着信音だけが続いて女主人公は電話に出ない。
なんで電話に出ないんだ、そう思っていると、後ろから声をかけられた。
「荒船」
「…カゲ」
そこにはカゲがいた。
「…おめーが何に怒ってんのかしらねーけどよ、いい加減話くらいしてやってくれ」
「…女主人公から何も聞いてないのか?」
「聞いてねー。けど、なんかあったのは見てりゃわかる」
「…さすが幼なじみだな」
「あ?」
カゲはそう言うと俺の胸倉をつかんだ。
「おめーな…女主人公を信じるって言ったんだろ…」
「信じてるよ」
「なら俺にんな感情刺してくんじゃねーよ」
「どんな感情だよ」
「おめーからはいろんな感情が刺さってくっけど、今のおめーの感情はカッコ悪いぜ」
「おまえに何がわかんだよ!」
カッとなって俺もカゲの胸倉をつかむ。
「お、おい!おまえらやめろ!」
たまたまブースのロビーにいた諏訪さんが間に入るが、俺たちは気にせず続けた。
「俺たちの関係を理解した上で付き合ってんだろうが」
「そうだよ!だけど俺にだって我慢できるラインがあんだよ」
「ならそれを本人にぶつけろよ!無視してんじゃねー!」
「うっせーな!わかってんだよ!」
諏訪さんや、周りの隊員たちがざわついてるのがわかるが、俺は止まらなかった。
「おまえたちの過ごしてきた17年の長さがなげーなって思い知らされてんだよ」
「…バカか」
「…なに?」
「たしかに俺たちは17年一緒に過ごしてきたけど、これからの時間の方がなげーだろ。それなのに今、この時間を無駄にすんな」
「…余裕なのがムカつくぜ」
「当たり前だろバーカ!」
俺たちはお互い手を離す。
「おい、おまえらもう大丈夫なんだな?」
「諏訪さん、すみません」
「何してんだよ。荒船も、おめーらしくねーな」
「好きな女のためだから仕方ねーだろ」
「おいカゲ!」
「なんだ?荒船、おまえ好きなやついんのか?」
「…はい」
「青春だな。けどな、こんなところでやめろよ。周りの隊員たちがビビってる。殴り合いのケンカすんのかと思ったぞ!」
諏訪さんの言う通りだ。
「…荒船、一つ教えといてやる」
「あ?」
「17年、一緒に過ごしてきたけどな…ここまで元気がなくてさみしそうな女主人公は初めて見た」
「…」
「だからさっさと仲直りしろよ」
「…そうかよ」
そう言って笑ったカゲを見て、バカなことしてんなーと思った。
俺は女主人公を泣かせたいわけじゃない。
「女主人公がどこにいるか知ってるか?電話に出ない」
「あ?しらねー」
カゲに女主人公の居場所を聞いてもわからないときた。
どうするかな、と思っていると、「荒船さん!!」と佐鳥が俺を呼んだ。
「どうした?」
「苗字さんが知らないC級隊員に連れてかれましたー!」
私は荒船くんとのことを国近さんと今さんに相談していた。
「なるほどね〜」
「それは…やっちゃったわね」
「…だよね」
私の様子が変だと、出水くんが国近さんに相談したようで、国近さんが声をかけてくれた。
たまたま今さんもいたけど、今さんも頼れるお姉さんな性格なので、快く相談にのってくれた。
「でも荒船くんもひどいわね。わざとじゃないのにそこまで怒るんなんて」
「…そう思っても、やっぱり嫌だよね。雅人くんと間違えられるの…」
「そんなに落ち込まなくてもいいんじゃないかしら」
「荒船くんやりすぎー。女主人公ちゃんだってこんなに反省してるのにね」
「伝えたくても伝わらないの…」
私が机に顔を伏せていると、国近さんが頭を撫でてくれた。
「よしよし〜。わたしが荒船くん呼び出そうか?」
「…うん」
国近さんが荒船くんに連絡をしようと携帯を取り出していると、「苗字さん」と呼ばれた。
「あ…」
「俺もボーダーに入隊したんだ。これからはボーダーでもよろしくね」
「そうなんだ」
前に告白された隣のクラスの男の子だ。
「知り合い?」
「うん…隣のクラスの人」
「こんにちは。すこし苗字さんを借りてもいいかな?」
「え?」
「トリガー構成の相談にのってよ」
「あ!ちょっと!」
彼はそう言うと、私の手を引いてラウンジを出た。
「ねえ!強引すぎない?」
「そう?ごめんね」
「友達と話していたのに…」
「こうでもしないと話せないと思って」
「…それで、何かな?トリガー構成ならB級に上がってからの方がいいと思うよ」
「それは口実」
その言葉に、私は少し頭にきた。
「それなら戻ってもいいかしら?まだ話をしてる途中だったから」
「話は別にあるよ」
そう言うと、彼は私に一歩近づいた。
「何?」
「荒船くんと別れたんでしょ?」
「…え?」
「先週、学校で話してなかったみたいだよね?噂になってたよ。荒船くんと苗字さんは別れたって」
私たち…別れたことになってるの?
「一週間話もしないって、もうそれって付き合ってるっていわないよね」
「…」
「だからさ、俺と付き合ってよ。俺なら荒船くん以上に大切にするよ」
「…私たちって…別れた…のかな?」
そう思うと、涙が止まらなくなった。
「苗字さん…」
彼が近づいてくる気配を感じたが、私は別れたという言葉のショックが大きすぎて気にしてられなかった。
彼の手が私の腕を掴んだけど、抵抗する気も出ない。
「荒船くんのことはすぐに忘れられるよ」
「触んな」
後ろから抱きしめられた。
私の知っている、大好きな人の腕だった。
「あ…荒船くん…」
「女主人公…」
「荒船くん、いたの」
「いたの、じゃねーよ。おまえはしつこいんだよ。いい加減あきらめろ」
「…はいはい。ちゃんと別れたらまた来るよ。苗字さん、またね」
そう言うと、彼はこの場を後にした。
そして、ここには荒船くんと私の二人だけになった。
荒船くんに後ろから抱きしめられているので、顔は見えないけどすごく走り回ってくれたんだろうな、と思うくらい荒船くんは息を切らしている。
「…はぁ…女主人公…」
「荒船くん…」
荒船くんは抱きしめている腕を解放すると、私の両肩を持って荒船くんの方を向かせた。
久しぶりに、真正面から荒船くんを見る。
「荒船くん…私たち…別れたの?」
「別れてねーよ!つーか、一生別れねーよ!!」
そう言うと、荒船くんは私を抱きしめた。
「悪い!俺が勝手に嫉妬して、勝手に怒って女主人公を傷つけた」
「ううん…私が悪いよ…ごめんなさい…」
「女主人公の気持ちを信じるって言ってたのに、こんな思いさせてまじで悪い」
「ごめんね…」
「女主人公…好きだ…悪かった」
「ありがとう…私も荒船くんのこと好きだよ…傷つけてごめんね」
私がそう言うと、荒船くんの抱きしめる腕に力が入った。
「もう二度と傷つけない…」
「荒船くん…」
そうして、私たちは無事に仲直りができた。
のはいいのだけど、あの仲直りの現場をたくさんの隊員に見られていたようで、しばらく私たちは噂の的になってしまった。
「女主人公ちゃん、仲直りできて良かったね」
「ありがとう。国近さんたちが相談にのってくれたおかげだよ」
「わたしたちは何もしてないよ〜荒船くんの愛の深さだね」
「恥ずかしい…」
「あれ、公開プロポーズみたいなものよね。苗字さん、愛されてるわね」
「今さん…もうやめて」
荒船くんが一生別れない発言をしたため、荒船哲次と苗字女主人公は結婚するという噂が流れてしまった。