顔を洗ってからキッチンに向かうと、セットしてあったホームベーカリーからいい香りがしてきた。
「焼きあがってる〜!美味しそう!」
みんなが起きてくる前に、ササっと朝食の準備を始める。
私がスクランブルエッグを作っていると、カプセルベッドから鋼くんが出てきた。
「おはよう」
「ああ…おはよ…」
「鋼くん、朝弱いんだね」
「…ああ…15分とかならすぐ目が覚めるけど…女主人公は朝から動けてすごいな…」
「まあね」
眠気に負けそうになりながら、鋼くんはこちらに向かってきた。
「いい匂いだな…」
「でしょ。焼きたてのパンだから、きっと美味しいよ」
鋼くんは水を飲もうとキッチンに入ろうとしたけれど、仕事部屋とキッチンの間にある小さな段差につまずいた。
「危ない!」
「…!!」
私はとっさに鋼くんを支えたけれど、鋼くんの重さに耐えきれずそのまま鋼くんにつぶされてしまった。
「いたたた…」
「悪い!」
「どうした!?」
「大丈夫か?」
「苗字先輩!大丈夫ですか!?」
大きな音がしたので、部屋からみんな出てきた。
「大丈夫です…」
「女主人公!大丈夫か?悪い!」
鋼くんは私の上からすぐにどいてくれた。
「大丈夫だよ。鋼くん一人を支える力がなかった私が悪いね」
「いや、無理だろ」
「苗字先輩は華奢なんで無理ですよ!ケガはないですか?」
「うん」
氷見さんに支えられながら立ち上がる。
「悪い…完全に寝ぼけてた…」
「ここの段差、小さいから見逃すよね。鋼くんにケガがなくてよかったよ」
「オレのことより自分の心配をしてくれ。女主人公にケガさせたらカゲになんて言われるか…」
「事故なんだから気にしないで」
それにしても、鋼くんが思っていたより重たくて驚いてしまった。
「村上をとっさに支えられるのはオレくらいじゃないか?」
「堤さんも体格がっしりしてますもんね」
「蔵内先輩も無理そう」
「俺は意外と力あるぞ」
「女主人公、本当に大丈夫か?」
「心配しすぎだよ。大丈夫だから、朝ごはんにしよ」
「ああ」
「私、手伝いますね」
「氷見さんありがとう」
氷見さんと二人で朝ごはんのサンドウィッチを作って、みんなで食べる。
「うまいな」
「死ぬ心配がないご飯はうまい!」
「堤さん、加古先輩のチャーハンに何回殺されてるんですか」
「2回だったかな?」
そんなさわやかな笑顔で言う話じゃなかった。
「よし、そしたらベッドシーツと枕カバー、毛布を片付けようか」
オペ部屋の向かいの部屋の扉が開いていて、そこに置いてある大きな機械にシーツなどを入れると新品になって出てくるみたい。
お風呂の着替えと一緒のシステムだ。
その部屋の棚には、マウスとヘッドセットが置いてあった。
「これ使っていいのかな?」
「今日の戦闘シミュで使うのかな」
「そしたらこれも運ぼうか」
みんなでマウスとヘッドセットを仕事部屋に持っていく。
そして9時になったのでパソコンを起動させる。
「戦闘シミュのデータがきたから共有する」
「了解」
「戦闘シミュって何時からだっけ?」
「15時ですね。先にどんな感じか見てみましょう」
ソフトをダウンロードすると、画面には私たちのミニユニットが2体ずつ表示されていて、その下にはヘルプユニットで太刀川さん、出水くん、当真くん、そして風間さんのユニットが表示されていた。
閉鎖環境試験2日目からは、戦闘シミュレーション演習が始まる。
ユニットを見てみると、ユニットの性能がそれぞれ違うことに気づく。
「ユニットの性能も、その人に合わせてる感じか」
「そうみたいだね」
「それじゃあまずはルールの確認をするか」
戦闘シミュレーション演習は、本日から3日間、その後特殊戦闘シミュレーション演習が2日間実施される。
対戦形式は1チーム対1チームで、ネット上のシミュレーション対戦である。
1日合計10試合を行う総当たり戦だ。
「1日10試合…15時から始めると結構大変そうだな」
「ですね。1回は20分くらいの計算か…」
「点数の配分も違うんだね」
日を追うごとに、点数の配分が大きくなる。
1日目は勝ちで50点、引き分けで10点、負けで0点。
2日目は勝ちで100点、引き分けで20点、負けで0点。
3日目は勝ちで200点、引き分けで40点、負けで0点。
いずれにしても、負けると点数をもらうことはできない。
「初日である程度操作方法に慣れて、2日目以降はもっとレベルの高い試合になるからかな?」
「かもしれないな。初日は負けてもいいから操作に慣れることが優先だな」
「うん」
「そしたら対戦ソフトを見てみるか」
村上がそう言うと、全員がソフトを開く。
ユニットデータを出撃ユニットに入れると、ユニットが表示される。
「ユニットが出たな」
「あ、これパラメータ見れますね」
「本当だ」
ユニットにカーソルをのせるとパラメータが表示された。
「ゲームみたいで面白いな!」
「本当ですね」
「けっこう細かいな」
「チュートリアルもあるけどやってみるか?」
氷見がチュートリアルを確認する。
MAP上で敵・味方がユニットを動かす形で進行する。
対戦するチームは、お互い150秒間ですべてのユニットの動きを設定し、その設定に従ってその後の15秒間ですべてのユニットが行動する。
「そしたらお互いが動きを設定して、同時に動くって感じか」
この”動きの設定”と”ユニットの行動”を1ターンとして、1試合は6ターンで終了。
試合終了時に、生き残ったユニット数に”2体以上”の差がつけばユニット数が多いチームの勝利。
ユニット数の差が”2体未満”なら、その試合は引き分けになる。
「…ここまで大丈夫ですか?」
「うん」
「わかりやすい」
「6ターンで終わるってことは、先に攻めたほうがいいのか?」
「どうなんだろう」
「次にユニットの動かし方」
ユニットには”行動力”というパラメータが設定されていて、この数値はユニットが1ターンの間にどれだけ行動できるかを表している。
基本的にユニットがMAPを1マス移動するとき、行動力を1消費する。
また、攻撃や防御などもトリガー毎に決められた行動力を消費する。
全ユニットが行動力を使い切るとターン終了。
「ってことは、行動力が多い方が有利ってことか」
「そうだよね」
「足が速い人は行動力多めになってそうだな」
「そして、戦闘についてです」
ユニットにはメイン、サブ、2つのトリガーがセットでき、ユニットをMAPに出すと2つのトリガーの”射程範囲”が扇状に出る。
お互いユニットを動かして、”射程範囲”に敵が入ると、設定しているトリガーで自動的に敵を攻撃する。
この射程範囲は動かすことができ、扇の方向にだけ防御するこが可能。
”射程範囲”を動かしたり、トリガーを切り替えるのは1ターンごとに操作することができる。
扇形以外の方向から攻撃されると、回避や防御ができなくなる。
さらに、”移動”にも種類があり、追跡移動は視界やレーダーで見えた相手を自動で追跡することができる。
「結構色々ルールがあるんだね」
「…難しい…」
「多分、実際やりながらの方がわかると思います」
「始まる前に一回動かしてみるか」
「そうですね」
女主人公はあまりのルールの細かさに少し驚いた。
すでに心が折れそうだ。
「そしたら、昨日の続きで共通課題を進めるか」
「わかった」
「お昼過ぎたら試しに動かしてみよう」
「そうだね」
戦闘シミュの練習を始めるまで、共通課題を進めることにした10番隊のメンバー。
共通課題を進めながらも、女主人公の頭の中は戦闘シミュのことでいっぱいだった。
「女主人公?」
「…ん?」
「戦闘シミュのこと考えてるだろ?」
「…バレた?」
「顔に出すぎだ」
「私、本当こういうの苦手だから心配で」
「苗字にも苦手なものがあったんだな」
「蔵内くん…私をなんだと思ってるの?」
そんな女主人公の様子を見た村上は、「よし、そしたら少し早いけど戦闘シミュの練習するか」と言った。
「え、大丈夫だよ」
「女主人公が課題に集中できないだろ。なら先にやってみよう」
「鋼くん…ごめんね、ありがとう」
「それがいい」
「だな」
「やってみたら意外と簡単って思うかもしれないですよ」
「うん」