」
二人はそのままC級ブースのロビーに向かった。
二人がロビーに姿を現すと、周りがざわついた。
「おーおー、やっぱ男主人公と一緒だと目立つな」
「俺のせいじゃなくて、あなたのせいですよ。No.1アタッカーの太刀川さん」
「おまえの顔のせいに決まってんだろ。よし、久しぶりにソロランク戦やろうぜ」
「いいですよ」
そう言うと、二人は空いているブースに入り、10本勝負を始めた。