「みんな準備はいいかな?」
「大丈夫です」
青葉城西の男子バレー部は、全員でバスに乗り込んで、インターハイ予選が行われる仙台市体育館に向かう。
「ねえ、なんで一人で座っちゃうのさー!俺の隣に座りなよ!」
「及川うるせーよ!」
「なんで岩ちゃんが俺の隣に座ってるのさ!俺は名前と座りたかったのに!」
「奇遇だな!俺も今同じ気持ちだボケ!」
「移動のバスの中でくらい静かにできないわけ?」
名前は、自分の後ろに座っている及川と岩泉の方を振り返るとそう言った。
「大人しく座ってなさい」
「だってー!岩ちゃんが隣だと狭いんだもん!」
「それはてめえの図体がでかいからだろうが!」
「俺は縦にでかいんですー」
「俺だって筋肉だ!」
通路を挟んで2人の隣に座っている花巻は「まじでこいつら小学生かよ…」とあきれていた。
「名前のことになる岩泉も及川と同じ精神年齢になるから厄介だよねー」
「聞こえてんぞ!」
「とばっちり!」
一番前に座っている入畑と溝口は「本当…こいつらのいつも通り感はさすがな」と、あきれながらも頼もしく思った。
「俺、岩泉さんってもっとクールでかっこいいと思ってた…」
「それは間違ってないでしょ。ただ、苗字さんの前だと、岩泉さんも年相応になるってことでしょ」
「年相応か…?」
後ろの方に座っている金田一と国見も、及川と岩泉のやり取りを聞いていた。
「最後のインターハイだ〜って変に緊張されるよりいいじゃん」
「国見…おまえも本当いつも通りだな」
「まあね」
仙台市体育館に到着した青葉城西男子バレー部は、荷物を下ろすと体育館の中に向かう。
「俺たちの試合までまだ時間がありますね」
「早く来た目的はあれだよ。もう1回見ておかないとな、烏野1年生コンビのあの強烈な速攻」
「ハイ」
名前は周りを見ると、「あれ?」と言った。
「どうした?」
「…ううん、なんでもない」
「あ?」
「苗字、どうした?」
「いえ…」
入畑も同じように周りを見ると、1人足りないことに気づく。
「?及川はどうした?」
「エ!?」
聞かれた部員は少し言いづらそうな顔をした。
「えーっと…」
「なんだ」
溝口にも聞かれると、チラッと名前のことを見てから「外で…他校の女子に捕まってます…」と言った。
「…」
「…岩泉」
「ハイ」
入畑に名前を呼ばれた岩泉は、体育館の外に向かう。
「あいつさー、なんで名前のことが好きなのに他の女の子にかまうんだろうね」
「他校の女子なら名前に意地悪しないからじゃない?」
「そういうこと?」
「後は、名前に嫉妬してもらいたいとか?」
松川はそう言うと、名前のことを見た。
「何?」
「どうなの?嫉妬するの?」
「私が?他の女の子たちに?」
「うん」
「私よりも及川のことを理解してる女が他にいると思う?」
「思わない」
「それが答え」
そう言うと名前は歩き出した。
「はあーかっこいいー」
「男前すぎだろ」
岩泉は、他校の女子に囲まれてニヤニヤしている及川を見つけると、及川の後頭部めがけてバレーボールを思いっきり投げた。
「ギャアア!?及川さあぁん!?」
「及川さん!?」
投げたボールは、及川の後頭部に当たった後、綺麗に岩泉の元に返ってきた。
「痛ー!監督にもぶたれたことないのにっ!」
及川は後頭部をさすりながら後ろを振り返ると、怖い顔をした岩泉を見つけて息をのむ。
「!…ゴメン、写真はまた今度ね…」
「えぇーっ」
女の子たちにそう言うと、及川は岩泉の後を追った。
「おまえな…いい加減にしねえと殺すぞ」
「なんで岩ちゃんがそんなに怒ってるのさ!てゆーか、名前は?」
「おまえにあきれて先行った」
「そんな!名前ちゃんに迎えに来てもらって、”ごめんね、俺にはこの子がいるから!”って断る予定だったのに!」
「おまえんじゃねーよ!」
2人は先にいった青葉城西のメンバーに追いつくために、駆け足で体育館に向かう。
「あ!名前!」
「及川さん邪魔なんであっち行っててもらえますか?」
「敬語!?ど、どうしちゃったの名前!」
「おまえが他校の女子とイチャイチャしてるからおこだよ」
「えー!そうなの?俺は名前一筋って言ってるじゃん!安心してよ!」
「どこに安心する要素があるんですかね?」
「ほ、本当におこだ…!」
名前は及川を無視してそのまま観覧席を目指す。
「あっ!!」
青葉城西のメンバーが歩いていると、コートから大きな声が聞こえてきた。
「らっきょヘッド!!!」
「?」
コートを見ると、烏野がアップをしていて、声を出したのは日向だった。
「らっきょヘッドって何だ?」
「おまえ以外に誰がいる」
「は!?」
日向の声に反応したのは金田一だけではなかった。
「…と…」
「やっほー!トビオちゃんチビちゃん!元気に変人コンビやってるー?」
「大王様っ…!」
及川はピースをして日向と影山に声をかける。
「オイ、アレ…青葉城西だ」
「本当だ」
「及川じゃん…強そう」
周りにいた他校の生徒が、青葉城西を見つけるとヒソヒソ話を始めた。
「貫禄あるよなー」
「あ、あそこ!例の美人マネ!」
「え、どこどこ?」
観覧席に座っている名前を見つけた男子が名前を見ようとするが、それを花巻と松川がガードする。
「ん?何?」
「もっと周り見てー」
「俺らが後であいつらにどやされんだよ」
「はあ?ケンカ売ってる?」
青城の中でも大きい2人がガードしたため、名前を見ようとしていた男子生徒はあきらめて自分たちの席に戻って行った。
「コレは貸しだね」
「後でラーメン奢らせよう」
「本当何の話?」
コートを見ていた及川は「あれっ」と声を出した。
「…」
「リベロがいるねえ。練習試合の時はいなかったのに…」
「なんかデカい奴も増えてんな…」
「おや…」
「それと…新しい指導者…ですかね?」
及川、岩泉、入畑、溝口がそう言うと、名前は「指導者の人はともかく、リベロとデカいのは去年の試合でもいたじゃん…」と言った。
「あれーそうだっけ?」
「去年は戦ってねえから覚えてねえな」
「興味なさすぎでしょ…」
「おまえは記憶力やばすぎんだろ」
「松川たちも覚えてるでしょ?」
「いんやー…」
「まったく」
「…白鳥沢以外見えてないの?」
自分の言葉に反応しない4人を見て、名前は頭を抱えた。
「正直者すぎる」
「まあまあいいじゃん!どうせ俺たちが勝つんだし!」
「何がいいのか」
そんな話をしていると、あっという間に公式ウォームアップ開始の時間になる。
「新しい選手に新しい指導者か…どんな風に変わったかな…烏野は」
各校の応援団が声を出している中、ウォームアップが終わる。
「整列ーッ!」
ピーッという笛の音を合図に、コートにいた選手たちが挨拶をする。
「お願いしあーす!!」
烏野高校対常波高校の試合が始まった。
烏野高校の攻撃は、田中、東峰と続き、日向にトスが上がる。
日向と影山の速攻を見た会場は、その速さと高さに驚いたが、青葉城西のメンバーはそれ以外に気になることがあった。
「…烏野は…使いませんね…例の”トスを見ない速攻”」
「その代わりか…粗削りだが”普通の速攻”が使えるようになってる…下手くそな”コースの打ち分け”までしよる…この短期間に余程有意義な練習試合でもしたかな…?」
入畑は、今までと違う烏野を見てそう言った。
「自分たちの武器を知り、増やし、その試合ごとにベストな攻撃で攻める…。色んなことが力任せだった危ういチームに”知恵”がついたか。厄介だねえ」
そう言って笑う入畑は、どこか嬉しそうだった。
烏野はそのまま点数を重ねていき、セットカウント2-0で第一試合を突破した。
「次は伊達工とか?」
「リードブロックが怖いよね」
「烏野勝てるか?」
「勝ってもらわないと困るでしょ。練習試合のリベンジさせてもらわなくちゃね」
「その前にウチも勝たないとでしょ」
「もっちろーん!勝つに決まってるでしょ!」
Aブロックのシード校である青葉城西は、第2試合からだ。
「よし!じゃああんたたち、下降りるよ」
「はーい」
階段を降りようとしている名前を見て、及川は「あ、名前」と呼び止める。
「ん?」
及川の方を見た名前の腕をつかむと自分の方に抱き寄せて、そのまま背中に腕を回す。
青城にとっては試合前のいつもの光景なので、1年生以外誰も驚かないが、周りにいた他校の生徒は驚いていた。
「…及川?」
「いつもの充電〜」
「なぜここ」
「んー、牽制かな?」
及川は抱きしめている腕に少しだけ力を入れる。
「ちょ、徹?」
「はい!ありがとうー!充電完了!あ、岩ちゃんもする?」
「俺はこんなとこではしねえよ」
「2人きりじゃないとヤダってことー?いやーん、岩ちゃんのムッツリさん!」
「ぶち殺すぞ及川!!」
松川は「さっき他校の男子が名前のこと見ようとしてたの気づいてた感じ?」と花巻に聞いた。
「だから牽制なんだろ」
「めんどくさい男だねー」