これで青城男子バレー部のマネージャーは名前、2年の1人、1年の2人で全部で4人になった。
「今週の土日は練習試合だ。うちの体育館でやるから、準備だけ頼んだよ」
「わかりました」
監督と話をした後、名前は部室にノートを取りに行こうと廊下を歩いていた。
「あ、あの…」
「はい?」
声をかけられた名前は、振り返ると見覚えのある男性が立っていた。
「せ、青城の男子バレー部のマネージャーさんですよね?」
「はい。あなたはたしか、烏野高校の監督さんですよね?」
「そうです!よくわかりましたね!」
「大会でお見かけしたことがあるので」
「そうでしたか」
「それで、何か用ですか?」
「あ、実はそちらの監督さんにお願いがあって来ました」
「そうなんですね。監督は体育館にいますよ」
「そ、それが…そうだと思ってたんですけど、広くて迷ってしまいまして…」
烏野高校の監督、武田一鉄は恥ずかしそうにしながらそう言った。
「青城に来るのは初めてですか?それなら仕方ないですよね」
名前は「案内しますね」と言って、武田を体育館まで案内した。
体育館に着くと、武田は緊張した顔になり「あ、あの…監督さんを呼んできてもらってもいいでしょうか?」と名前に聞いた。
「大丈夫ですよ。そしたら少しだけ待っていてください」
「色々とすみません、ありがとうございます!」
武田の返事聞いた後、名前は体育館の中に入って監督を呼んだ。
名前に呼ばれた入畑は、名前と一緒に体育館の外に出ると、武田に気づく。
「どうも、お世話になってます」
「こ、こんにちは!こちらこそお世話になってます!」
「今日はどうしたんですか?」
「あの、お願いがあってきました!」
「お願い?」
「はい!うちと練習試合をしてくれませんか!?」
練習が終わり、部員が集まった。
「今日もお疲れ様。明日は練習試合があるから、いつもより少し早めに集合で」
「はい」
監督がそう言うと、部員たちは返事をした。
「で、土日は元々伝えてた通りだけど、オフ明けの火曜日は烏野高校と練習試合になったから、そのつもりでよろしく」
「烏野?」
「烏野ってどこだ?」
「なんか、ちょっと前に1回全国行ってたな」
「聞いたことある」
烏野高校の名前が出ると、部員たちは各々反応した。
「放課後の時間だから1ゲームだけだけどね。人数も増えて、色々変わった烏野が楽しみだな」
「へー、飛雄のとこと練習試合か。今はどんな感じになってるのか、楽しみだね」
「楽しみにしてんじゃねえ。ぶっ潰せよ」
「わかってるよ!」
こうして金曜日の練習が終わり、次の日。
練習試合が始まるとすぐ、及川にアクシデントが襲い掛かる。
「オーライ!岩ちゃん!」
「おう!」
及川の上げたボールを岩泉が相手コートにたたきつける。
「一、ナイスキー!」
次は及川のサーブ。
「クッソ、ここで及川のサーブかよ」
「少しは手加減しろよなー!」
サーブトスが少し乱れ、若干無理やりジャンプサーブをした及川が、着地を失敗した。
「ヤバ!」
「おいこらクソ及川!!何してんだよボケェ!!」
「ミスった!」
「見りゃ分かる!」
そんな及川の姿を見ていた名前は、監督に「監督!」と声をかけてタイムを要求した。
「徹!」
「そ、そんなに怖い顔してどうしたの?綺麗な顔が台無しだよ!」
「足首、やったでしょ?」
「え?」
及川は足首に力を入れながら軽く回すと「あー…たしかになんか変かも」と言った。
「いつもと若干歩き方が違ったから、絶対やってる」
「本人でさえ多少の違和感なのに、よく気づくな」
「さっすが名前だよね!愛の力かな?」
「腐れ縁の力ね」
「ひどい!」
名前は監督の方を見ると「病院に行かせます」と言った。
「わかった。溝口くん、車出してくれるかい」
「わかりました!」
溝口は急いで車のカギを取りに行く。
「名前ちゃんありがとう」
「そんなこと言ってる場合?もしこれで捻挫でもしてたら、あんた火曜日の烏野戦出られないわよ?」
「たしかに!!」
「楽しみにしてたのに」
「頑張って火曜日までには治すよ!」
「捻挫なめんな!」
名前の肩を借りながら駐車場まで歩く及川。
「すぐに気づいてよ」
「いやー、本当に微妙な違和感なんだもん。もう少し動いた後だったら気づいたと思うけど」
「悪化するでしょ」
「さっすが名前ちゃんだよねー!よく見てる!」
「当たり前でしょ。贔屓になっちゃうけど、やっぱり徹と一のことは一番見てるよ」
名前のセリフに及川は照れて、顔を赤くする。
「もう!そういうことサラッと言わないでよ!イケメンすぎ!」
「本当のことなんだから仕方ないでしょ」
「名前は俺のことをどうしたいの!」
「ずっと楽しくバレーしててほしいよ」
そう言って笑う名前を見て、及川は空いている手で顔を隠した。
「ちょっと待って、もう…本当に、好き!!」
「はいはい、ありがとう」
「早く結婚したい!」
「ウシワカ倒して全国行けたらね」
「言ったね!絶対だよ!」
「考えるって約束したからね」
「それは覚えてるんだね!」
「さすがに3年前の約束は覚えてるよ」
そんな話をしていると、溝口が車のカギを持って、2人を呼んだ。
「おーい!こっちだ!」
「溝口くん、ありがとうー!」
「いいから早く乗れ!」
及川を車に乗せると、名前は「じゃあ、溝口くんお願いします」と言った。
「え!名前も一緒に来てくれるんじゃないの!?」
「行かないよ。こっちで仕事残ってるから」
「てっきりついて来てくれるんだと思ってたよ!」
「子どもじゃないんだから行けるでしょ。溝口くんもいるし」
「俺は名前と一緒がいいのにー!」
「わがまま言わないで」
「ううう…ひどい…」
泣きまねをしている及川を無視して、名前は車の扉を閉める。
「何かあれば連絡ください」
「わかった。おまえ、本当こいつの保護者だな」
「小学生の時からなんで」
「なるほどな」
溝口も車に乗り込むと、「じゃあ行くぞ」と及川に声をかける。
「はーい!じゃあ名前、また後でね。終わったら連絡するから!」
「了解」
車が走り出すと、名前は体育館に戻る。
丁度、1セット目が終わったタイミングだったようで、岩泉や松川、花巻などの試合に出ていたメンバーがベンチで休んでいた。
「お疲れ」
「どう?」
「勝ってる」
「さっすが」
「あいつは大丈夫そうか?」
「うん、多分大丈夫。軽い捻挫じゃないかな?」
「なるほどな」
松川はボトルから一口飲み物を飲むと「でも、よく気づいたよね」と名前に聞いた。
「まあ、なんだかんだ及川のことを一番近くで見てきてるからね」
「愛だな」
「愛かー」
「愛じゃねえだろ」
「男の嫉妬は見苦しいぞ、岩泉」
「ああ!?」
「一、どうどう」
怒る岩泉を名前はなだめながら松川と花巻の方を見る。
「及川だけじゃなくて岩泉も、もちろん花巻と松川のケガにも気づくよ。私があんたたちのバレー大好きなの知ってるでしょ」
そう言って笑うと、3人は持っていたボトルを落とした。
「ちょ!こぼれるでしょ!ちゃんと持っててよ!」
「いやー、今のは名前が悪いでしょ」
「岩泉、こいつの急なデレなんとかして」
「なんとかできてたらとっくにやってる」
「文句があるなら一人ずつ聞くわよ?」
練習試合とは言え、試合は試合。
にも関わらず、なぜこんなに普段通りなのか、と同じく試合に出ている金田一は心の中で思っていた。
その日の夜、名前が自分の部屋で休んでいると及川から電話がかかってきた。
「もしもし?」
『もしもし!名前ちゃん?』
「私以外に誰がいるの?」
『もう!意地悪言わないでよ!』
「はいはい。で、どうだったの?」
『軽い捻挫でしたー』
「やっぱり」
名前は思っていた通りだ、と思った。
『名前の言った通りだったよ。でもすぐ処置ができたからほとんど問題ないって。とりあえず、火曜日の部活前にもう一回病院行けば大丈夫そう』
「それならよかった」
『名前のおかげだよ。ありがとう』
「どういたしまして」
『明日は1日安静だから、家でゆっくりしとくよ。名前に会えないのはさみしいけどね』
「練習終わったらそっち寄るから、いい子で待ってなさい」
名前の言葉に及川は『本当!?絶対だよ!!絶対来てよね!』と騒ぎ出した。
「わかったから及川うるさい」
『及川じゃないでしょ!!』
「はいはい、徹くん」
『めんどくさそうに対応しないで!』
「徹、そろそろ本当にうるさい」
『ご、ごめーん!』