はじまりのうた

「苗字さん、今いいかな?」

女主人公が隣のクラスの男に呼び出されたのを、俺は横目で見ていた。

「えっと…何かな?」
「ここだとちょっと。二人になれるところに行きたいな」

女主人公は俺を見たが、俺が何も言わないからか静かに席を立った。

「ありがとう」

その男は俺を見て笑ったが、俺は完全に無視をした。
女主人公と男が教室から出て行ったのを見て、クラスメイトの鈴木が話しかけてきた。

「ねー荒船、あんたあれいいの?」
「何が?」
「苗字さん、連れていかれたけど?」
「あいつが自分の意思でついていったんだろ」
「そうだけど…荒船に助け求めてる感じだったじゃん」
「ハッキリ言われてないんだから知らねー」
「ちゃんとボディーガードしなさいよ!」

ギャーギャー騒いでいる鈴木は無視することにした。

カゲからの連絡で、女主人公が俺の気持ちに真剣に向き合ってるとわかったから、とりあえず様子を見ることにしたが、まさか女主人公がついていくとは思わなかった。
と言っても、別に俺たちは付き合ってるわけじゃない。
だから俺が止める権利はないんだ。

「(こっち見るくらいなら俺を理由に断れよ…)」







裏庭。

「苗字さん、ありがとう」
「いいえ。それで何かしら?」
「気づいてると思うけど、俺、君のことが好きなんだ」

男は女主人公にストレートに告白をしたが、女主人公はキッパリと断った。

「ごめんなさい」
「どうして?」
「ボーダーに集中したいから」
「荒船くんと付き合ってるの?」
「…付き合ってないよ」
「やっぱり荒船くんと付き合ってるって噂は嘘なんだね」
「うん」
「ならいいじゃん。お試しでもいいから付き合ってよ。後悔はさせないよ」
「好きでもない人と付き合えるほど器用じゃないし、何よりそんな時間はないからごめんなさい」

女主人公はきちんと断ったが、次の日からも男のアプローチは続いた。



「苗字さん、今度ボーダーが休みの日を教えてよ」
「休みの日はないのよ」

「一緒に勉強しない?A組だから役に立てると思うよ」
「わからないところはボーダーの先輩に聞くから大丈夫」

「お昼はどこで食べるの?一緒に食べようよ」
「荒船くんと食べてるから、ごめんなさい」

休み時間になると、毎回のようにやってくる男に荒船はそろそろ我慢の限界だった。



「荒船くん」
「あ?」
「ごめん…怒ってる?」
「怒ってない」

二人でボーダーに向かうが、荒船は終始無言。
女主人公は荒船に声をかけるが、荒船の機嫌は悪いままだった。

「断ってるんだよ」
「んなもん見てりゃわかる」
「だけどしつこいの」
「それも見てりゃわかる」

女主人公の断り方が悪いとは思っていないが、言い方が甘いのではないかと思っている荒船。
だが、自分は女主人公の彼氏ではない。
だから言いたいことはたくさんあるが、言わずに我慢をしている。
けれど、女主人公からしてみたら、ただただ不機嫌で無口な荒船は怖いだけだった。

「ねえ…」
「なんだよ」

連絡通路に着くと、荒船はトリガーを取り出した。

「入るぞ」

そう言って女主人公を見ると、女主人公の目からは涙がこぼれていた。

「な!おい!どうした!?」

荒船は泣いている女主人公を見て驚いた。

「…なんでもない…」
「なんでもないやつが泣くかよ!」
「なんでもないよ」

そう言って女主人公は荒船の横を通り過ぎようとしたが、荒船は女主人公の腕を掴む。

「待て」
「離してよ」

女主人公は荒船の手を振りほどこうとするが、力では勝てない。

「なんで泣いてんだよ」
「…荒船くんがずっとそんな調子だからじゃない」
「俺のせいか?おまえがもっとハッキリしないから相手がつけあがるんだろ」
「私はハッキリ断ってるよ!それなのに荒船くんはずっとイライラしてて…私…荒船くんとケンカしたいわけじゃないのに…」

女主人公は、止まるどころかどんどん流れる涙を乱暴にぬぐう。

「あんま強く擦んな」

荒船は女主人公の手を掴むと、持っていたハンカチで女主人公の目元を優しくぬぐう。

「悪い…」
「…ごめん。八つ当たりしちゃった」
「それは俺のセリフだ。彼氏でもなんでもないのに、おまえが言い寄られてる姿見てイラつくとか、何様って感じだよな」
「…もっとちゃんと断るね。好きな人がいるって」

「…おう…?ん?は?」

女主人公の発言に驚いた荒船は、「おまえ好きなやついるのか!?」と聞いた。

「いるよ」

荒船が誰なのか聞こうとするが、その前に「ちょっとお二人さーん、いい加減にしてよね」と犬飼が声をかけた。

「もー!こんな所でする話じゃないでしょ。ここの連絡通路使いたくても使えない子たちが後ろで待ってるよ」

犬飼の言葉に二人は後ろを振り返ると、そこには何人かの隊員がいた。

「ごめんなさい、すぐにどくね」
「あ、おい!女主人公!」

女主人公はそう言うと荒船を置いて先に入った。

「荒船くん、ストップ!」

女主人公の後を追おうとした荒船の腕を、犬飼がつかんで止めた。

「犬飼!邪魔すんなよ」
「まあまあ荒船くん。ちょっと落ち着きなよ。前のめりすぎて怖いよ」
「聞いたか!?あいつ好きなやつがいるって言ってたぞ!」
「バッチリ聞いちゃったよ。荒船くんの可能性は?」
「…ゼロとは言えねーな」
「なら苗字ちゃんから言われるまで待ってれば?」
「男なら自分から言いたいだろ」
「わー、さすが荒船くん。男らしい。でも荒船くんて、とっくに苗字ちゃんに告白したんじゃないの?」
「昔から好きだったとは言ったけど、ちゃんと付き合ってほしいとは伝えてないな」

男として意識しろ、高校入る前から好きだとは言ったが、付き合ってほしいとはきちんと伝えていない荒船。

「よし、ちゃんと告ってくる」
「早い早い!ちゃんとムードとかタイミングとか考えてよね!」
「おまえが一番めんどくせーな」

荒船と犬飼は連絡通路を使ってボーダーの本部に入ると、影浦が待っていた。

「あ!カゲじゃーん!」
「うるせークソ犬!おめーに用はねーんだよ!」
「ひどいなー」

影浦はそう言うと、荒船に近づき胸倉をつかんだ。

「おいこら、荒船。女主人公の目が赤かったのはおめーが泣かしたからか?」
「あー…悪い」
「ちょっとカゲ!ストップ!」

犬飼は影浦を止めようと間に入った。

「クソ犬、邪魔すんな!」
「荒船くんにも事情があったんだよ」
「てめーには聞いてねーんだよ!荒船!どうなんだ!」
「悪い。俺が勝手に苛立って、女主人公に八つ当たりした」
「マジでおめーのせいだってことだな…」

影浦は荒船から手を離すと「ブース入れ。斬り刻んでやる」と言って、C級ブースに向かった。

「あららー、カゲ、完全に怒ってるね」
「理由はどうであれ泣かせたのは事実だしな」

荒船は甘んじて受け入れるつもりだ。
やってしまったと思ってはいるが、内心、さきほどの女主人公の言葉に期待しているのも事実。
荒船の初恋が実る日も近い。



>> dream top <<