完全に私が悪い。
防衛任務の後に、荒船くんと会って、そこまでは良かった。
けど、その後が大問題。
防衛任務で疲れていたのもあって、完全に寝ぼけていた。
影浦隊の作戦室でうたた寝してしまった時も、ほとんどないけど家で寝ている時も、起こしてくれる男の人と言えば雅人くんだけ。
今回も、寝ぼけていて聞き覚えのある声がしたから反射的に雅人くんの名前が出てしまった…。
あの後すぐに、荒船くんに謝罪と状況の説明を書いた連絡を入れたけど、既読スルー。
完全に怒っている。
「どうしよう…」
とりあえず、明日、学校で謝るしかない。
次の日、学校に早めに着くと、荒船くんが来るまで待った。
だけど、荒船くんはなかなか来ず、チャイムが鳴るギリギリに教室に入ってきた。
「荒船くん…」
「…おう」
声をかけると、一応返事はしてくれたものの、こっちを見てくれることはなく、すぐに先生が来てしまったので、何も話すことができずに終わってしまった。
その後も、休み時間になる度に、荒船くんは席を立ってどこかに行ってしまう。
お昼休みも、いつもなら一緒にご飯を食べるのに、何も言わずに教室から出て行ってしまった。
「…」
「ねー苗字さん、荒船とケンカでもしてるの?」
「…ケンカというか…私が怒らせちゃったの」
「そうなの?何したの?」
「うん…ちょっと間違えちゃって…」
「…そっか。そしたら今日は私と一緒にご飯食べる?」
「鈴木さんありがとう」
私は鈴木さんの言葉に甘えて、二人で食堂に向かった。
私はお弁当を持参しているけど、鈴木さんはいつも食堂で食べている。
空いている席に座ると、少し離れたところに荒船くんが座っているのを見つけた。
荒船くんは犬飼くんとご飯を食べているみたいだ。
「何かあれば相談してね。言いたくないなら無理には聞かないから」
「…ありがとう。もしどうしようもなくなったら聞いてね」
「うん」
鈴木さんの優しさに少し救われたけど、私は荒船くんの方ばかり気になってしまった。
それから数日経ったけれど、相変わらず荒船くんは、学校では徹底的に避けて、ボーダーでも徹底的に避けて、連絡は無視。
私も最初のころは探し回っていたけれど、さすがにここまで徹底的に避けられてしまうと何もできない。
途方に暮れていた。
あの日から、俺は女主人公のことを避け続けている。
スナイパーの訓練場で、一人無言で自主練をしていると、「あの…荒船さんめっちゃ怖くないですか?」と佐鳥たちが話しているのがかすかに聞こえてきた。
「荒船は何にイラついてんだ?」
「なんでしょう?」
「荒船さんめっちゃ怒ってますね。目線で人が殺せそうやわ」
「隠岐先輩!そんな物騒なこと言わないでくださいよ!」
「でもたしかに、ありゃ殺し屋の目だな」
「うるせーぞ!聞こえてる!」
俺に聞こえてるとは思わなかったのか、佐鳥は大げさに驚いた。
「荒船、周りからクレームが来てる」
「東さん…」
「”黙々と練習しているが、まるで殺し屋のようだから見ていて怖い”って」
「誰からですか」
「そんなことより、どうした?何か悩みでもあるのか?」
「…なんでもないです」
「そんな顔してなんでもないはないだろ。人に話すとスッキリするから、あんまり抱え込むなよ」
「はい」
俺はそう返事をすると、射撃ブースに戻った。
「あれは相当だな」
「当真は何があったか知らないのか?」
「なにも聞いてねーなー」
「そうか」
「荒船さんがあんな感じになってるの、見たことないですよね」
「ほんまや。苗字さんと何かあったんかな?」
「ん?なーんで苗字ちゃんの名前が出てくるんだ?」
「当真さん知らないんですか?荒船さんと苗字さんって付き合ってるんですよ」
「そうなのか?」
「え!そうなんですか!」
「そうだったのか。知らなかったな」
「あれー?あんま知られてない感じですか?おれは水上先輩から聞いたんですけど」
そろそろ女主人公と話をしたいと思っているが、ここまで無視し続けていると、なんて言ったらいいのかわからなくなってきた。
次の日、学校で女主人公が俺に話しかけようとしてきたが、また話しかけられる前に俺は席を立った。
「…はー…こんなことしてても無駄なんだけどな…」
別にもう怒っているわけではない。
が、俺がここまで避けていたら女主人公がどういう行動をとるのか、それが知りたかった。
自分でもバカみたいだと思うが、俺のために必死になる女主人公が見たかった。
「荒船くん、まだ仲直りしてないの?」
女主人公と話をしなくなって、今日で一週間が経つ。
「…」
「信じられない…。あの事だって、苗字ちゃんが寝ぼけてただけだってわかってるんでしょ?」
「わかってるよ」
この前、お昼を一緒に食べたときに犬飼には全部話した。
あまりにも俺が女主人公といないことに疑問を持って、洗いざらい聞かれた。
「女主人公は誰かに相談してんのか?」
「うーん、どうだろ?少なくともひゃみちゃんには相談してないね。何も言ってなかったから」
「そうだよな…」
「さすがに内容が内容だし、鋼くんとか出水くんとかには相談しづらいでしょ。してたとしても国近ちゃんとか加賀美ちゃんとか同性にじゃない?」
「…だよな」
無視をしておいてあれだが、女主人公が一人じゃないならいい。
「そろそろ許してあげたら?わざとじゃないのにここまでされたら、俺だったら別れるな」
「は!?」
「えー、だってそうでしょ。最初に苗字ちゃんは謝ってるし、その後謝罪の連絡とかもしたのに無視されて、話を聞いてくれない彼氏なんてめんどうなだけじゃない?」
「…犬飼…おまえ俺に対してだけ本当冷たいな」
「おれは苗字ちゃんの味方だからね」
犬飼は俺のことを冷めた目で見た。
こいつ、いつも笑顔で誰にでも対応するくせに、なんでか俺にはきつい。
たしかに、最初の数日は女主人公から連絡がきたり話しかけたい素振りを見せていたが、最近はあんまりだ。
犬飼の言う通り、もうどうでも良くなったのか…。
「いい加減にしないと、苗字ちゃんのこと誰かに取られちゃうよ?」
「それはない」
「…あのねー知ってる?学校でもボーダーでも、荒船くんと苗字ちゃんは別れたって、一部で噂になってるんだからね」
「マジかよ」
「マジだよ!荒船くんたちが付き合ってるって知ってる人たちは、みーんな二人が一週間も一緒にいないことにおかしいって気づいてるんだから。本当にそろそろいい加減にしなよね!」
そう言うと、犬飼は二宮隊の作戦室に戻って行った。
そろそろいい加減女主人公に連絡するか。
間違っても別れるなんてことになったら困る。
俺は携帯を取り出すと、女主人公に電話をかけた。
だが出ない。
「なんだ?」