だけど、さすがにこれはひどいんじゃないか。
今日は朝からイライラしていた。
学校でもボーダーでも、女主人公とカゲが付き合っていると思っているやつがいて、たまたま今日は、ボーダーでそういう噂話をしているところに居合わせてしまった。
「やっぱ影浦さんうらやましいよなー」
「あんな綺麗な人が幼なじみで、しかも彼女だろ」
「俺も付き合いてー」
そんな会話が聞こえてきて、俺は立ち止まった。
「…気にするな」
「あ?」
「荒船さんたちのこと、まだ知らない人多くないっすか。仕方ないっすよ」
「何も言ってねーだろ」
「わかりやすいな、荒船は」
「めっちゃ怒ってるじゃないっすか」
「別に怒ってねー」
噂話をしているやつらは俺たちには気づかず、そのままどこかに行ってしまった。
「あ…」
「ん?」
向こうにカゲたちがいるのが見えた。
確か、今から防衛任務のはずだ。
カゲと女主人公、それからゾエと絵馬が話しながら歩いているのが見える。
防衛任務に向かう途中なのか、4人はラウンジを通り過ぎてボーダー本部の出口に向かっていた。
「声かけるか?」
「別にいいだろ」
「そうか」
女主人公とカゲを見ていると、カゲが女主人公の頭を軽く叩いたのが見えた。
何を話しているのかわからないが、確かにあの感じを外から見ていると付き合ってると勘違いするやつもいそうだ。
実際は俺が彼氏なんだけどな。
「荒船さん、さっきから見すぎっす」
「…あれがあいつらの普通なんだから仕方ない」
「言い聞かせてるな、自分に」
「うるせーな」
俺は女主人公とカゲのことを見ないようにして、作戦室に戻った。
わかっている。
女主人公とカゲは幼なじみで、家族のような存在。
生まれる前から一緒にいて、家も隣同士、カゲのサイドエフェクトのこともあってお互いのことを大事に思っているのはわかっている。
それをわかった上で、俺は女主人公と付き合っている。
女主人公のカゲへの感情は恋愛感情ではないし、俺にはちゃんと恋愛感情があることもわかっている。
にしてもだ。
やっぱり周りに俺じゃなくてカゲと付き合っていると思われるのはいい気分ではない。
「…さっきから荒船さんが静かすぎて怖いっす…」
「まあ仕方ないな」
「苗字さんと影浦くんが仲良いのは今に始まったことじゃないからね」
「わかってるだろ、荒船も」
「だといいんすけど」
俺は女主人公に「防衛任務が終わったら迎えに行く」と連絡を入れた。
今日の防衛任務は夕方までだから、終わるまでスナイパーの訓練場で自主練をしていよう。
「おまえらは早く帰れよ」
「わかってますよー」
「了解」
訓練場で射撃練習をしていると、あっという間に夕方になった。
携帯を確認すると、女主人公から『もうすぐ本部に戻るよ』と連絡が入っていたので、俺は片付けてラウンジに戻る。
「荒船くん」
「よお」
ラウンジで待っていると、影浦隊のメンバーが戻ってきた。
「おつかれ」
「ごめんね、お待たせ」
「別に待ってないから大丈夫だ」
「ありがとう」
一度、荷物を取りに、影浦隊の作戦室に寄るという女主人公。
その間、俺は自分の作戦室で待っていた。
少しすると、作戦室のドアが開く。
「お待たせ」
「早かったな」
「これ以上荒船くんを待たせたら申し訳ないと思って」
「気にすんな」
「ううん。今日はゲートがたくさん開いて疲れたけど、その分あっという間に終わったよ」
女主人公の様子を見てみると、確かに少し疲れている。
「トリガー解除してるか?」
「うん。もう帰るだけだと思ったから」
「なんか飲むか?」
「そうだね」
俺は適当に冷蔵庫から飲み物を取り出して女主人公に渡す。
「ふふふ、ありがとう」
「あ?」
「これ、荒船くんも好きなんだね。雅人くんもよく飲んでるから一緒だなって思って」
カゲの名前が出るのは仕方ないし、いつもなら気にしないが、朝からカゲとの噂話を聞かされて、仲良さそうにしている姿を見せられた今日の俺は我慢できなかった。
俺は、女主人公の腕を掴む。
「荒船くん?」
戸惑っている女主人公を横抱きにして、俺はベイルアウトマットが置いてある作戦室の奥に向かう。
「どうしたの?」
「好きだ」
俺はそれだけ言って、女主人公を押し倒しながら口をふさいだ。
「んっ!?」
閉じている唇を無理やりこじ開けて、俺は女主人公の口に舌を入れて絡める。
「ふっ…あん…」
最初は少し抵抗していた女主人公も、すぐに俺を受け入れる。
「んっ…ふ…」
「女主人公…」
「あ…荒船くん…」
女主人公の顔を見ると、目が潤んでいる。
そういう顔はやめろ。
と思いながら、もう一度俺は女主人公に口づけをした。
「あー…やっちまった…」
俺は、ベイルアウトマットで寝ている女主人公を見て、少し後悔した。
俺のつまらない嫉妬のせいで、こんなところで女主人公を抱いてしまった。
しかも、防衛任務後で疲れていると言っている彼女を何回も、だ。
やってしまったものは仕方ないから、女主人公が起きたら謝ろう。
俺はそう思って時計を見みるともう20時になりそうなので、女主人公には悪いが起こすことにした。
「女主人公、起きろ」
「うーん…」
女主人公の体を揺らすと返事が返ってきたから、意外とすぐに起きそうだ。
「女主人公」
「うん…雅人くん…?」
「…は?」
「…!!あ、ごめん!荒船くん!」
なんでここでカゲの名前が出てくるんだよ。
「ちが…ごめん…」
「…悪い…今日は先帰る」
「荒船くん!」
女主人公が俺の名前を呼んでいたが、無視して作戦室を出る。
なんで寝起きで真っ先に出てくるのがカゲの名前なんだよ。
しかも抱いた後に。
状況考えろよ。
「…あー!!クソ!!」
こんな時間に女主人公を一人で帰すのは、本当はしたくないがこんな状態で女主人公と一緒にいるのは無理だ。
多分、女主人公は疲れてそのまま寝たから寝ぼけていたんだろう。
作戦室なんてどこも作りは一緒だし、ベイルアウトマットが置いてある部屋はほとんど物が置いていないから、どこの作戦室もおんなじような風景だ。
影浦隊の作戦室だと勘違いしたのもわかる。
幼なじみなんだから、カゲに起こされることがあったのもわかる。
…だけど、今日は状況が状況だ。
あんなにシた後でも寝ぼけてると最初に出てくるのはカゲの名前なのかよ。
「あー…最悪…」
俺の独り言は誰に拾われるでもなく、初夏の空に消えていった。