「戻らないの?」
「たいぶあっさりしてんな」
「そう見える?」
「おう」
「これでも嬉しくて舞い上がってるんだけどな」
「本当かよ」
そう言って俺が女主人公の顔をのぞき込むと、女主人公は顔をそらした。
「あ?」
「あんまり見ないで…」
「なんでだよ」
「…荒船くんは、自分の顔がかっこいいことを自覚してほしい」
「それは俺のセリフだ」
二人で話していると、犬飼がやって来た。
「二人ともこんなところで何してるの?」
「少し喋ってただけだよ」
「そっか。で、荒船くん、何か報告があるんじゃないの?」
「おー。付き合うことになった」
「やっぱり!なんとなーく二人の雰囲気がいつもと違うなって思ったんだ!おめでとう!」
「犬飼くんに相談してたの?」
「成り行きで」
「えー!親身になって相談にのってあげたのに!」
犬飼はそう言うと泣きまねをした。
「ま、感謝はしてる」
「もっとちゃんと感謝してよね!」
「犬飼くん、ありがとう」
「ううん。二人が上手くいって良かったよ!お幸せに」
犬飼はそれだけ言うと部屋に戻って行った。
「それじゃあ私も戻ろうかな。そろそろお風呂の時間だし」
「そうだな」
そろそろ時間がやばそうなので、今度は引き留めることなく俺も部屋に戻ることにした。
「荒船くんの部屋は何階?」
「おまえの部屋の前まで送る」
「わざわざいいのに」
「何かあったら嫌だからな」
「ありがとう」
女主人公の部屋の前まで来ると、俺は女主人公の手を引いて軽く抱きしめる。
「荒船くん、実は甘えたがり?」
「まあそうかもな。単純に女主人公に触れるのが嬉しい」
「ふふふ、荒船くん可愛いね」
「やめろ。俺より女主人公のが可愛いに決まってんだろ」
「あら、ありがとう」
「また明日な」
「うん、おやすみ」
次の日、修学旅行最終日は大阪市内の観光。
大阪の街を食べ歩きしたり、大阪城に行ったり、色々回って3泊4日の修学旅行が終わった。
帰りの新幹線は、鈴木が「二人は隣に座ってね!」と空気を読んだから、行きと同じように女主人公が俺の隣に座った。
行きと違うのは、俺が無理やり座らせたんじゃなく、女主人公も「私も荒船くんの隣に座りたかったから嬉しいな」と言ってくれたことだ。
少し照れながらそう言う女主人公は、やっぱり可愛くて思わず抱きしめそうになったが我慢した。
「楽しかったね」
「だな。でも女主人公、おまえ土産買いすぎだろ」
「結局どんどん増えちゃった」
女主人公は行きの新幹線で上げていたメンバーだけじゃなく、A級B級のほぼ全部隊に買っていた。
「私たちが修学旅行に行けたのも、他のみんながシフトの調整をしてくれたからだしね。感謝の意味も込めて、みんなに買って行ってあげたくて」
「なら俺たちも入れろ。2年は五人だから全員で割り勘な」
「じゃあ全員からにしようね」
最寄りの駅について、そこで解散になった。
「どうする?今日はこのまま帰るか?」
「そうだね。荷物もあるし、疲れたから帰ろうかな」
「送ってく」
「え!大丈夫だよ!荒船くんも疲れたでしょ?」
「別にこのくらい平気だ。俺が女主人公といたいから送りたいんだよ」
「荒船くん、無理しなくていいんだよ?」
「無理だったらそもそも言わねーから安心しろ」
「…じゃあお言葉に甘えようかな」
「素直に甘えとけ」
俺は自分のスーツケースと女主人公の土産が入っている袋を持つ。
「重たくない?」
「全然」
「ありがとう」
そのまま俺たちは女主人公の家に向かう。
「あ、雅人くんから」
女主人公はそう言うと、携帯の画面を俺に見せた。
「疲れてるだろうから、今日はかげうらでご飯食べてけって」
「もう帰ってるのか」
「今日は土曜日だもんね。鋼くんもいるみたいだよ。荒船くんも一緒に行こ」
「そうだな」
先に女主人公の家に寄って荷物を置く。
「ただいま」
「おかえりなさい」
中から出てきた女主人公の母親は、女主人公に似てとても美人だった。
女主人公は母親似だったんだな。
「あら、もしかして荒船くん?」
「はい」
「女主人公からよく話は聞いていたのよ。会えて嬉しいわ」
「そうなんですか?」
「お母さん!余計な事言わなくていいから!」
女主人公はそう言うと、荷物を母親に渡した。
「今から雅人くん家行ってくるね」
「はいはい、遅くならないようにね」
「荒船くんもうちに荷物置いておいていいよ」
「助かる」
荷物を置いてから隣のかげうらに行く。
「雅人くん」
「おう」
「よお」
「荒船、女主人公!おかえり!」
「鋼くんただいま!」
中にいたのはカゲと鋼だけだった。
「どうだった?」
「楽しかったよ。久しぶりにテーマパーク行ったから、色々新しいエリアができてて良かったよ」
「なら良かったな」
カゲは俺たちの分のお好み焼きを焼き始めた。
「お土産も買ってきたから、後で渡すね。鋼くんにもあるから」
「ありがとう」
「そっちは修学旅行いつなんだ?」
「来週だな」
「楽しんできてね」
大阪と京都の話をしながらお好み焼きを食べる。
大阪でも食べたけど、やっぱり俺はかげうらのお好み焼きが一番好きだ。
「女主人公」
「ん?」
「報告しとくか」
「そうだね」
「あ?なんかあったのか?」
俺は箸をおいて、カゲと向かい合う。
「女主人公と付き合うことになった」
「…」
「そうか!良かったな!」
「うん」
「おまえらには相談にのってもらってたからな。ちゃんと報告したくて」
「良かったなー!な、カゲ!」
カゲは少し考える素振りを見せると「…そうか」と一言だけ発した。
「雅人くん」
「俺は、女主人公が幸せになれんならそれでいい。荒船、おめー女主人公のこと泣かせたらぶん殴るかんな」
「うれし泣きはいいだろ」
「言ってろ!」
カゲの反応は思っていた通りだった。
「女主人公のこと任せた」
「ああ」
「…なんだかカゲが女主人公の父親みたいだな」
「私もそう思った」
「女主人公は愛されてるな」
「そうだね」
俺たちの会話を聞いて、女主人公と鋼はそんな感想を言っていた。
俺もそう思う。
「女主人公」
「ん?」
「荒船に幸せにしてもらえよ」
「…うん!」
おーおー、いい笑顔だな。