「もうインターハイ予選来月なんだね」
「早いよな。3年もあっという間に終わりそうだ」
「今年こそは、だね」
「今年はいけるって信じてるぜ」
「うん」
いつもなら隣のクラスから及川が出てくるところだが、今日は監督に呼ばれて職員室に行っている。
及川の代わりに、1組と3組から松川と花巻が出てきて2人に合流した。
「よう」
「そういえば、もう見たか?」
そう言って、花巻はカバンから月刊バリボーを取り出した。
「今月の?誰か載ってた?」
「”高校注目選手ピックアップ”の特集にウシワカが載ってる」
「本当だ」
花巻から雑誌を受け取った名前は、牛島が特集されているページを確認した。
「大々的に載ってるね」
「顔が怖い」
「岩泉と変わんなくない?」
「ああ!?」
「一、いちいち本気にしないの」
名前は岩泉の腕を軽く叩く。
「そろそろインターハイ予選の組み合わせ出るだろ?」
「多分。及川が監督に呼ばれたのって、それ関係じゃないの?」
「最後のインターハイか」
「…だな」
名前は、少し暗い雰囲気をまとう岩泉、松川、花巻の背中に回ると、順番に背中を叩いた。
「はい!弱気になるの禁止!あんたたちは強いよ!だから、自信持って胸張って!」
「マネージャーならもう少し可愛く元気づけてくれよ!」
「名前にはそういうの無理でしょ」
「これが私の愛情表現なの!」
「名前らしいな」
「でしょ?」
「これで喜ぶのは岩泉と及川だけだよ」
「そんなこと言って、2人も嬉しいでしょ」
「まあな」
監督の入畑とコーチの溝口、そして主将の及川が体育館に現れると、集合をかける。
「インターハイ予選の組み合わせが出たよ」
そう言って組み合わせ表がホワイトボードに貼り出された。
「今回はAブロックのシードだね」
「順調に勝ち進めば…烏野か伊達工と当たる」
「どこがこようとウチは強いからね」
「それじゃあ今日も練習を始めるよ」
及川がそう言うと、練習が始まった。
いつものようにアップをすると、パス練習、サーブ練習、スパイク練習など、それぞれ分かれて進んでいく。
「名前先輩!洗濯行ってきます!」
「ありがとう。1年生は、ドリンクとタオルの準備をお願いね」
「わかりました!」
マネージャーも各自、自分の仕事をしていく。
「よし、そしたら今日はここまでで終わりにしようか」
「各自クールダウンして上がれー!」
及川が声をかけると、岩泉が練習の終わりの合図を出す。
「自主練で残るやつはあんまり遅くなんなよ」
「わかりましたー!」
岩泉はトイレに行くために体育館を出た。
「名前ちゃーん!トス練したいから球出して〜」
「他の1年生に頼みなよ」
「えー!名前がいいのにー!」
「私はマネージャーの仕事が残ってるの」
「それならしょうがない。終わったら練習付き合ってね!」
「はいはい」
名前はそう言うと、ボールの空気圧の調整をするために体育館倉庫に向かった。
「マッキー!今月の月バリ買ってるよね?」
「あるけど」
「見せてー!」
「いいけど、自分で買えよな」
「俺が載ってるなら買うけどさー」
「残念だったな、今月はウシワカが載ってるがおまえは載ってない」
「え!ウシワカ載ってるの!?」
花巻の発言に、及川はショックを受けた。
「なんでウシワカが載ってるのさ!」
「高校注目選手ピックアップなんだから仕方ないだろ」
「それなら俺だって注目選手でしょ!なのになんで俺が載ってないの!俺が月バリに載ってないなんておかしいじゃん!」
そう言うと、及川はボールを枕にして床に寝っ転がった。
「めんどくせえ…」
「花巻が余計な事言うから…」
と、ちょうどそこに岩泉がトイレから戻って来た。
「あ?アレなにした?」
床に寝っ転がっている及川を見て、岩泉は花巻に問いかけた。
「”俺が月バリに載ってないなんておかしい!つっていじけた」
「あぁ、じゃあどうでもいいや」
「岩ちゃんひどい!!なぐさめてくれたっていいじゃん!」
「時間の無駄だ」
岩泉にそう言われた及川は、顔を真っ赤にしながら「もういいもん!名前になぐさめてもらうから!」と言って立ち上がり、体育館倉庫に走った。
「あ、おいコラ及川!!」
その及川の後を追う岩泉。
「名前〜!!岩ちゃんもマッキーもひどいんだよ!」
「…及川…」
体育館倉庫でボールの空気圧の調整をしていた名前の腰に抱きつく及川。
そんな及川を、めんどくさそうな顔で見つつも自分の仕事を続ける名前。
「てめえは隙あらば名前に抱きついてんじゃねえ!!」
「いいでしょ別に!岩ちゃんがひどいのが悪いんじゃん!」
「名前に甘える理由を俺で作るな!」
「ギャー!名前!助けて!」
名前に抱きついている及川を引き剝がそうとする岩泉だが、及川は腕の力を強めて抵抗する。
「ちょ!徹!力入れすぎだバカ!!」
「やーだー!名前とくっついてるの!」
「離れろこのボケ!!名前が苦しがってんだろ!」
「岩ちゃんが離せばいいでしょ!」
「おまえが離せ!」
「〜っ!!もう…!!花巻!」
名前は花巻の名前を大声で呼ぶ。
「どうした?」
名前を呼ばれた花巻は、急いで体育館倉庫に入って来た。
「助けて!」
「何やってんだよおまえら」
「あーあー、名前が可哀想なことになってる」
一緒に入って来た松川は岩泉の、花巻は及川の腕をそれぞれ持って、名前から引き剥がす。
「ちょっとマッキー!邪魔しないでよ!」
「名前が潰れる」
「松川、おまえも手離せ」
「いやいや、放っておけないでしょ」
2人から解放された名前は、深呼吸をすると岩泉と及川のことを睨む。
「少しは自分たちのパワーを考えなさいよ!内臓潰れる!」
「ご、ごめーん…」
「悪かった…」
名前の本気の説教に、2人は素直に謝った。
「おまえらが名前のこと好きなのはわかるけど、やりすぎたら嫌われるぞ」
「え!名前は俺のこと嫌わないよね!」
「人の話を聞かない及川は嫌い」
「もう!冗談でも嫌いって言わないでよ!」
「あんたには冗談に聞こえるの?」
「うっ…ごめん…」
名前はもう一度2人のことを見ると「インターハイ予選が終わるまで私に抱きつくの禁止!」と言った。
「な、なんで!?」
「わ、悪かったって言ってんだろ!」
「試合前にケガでもされたら困るから。私もケガしたくないし」
「そ、そんな〜…」
「それくらい我慢しろよ」
「名前が正しいよね」
花巻と松川の援護射撃があるが、岩泉と及川も負けじと対抗する。
「で、でも、それのせいでいつものパフォーマンスができなかったら、後悔するのは俺だし、名前だよ!」
「私との接触がそんなにパフォーマンスに影響するわけ?」
「するに決まってんだろ」
「そうだよ!名前は自分がいかに俺たちに多大なる影響を与えてるのか、もう少し自覚して!」
2人の必死の訴えに、名前は「…重症だ…」とつぶやいた。
「まあ、たしかに仕方ないよね」
「だな。これに関しては今に始まったことじゃないからな」
「いつも通りが一番だよ!特にインターハイ予選前っていう重要な時期に、いつもと違うことするなんて論外だよ!」
「及川のくせにいいこと言うじゃねえか!」
「岩ちゃん、褒めるならちゃんと褒めて!!」
岩泉が珍しく及川を褒める。
「つまり…?」
「つまり、いつも通り名前に抱きつくよ!」
「ただ、さっきみたいなことはもうしねえから安心しろ」
「…まあ、それならいっか」
「うん!」
「本当、名前は2人に甘いなー」と、松川はあきれながらそう言った。