06

及川に声をかけられた影山は、とくに何も答えず、ただただ及川の様子を見ていた。

「無視されてるじゃん」
「トビオひどいね〜」

そんな及川に、入畑は「とにかくおまえはアップとってこい!いつもより念入りにだぞ!!」と言った。

「はァ〜〜〜い」

及川はチラッと影山のことを見ると、名前の腕をつかんだ。

「さ、名前ちゃんアップに行くよ!」
「一人で行ってよ。てか、こういうところで私に触らないで」
「ひどい!!昨日会えなかったんだからいいじゃん!!」
「あそこにいる女子生徒が私のことめちゃくちゃ睨んでるの。わかる?見えてる?」
「うっ…!」

及川はしぶしぶ名前の腕を離すと「じゃあ待っててね…」と言った。

「待ってるから早くアップしてきて!」
「了解」

及川不在のまま、ゲームは終盤に差し掛かる。

「ね〜及川さんまだ出ないのかなぁ」
「バカ!ちゃんとウォーミングアップしないとケガしちゃうんだから!」
「エーッそれはダメ〜!」

女子生徒の黄色い声援を聞いて、田中は「チッ!」と大きな舌打ちをした。

「…烏野の勢いが止まんない…!」
「烏野のマッチポイントだ…!ウチが崖っぷち…!」

烏野が24点になり、後1点獲れば烏野の勝ち。
そのタイミングで金田一のスパイクが月島の腕をはじいて、青城は21点となる。

「ドンマイ月島!」
「金田一ナイス!」

スコアボードを見ながら入畑が渋い顔をする。

「…」
「監督、大丈夫ですよ」
「ん?」

名前がそう言うと「アララ〜ピンチじゃないですか」とアップが終わった及川が現れた。

「…アップは?」
「バッチリです!」
「ちゃんと点獲ってきてよね」
「わかってるよ!」

ここで青城側はメンバーチェンジで、及川がピンチサーバーとしてエンドラインに立つ。

「あ、及川出る」
「?こっちのセッターが代わるってこと?」
「ううん…多分、ピンチサーバーだと思う」

及川が入ると、青城と影山の空気が変わった。

「ナイッサ」
「ナイッサ―!」
「徹、一本ナイッサ―!」

及川は名前に笑いかけると、烏野のコートを見る。

「いくら攻撃力が高くてもさ…その”攻撃”まで繋げなきゃ意味ないんだよ?」

ボールを持った及川は、月島を指さした。

「?」
「(…何だ…?月島を指さしてる…?)」

及川はサーブトスをするとジャンプサーブで月島を狙った。

「!!」
「(月島狙い!?さっき指さしたのは”宣言”…!?)」
「うっ!」

ゴッ!と鈍い音がして月島の腕をはじいたボールは、そのまま2階の手すりまで飛んでいった。

「!!」
「いっ…!?なんつー威力…!!」

及川のサーブの威力に、菅原と山口、そして武田は驚いた。

「さっすが徹!」

及川の見事なサービスエースに、名前は顔がほころんだ。

「…うん、やっぱり。途中見てたけど…6番の君と5番の君、レシーブ苦手でしょ?1年生かな?」
「うっ!!」

言い当てられた日向は思わず声を出した。

「…」
「(影山の…いや…それ以上の威力に加えて、ほぼ宣言通りのコースに打つコントロール!!これが青城の主将…!!)」
「…じゃあ…もう1本ね」
「ー…」

及川はそう言うと、また同じように月島をサーブで狙う。

「ツッキイイイイ!!」
「くそっ…」
「…おい!コラ!大王様!!おれも狙え!取ってやる!狙えよっ!!」
「(大王様…?)」

及川のサーブを見た澤村は、「…よし全体的に後ろに下がれ。月島は少しサイドラインに寄れ」と言った。

「ハイ」
「…よし、来い!」

そんな澤村の姿を見て「なるほど、レシーブが得意な澤村くんが守備範囲を広げるんだ」と名前は思った。

「…ふーん…でもさ一人で全部は、守れないよ!!」

そう言うと及川は、今度は端に寄った月島目掛けてコントロール重視でサーブを打つ。

「っ!!」

コントロール重視のため威力が落ちたサーブを、月島がなんとか上げる。
が、ボールはそのまま青城のコートに戻ってくる。

「おっ取ったねえら〜い。ちょっと取り易すぎたかな?でも、こっちのチャンスボールなんだよね」
「チャンスボール!」
「くそっ…!」

返ってきたボールを及川がレシーブする。

「ホラ、おいしいおいしいチャンスボールだ。きっちり決めろよおまえら」

ボールは綺麗にセッターに返り、ブロックを振り切った金田一にトスが上がる。
完全にフリーになったと思った金田一の前に、日向のブロックが現れて、金田一のスパイクは日向の手に当たった。

「よしっ」
「ナイスワンタッチ日向!!」
「チャンスボール!!」

澤村がレシーブをすると、影山が日向にトスを上げる。
日向は、金田一が守っていた逆サイドに一気に移動するとスパイクを打ち、ボールは及川の横を通り過ぎてコートに落ちる。

「ー…」

ピピーッという笛の合図で練習試合が終わる。
結果はセットカウント2対1で、烏野高校の勝利。

「…へぇ…!!」

試合が終わり、両チームが整列をして挨拶をして、終わると、それぞれ自分たちのベンチに戻る。

「お疲れ。とりあえず、インターハイ予選の前に烏野と戦っておいて良かったな」
「ですね。これで対策が立てられます」
「…」
「あのー、名前ちゃん?顔が怖いよ」
「べっつに」
「俺たちが負けちゃって悔しかった?」
「練習試合だからまだいいけどね。次は、及川が最初からコートに立つから、そうなればまた試合の展開は変わってくるだろうしね」
「そうだよ!烏野にはまだまだ穴があるからね!次は負けないよ」

いつもと変わらない及川の様子に、名前はため息をついた。

「はぁ…まあ、いいや。岩泉、約束通り、ラーメン奢ってね」
「わかってるっつーの」
「え!岩ちゃんそんな約束してたの!いつの間に!?俺も名前とラーメン食べたい!」
「うっせーな!だったら俺の分奢れ!」
「なんで俺が岩ちゃんに奢らなくちゃいけないのさ!」

3人が騒いでいると、武田がこちらに近づいてきた。

「あ、あの、帰る準備が終わったので、僕たちはこれで失礼しますね」
「はい、ありがとうございました」

烏野高校のメンバーが体育館から出ると、及川もその後を追って体育館を出て行った。

「あ?あいつは何してんだ?」
「さあね。挨拶にでも行くんじゃない?」
「あいつが挨拶?嫌味でも言いに行ったんだろ」
「…まあそれはそれでいいんじゃない?」

練習試合が終わり、各自自主練をしていると及川が体育館に戻って来た。

「おかえり」
「ただいまー!飛雄に挨拶してきたよ!」
「…影山、なんか凄くなってたな」
「うん。…から回ってた天才が才能の行き場を見つけちゃったんだから、もう凡人には敵わないんじゃない?」
「へえ、おまえでも敵わないのかよ」

岩泉の言葉に、及川は「トスは…ね」と言った。

「トス回しで飛雄に敵う奴、県内にはいないんじゃない?まあ、サーブもブロックもスパイクも負けないけどね」
「”トスも負けてない”って言えよクソ及川!てめえセッターだろうが!」

そう言って岩泉はボールを及川にぶつけた。

「だってホントのことだもん!」
「私は及川のトスの方が好きだけどね」
「〜っ!さっすが名前!わかってるね!」

及川は名前に抱きつこうとするが、岩泉がそれを止める。

「もう!岩ちゃん邪魔しないでよ!」
「うるせー!」
「…まあ、トスは敵わないけど、だからこそレシーブで崩すんデショ。どんなにトスがすごくたって、ボールがセッターに返んなきゃ意味ないんだから」
「なるほどな」
「公式戦で烏野と当たったら…レシーブめっちゃくちゃに乱してマトモにトス回しする機会なんか与えず”一人だけ上手くたって勝てないんだよドンマイ”って言いたい!!言いたい〜っ!!」

そう言って嬉しそうにする及川を見て、名前と岩泉はドン引きしていた。

「…」
「及川…」
「?え、何?だって天才とかむかつくじゃん」
「俺は女にキャーキャー言われてる奴の方がむかつくっ」

岩泉はそう言うと、またボールを及川にぶつける。

「痛ァーっ!僻みはみっともないぞ岩ちゃん!」
「ふーん、岩泉も女の子にキャーキャー言われたい願望があるのね」

名前の言葉に岩泉はボールを投げるのをやめて、名前の両肩をつかむ。

「勘違いすんじゃねえ!むかつくってだけで、別に俺がキャーキャー言われたいわけじゃねえ」
「ふーん」
「信じてねえなその顔!」
「べっつに!岩泉もちゃんと男なんだなって思っただけだよ」
「変な納得のしかたしてんな!俺は、好きな女一人に想ってもらう方がいいんだよ」
「そんなの俺だってそうだよ!ついでに言うと、名前だけでいいの!」
「及川の言葉は信じない」
「なんでよ!!」

近くで自主練をしていた松川と花巻は「ほーんと、仲良いよねあの3人」と、3人をあきれながら見ていた。



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