烏野高校との練習試合の当日。
「じゃあ、俺は今から病院行ってくるけど、変な人について行ったらダメだよ!」
「行かないわよ。あんたじゃあるまいし」
「俺だってついて行かないよ!岩ちゃん!烏野が名前に変なちょっかいかけないように見張っててよ!」
「おまえに言われなくてもわかってんだよ!いいから早く行け!」
「心配だなー!」
心配する及川をタクシーに乗せると、岩泉と名前は教室に戻る。
「心配性すぎる」
「おまえがフラフラしてんのが悪い」
「ちょっと、一までそういうこと言う?」
「おまえは隙がなさそうに見えて隙だらけだからな」
「聞き捨てならない」
岩泉は名前の腕をつかむと、自分の方に抱き寄せる。
「一?」
「中学の頃と違うんだよ。制服のおかげで辛うじて女に見えてた頃のおまえはもういないってこと、少しは自覚しろ」
「…綺麗になった?」
「こんな風に周りに牽制しないといけないくらいにはな」
そう言って、岩泉は名前の頭を撫でると名前を解放する。
「一はやること言うこと本当男前だなー」
「そう思ってんならさっさと惚れろ」
「もう惚れてるけどなー」
「俺たちのバレーじゃなくて俺自身に惚れろって言ってんだよバーカ!」
放課後になると、名前と岩泉は体育館に向かう。
「何時くらいに来るんだ?」
「烏野からここまでそんなに距離はないから、1時間くらいで来るんじゃないかな」
「そしたら先にアップ始めとくか」
「そうだね」
「及川は試合に間に合うんだろうな」
「うーん、多分?終わったら一応連絡が来ることになってるよ」
第3体育館裏では、金田一と2年生の矢巾が着替えを終えて話をしながら体育館に向かっていた。
「今日は矢巾さんがセッターで出るんですよね?」
「ああ。及川さんが病院だからな」
「楽しみにしてます」
「及川さんと比べんなよ。そういえば、なあ、今日来る烏野ってさ、アレが居るとこだろ?」
「ハイ??」
「”コート上の王様”。おまえ出身中学同じだろ?」
金田一はそう聞かれると「ああ…”影山”っスか?」と言った。
「別に大したことないっスよ?たしかに個人技は頭一つ抜けてましたけど、チームプレーっていうモンが根本的に向いてないんスよ。アイツ、自己チューだから」
「へーっ…まあ行った先が烏野だしな。昔は強かったのか知らんけど…」
矢巾はそう言うと「烏野っつったらマネが美人てことくらいしか覚えてないし」と言った。
「マジっスか!?」
「そーなのよ!ちょっとエロい感じでさ〜。でも、やっぱウチの名前さんの方が綺麗かなー!」
「苗字さんっスか」
「名前さんも同じ中学だったんだよな?中学時代の名前さんってどんな感じだった?」
「うーん、同じって言っても向こうは女バレの主将で、あんま話す機会はなかったっスね。あの頃から周りには及川さんと岩泉さんがいましたし…」
「やっぱ昔からそうだったんだ」
「それに、中学時代の苗字さんって、今よりも髪が短くてスラーッとしてたんで、どっちかっていうと美少年って感じでした」
「え!そうなの!?」
「はい」
矢巾は金田一の言葉に驚いた。
「マジか。去年初めて見たとき、綺麗すぎてビビったのに!意外!」
「俺も青城入って驚きましたよ。苗字さんがバレー辞めてマネージャーやってたのも」
「なんかあったんかなー」
名前の話をしていた矢巾は烏野の話に戻した。
「あとそういや烏野にはガラの悪い奴いたな〜。ボーズで目つき悪くてさ〜アッタマ悪そうな顔したー…」
そんな話をしながら体育館裏の角を曲がろうとすると、目の前に今話をしていた烏野の部員が目の前に現れた。
「!?」
烏野高校2年、田中を先頭に烏野バレー部の一部のメンバーがぞろぞろと2人の前に姿を現す。
「…あっ、えーっと」
矢巾は汗をかきながら、なんとか誤魔化そうとする。
「…ウチを…あんまナメてっと…喰い散らかすぞ」
「!!?」
「そんな威嚇しちゃダメですよ〜田中さ〜ん」
「?」
「ほらぁ、”エリートの方々”がびっくりしちゃって可哀想じゃないですかあ」
烏野高校1年、月島がそう言うと、金田一が負けじと「べっ別にビビッてねぇよ!」と言った。
「おう、そうだな。イジメんのは試合中だけにしてやんねーとな」
「あっおまえら!ちょっと目ぇ離したスキにっ!」
月島たちの後ろから、主将である澤村が出てきた。
「失礼しましたっ!ホラ、ウロウロすんなっ!田中、その顔ヤメロ!!」
澤村は、矢巾たちに頭を下げると田中の背中を押した。
「…久しぶりじゃねーの、王様」
金田一は、影山にそう声をかける。
「そっちでどんな独裁政権敷いてんのか楽しみにしてるわ」
「…ああ」
金田一の嫌味に、そう一言だけ返すと、影山はそのまま歩き出した。
烏野のメンバーが体育館に着くと、「挨拶!!」と澤村が声を出す。
「お願いしあーす!!」
その声で烏野高校が到着したことに気づいた名前は、監督に一言断って、入り口に向かう。
「こんにちは、烏野高校バレー部のみなさん。わざわざお越しくださり、ありがとうございます。マネージャーの苗字です」
「どうも。主将の澤村です」
「あいにく、ウチの主将が今不在で。来たら挨拶させますね」
「大丈夫ですよ」
「ありがとうございます。そしたら、こちらに荷物置いてください」
名前は烏野側のベンチを指さすと、澤村たちを案内した。
「苗字さんって、たしか3年生ですよね?」
「そうですね。澤村くんと同い年です」
「なら敬語じゃなくて大丈夫ですよ」
「…そう?」
「ああ」
「じゃあお言葉に甘えて。菅原くんも、久しぶり」
「お、覚えててくれてるんだ!?」
「え?当たり前じゃない。菅原くんのセットアップ、私好きだよ?」
そんな名前の言葉に、菅原は顔を赤くした。
「あ、ありがとう!」
「こちらこそ」
そして、名前は影山に声をかける。
「飛雄くん」
「名前さん…ちっす」
「な!影山!!おまえ、こんな美人さんと知り合いなのか!?」
「日向うるせえ!!」
日向を見て名前は「うわーちっちゃいねー」と言った。
「な!確かに小さいですけど、おれは跳べます!」
「…へえー、面白いね」
「負けないです!」
「楽しみにしてるね。飛雄くんも、君のバレーを見るのは久しぶりだから頑張ってね」
「ウッス…」
そう言って、名前は青城側に戻って行った。
「な、なんか美人だったけどめっちゃ怖かった!!」
「影山!おまえも苗字さんと知り合いだったのかよ!」
「あの人は、元々北一女バレの主将だったんです」
「なるほどな!中学ん時の先輩ってことか!」
「はい」
「それだけで名前で呼ばれるのかよ!?くそー!うらやましいぜ影山ー!」
「あ、いや、別にそれだけで名前で呼ばれてるわけじゃないっス」
「?」
青城ベンチに戻って来た名前に、岩泉は話しかける。
「何してたんだ?」
「挨拶」
「いるか?」
「いや、いるでしょ。何言ってるの?」
「出たよ、岩泉の独占欲」
「及川よりガチめなのが怖い」
「あいつと一緒にすんじゃねえ!そういう仕事は俺にふれよ!」
「岩泉は私のこと子どもかなんかと勘違いしてる?」
「してねえよ!」
名前の行動に文句を言う岩泉を無視して、名前は監督の方に向かった。
「監督、向こうのアップ後に早速試合開始です。15分後に、よろしくお願いします」
「わかった」
名前は携帯を見るが、及川からの連絡はまだない。
烏野のアップが終わり、間もなく青葉城西対烏野高校の練習試合が始まる。