最初は、東京とのギャップに驚いたけど、中学を卒業してすぐ兵庫に来て、住み始めてから1ヶ月もしたら関西の空気にも慣れてきたかな。
今日から高校生活が始まる。
稲荷崎高校は偏差値もそこそこ高くて、部活動にも力を入れているらしい。
正直、知り合いがいないから人見知りの私が一から友達ができるかという不安はあるけど、楽しい高校生活を送れたらいいなと思っていた。
「(…ぜ、全然話せない…)」
得意の人見知りを発動させてしまって、私は自分の席に座った途端うつむいてしまった。
隣の席の子や、周りの人たちは知り合いなのか、同じ中学校だったのか、楽しそうに話をしている。
「なんやそれ!アホやん!」
「せやろ?うちもそう思ったわー!」
いいな、私も仲間に入れてほしいなって思うけど、楽しそうに話しているのを聞いてると私が入ってもいいのだろうか、という気持ちになってくる。
「(だ、だめだ…こんなんじゃ…!)」
意を決して顔を上げると、前に座っていた男の子がこっちを見ていたことに気づく。
「…え?」
「ああ、すまん。さっきからうつむいとるから具合でも悪いんかと思って」
「あ…え、と…大丈夫、です」
「そら良かった」
関西弁だけど、穏やかな話し方をしてるからそんなに怖くない。
「自分関西の子ちゃうやろ?どこから来たん?」
「え、あの、東京です…」
「えらい遠くから来たなぁ。親の転勤かなんかなん?」
「はい…」
「…さっきからなんで敬語なん?」
「あ、ご、ごめんなさい!」
「別に謝らんでもええけど。同じ1年なんやし、敬語やなくてええよ?」
「あ、ありがとう」
「名前は?俺は宮治や」
「あ、苗字名前です…」
「ほんなら、今日からよろしくー苗字さん」
「こ、こちらこそ」
そう言うと、チャイムが鳴って、先生が教室に入ってきた。
宮くんは前を向いてしまったけど、私は宮くんの背中に向かって拝んだ。
「(お、お友達第一号だ〜!)」
お昼休みになると、宮くんがまた話しかけてくれた。
隣の席に座ってた子たちにも話しかけてくれて、私が一緒に話せるようにしてくれた。
「苗字さんは東京から来とるから、あんまバーッて喋ったらアカンで」
「ホンマやなー。うるさかったら言うてな」
「ううん、大丈夫。ありがとう!」
「東京ええな〜うちも行きたいわ」
「なんで兵庫に来たん?」
「えっと、親の仕事の都合で…」
宮くんのおかげで、クラスの子たちとも少しずつ話ができるようになったので本当にありがたい。
宮くんのことは、心の中で神様と呼ぼう。
「名前ちゃんって呼んでもええ?」
「もちろん!」
「うちらのことも名前で呼んでな?」
「う、うん!」
お友達が増えて嬉しいなぁ、と思っていると教室の後ろの扉が勢いよく開いて「サム!!」という言葉と共に、宮くんと瓜二つの男の子が入ってきた。
「なんやねんツム。うっさいわ」
「な!うっさいってなんやねん!入部届持ってきてやったんやから感謝しいや!」
「頼んでへんわ」
その男の子はまっすぐ宮くんの傍に来ると、持っていた紙を宮くんに渡した。
「ほれ」
「早いなー。ホンマ、バレーが絡むと精神年齢5歳下がるのなんなん?」
「ええやろ別に!」
「侑くんやー!」
「かっこええなぁ」
「ホンマやな!さすが宮兄弟!」
「み、宮兄弟?」
私がそう言うと、一緒にご飯を食べていた愛ちゃんと鈴ちゃんが衝撃を受けた顔をした。
「名前ちゃん宮兄弟知らんかったん!?」
「う、うん、ごめん…」
「まだ東京までは宮兄弟の名前は知られてないんかー」
「有名人だったんだね、宮くんって…」
「って、言うてうちらも同じ関西やから知ってるだけやけどな」
「そうやな。他県の子やったら相当なバレーファンやないと知らんな」
「バレー?」
バレーと言うと、あのバレーかな?
「そう!あんな、治くんと侑くんは小学校のころからバレーやっとって、めっちゃ強いんやで!」
「2人は同じチームでプレイしとって、双子ならではの息のあったスーパープレイが最高にかっこええねん!」
「な、なるほど…」
あの、宮くんにそっくりの男の子は宮くんの双子の兄弟なんだ。
そんな私たちの話が聞こえたのか、宮くんと話していた双子の男の子、宮侑くん?がこっちを見た。
「喧しいわボケ!」
「(…えぇ!?)」
「侑くんらしいな〜」
「褒めてるんやからええやろ」
「だったらこそこそ話さんとハッキリ言えや!」
「(宮くんと性格は真逆なんだなー…ちょっと怖いな…)」
私が何も言わないでいると、宮侑くんは「チッ!」と舌打ちをするとこっちに近づいてきた。
「おまえも!何か言いたいことがあるんやったらハッキリ言えや!」
「ひっ!」
「ツム、やめえや」
宮くんが止めに入ってくれるけど、宮侑くんは余計にイライラしてます、という顔をした。
「なんやサム。おまえこんなんがタイプなんか?」
「なんでそういう話になんねん。苗字さんは、東京の人やから関西弁に慣れてないねん。そんな話し方しとったら怖がらせるだけやろ」
「はあ!?なんで俺がそんなん配慮せなアカンねん!こっち来たんやったらこっちにはよ慣れろや!」
「(お、おっしゃる通りです…!)」
「…はぁ…もう用事ないんやろ?さっさとクラスに戻りや」
「別に俺がどこにおっても関係ないやろ!」
「関係あんねん。おまえが来たせいで、無駄に注目浴びとる」
宮くんの言葉に周りを見ると、確かにさっきよりも女の子たちからの視線が痛い。
教室の外にも、他のクラスの女の子たちが何人か集まっている。
本当に人気なんだな、宮くんたち。
「おまえ、サムに色目使ったら許さんぞ?」
「つ、使いません!」
「ツム!」
「ふん!」
私の答えに満足したのか、宮侑くんは私のことを睨んだ後、教室を出て行った。
「…」
「苗字さん、すまん。あいつ、俺の片割れやねんけどちょっと性格が子どもやねん。さっき言っとったことは全部忘れてええから」
「あ、ぜ、全然、大丈夫だよ。宮くんたち、仲が良いんだね」
「仲良いわけあるか」
「え?」
「喧嘩ばっかやで」
「あー、たしかに宮兄弟はだいたい喧嘩しとるな」
「そうなの?」
「せや」
宮くんのためにわざわざ入部届を持ってきて、変な虫(私)がつかないように牽制していくのに、仲が悪いは無理があるのでは、と思ったけど言わないでおく。
「苗字さんは部活何入るん?」
「えっと…まだ何も決めてないんだ」
「うちらはバトミントンに入る予定やで」
「名前ちゃんも一緒にどう?」
「バトミントン…運動部って、考えたことなかった…」
「一度見学に来てや!楽しいで!」
「う…ん」
「運動部嫌いやった?」
「う、ううん!そうじゃなくて、私…めちゃくちゃ運動音痴なんだ…」
「そうなん?」
「うん…それはもう…絶望的に…」
「そうなんかー。それやったら無理せんでもええよ?」
「う…でも…せっかくなら、一度見学に行こうかな」
「うん!一回見て、やってみて、それでもアカンかったら文化部に入ったらええ!」
「うん」
私がそう言うと、宮くんが少し考える素振りを見せた。
「治くん?どないしたん?」
「んー…」
宮くんが私のことをじっと見てくる。
「…み、宮くん…?」
「…苗字さんって、別に男が嫌いってわけやないん?」
「え?そ、そういうわけじゃないけど…ただ、ちょっと人見知りで…」
「料理はできるん?」
「料理?うん。両親が仕事で忙しいから、いつも私が料理作ってるよ」
「人のお世話するんは嫌やない?」
「そうだね、どちらかというと好き、かな?」
私が答えると、宮くんはニッと笑うと「せやったらバレー部のマネージャーやってくれへん?」と言った。
「…え?」