名前はベンチから選手を見守っていた。
「まあ、この試合は問題なさそうだね」
「そうですね」
入畑は、隣のコートで試合をしていた烏野と伊達工業を見ると「やっぱり上がってきたのは烏野か」と言った。
「どちらが勝っても強敵には間違いないですね」
「そうだね。伊達工よりは烏野の方がまだマシかな?」
「今はまだ…ですね」
「うん」
コートの中では及川がボールを持って、エンドラインに立っていた。
「…”王者”も”ダークホース”も全部食って、全国に行くのはおれたちだよ」
及川のサーブが相手のレシーバーを襲う。
「うん!今日の及川は調子がいいですね!」
「これで4本連続サービスエースだね」
「いいぞいいぞトオル!押せ押せトオル!もう一本!」
青城の応援団から歓声が上がる。
相手チームは、及川のサーブをなんとか上げたが、ボールはそのまま青城コートに返ってくる。
返ってきたボールをレシーブすると、及川は岩泉にトスを上げ、岩泉のスパイクが相手コートに刺さる。
そんな青城の試合を観覧席から見ていた烏野メンバー。
菅原は「…なんつーか、すげー滑らかな連携だな…」と、及川と岩泉の連携に驚いた。
「…及川さんと岩泉さん、あの4番のレフトの人…あの2人は小学校のクラブチームから一緒らしいです。阿吽の呼吸?ってやつです」
「練習試合の時の2年生セッターのレベルが低かったとかじゃないと思うんだよな、青城入ってるわけだし。ただ、あの及川ってやつが、”青城”ってチームを熟知して100%の力を引き出せる…って感じじゃねぇのかな…」
鳥養がそう言うと3年生たちは黙ってしまった。
だが、そんな中でも日向と西谷はわくわくしていた。
「にしても青城は、タイムアウトの時に監督はあんま入らないんだな」
「そうですね。仕切っているのは4番の岩泉くんと、マネージャーの苗字さんでしょうか」
「影山!苗字さんってバレー部だったんだろ?」
菅原に聞かれた影山は「そうっスね」と答えた。
「バレー経験者か。だから及川と仲が良いんだな」
「名前さんも2人と同じクラブチームだったみたいです」
「あいつ、あの顔とスペックで、さらに美人な幼なじみまでいるのかよ!」
菅原がそう言うと、田中や西谷が悔しそうな顔をした。
「や、でも昔はあんな感じじゃなかった気がします」
「誰が?」
「名前さん」
「どういうこと?」
「中学ん時は、髪も短くて、男みたいでした」
「おま!あんな美人つかまえて男みたいって失礼だな!」
「そ、そうですか…?」
「ダメだ!こいつピンときてねえ!影山に美醜の判断は無理っぽい!」
烏野が騒いでいる間に青葉城西の試合が終わり、セットカウント2-0で、危なげなく勝利をした。
「お疲れ様」
「名前ちゃんありがとう〜!」
コートにいた6人がベンチに戻ると、名前はボトルとタオルを手渡した。
「まずは初戦突破おめでとう」
「うん!」
「次は烏野だね」
「そうだね。まあ、次は勝つよ」
クールダウンをした青葉城西のメンバーたちは、荷物を持って、仙台市体育館を後にした。
学校に戻った部員たちはその場で解散になった。
岩泉は部室に戻り、着替えようとしていた。
「及川は?」
そこに、名前が何のためらいもなく部室の扉を開けて岩泉に声をかけた。
「おま!部室開ける時は声かけろって言ってんだろ!!」
「あ、ごめーん」
「さっさと閉めろ!」
「はーい」
岩泉に怒られた名前は、急いで部室の扉を閉める。
「俺だからいいけど他の奴だったらどうすんだよ」
「多分岩泉か及川がいるかなーって時にしか開けないから大丈夫だよ」
「そういう問題じゃねえ!」
「ごめんって。てか試合の時とか体育館で着替えてるの見てるじゃん」
「それとこれとは別なんだよ」
「よくわかんないけど気をつけます」
名前が岩泉のロッカーの傍にある椅子に座ると「帰る?」と聞いた。
「あいつ待ち」
「何してるんだろ?」
「監督んとこ行ってる」
「明日も試合なんだから、早く帰りたいのに」
「着替えるから外で待ってろ」
「今更?さっきも言ったけど岩泉の裸なんて見慣れてるよ」
「今更?じゃねえんだよ」
岩泉は名前の肩に手を置いて、顔を近づけながら「2人きりっての理解しろよ」と名前に迫る。
「一…」
「本気で嫌なら突飛ばせよ」
「ケガさせるかもしれないのにできるわけないでしょ」
「…バレー馬鹿」
「一に言われたくない」
岩泉はため息をつくと「おまえマジで卒業したら覚えとけよ」と言った。
「はいはい」
名前が返事をしたタイミングで、部室の扉が開く。
「あっれー名前もいたの?」
「及川、何してたんだよ」
「んー、ちょっとね」
そう言って及川はロッカーを開けると帰り支度を始める。
「フンヌフーン」
及川の手には”烏野VS伊達工”と書かれた試合のDVDがあることに気づいた岩泉は「オイ」と声をかける。
「くれぐれも夜更かしなんかすんじゃねーぞ」
「岩ちゃんは俺のお母ちゃんですか?」
「あ?」
「ゴメンゴメンゴメンしないしない!コンディションは万全で行くって!」
「くだらねえこと言ってんじゃねえクソ及川!!部室閉めんだからちんたらすんなグズ川!」
「悪口は略さないで!」
「グズ及川!」
「言い直さなくていいよ!」
「名前も、一旦部室出ろ!続きされてえのか!」
「え、何!?何の話!?」
「早く着替えてよ」
そう言って、名前は騒いでいる及川を無視して部室を出た。
「ちょっと岩ちゃん、何したの?」
「あ?なんもしてねえよ」
「もう!卒業するまで名前に手出すの禁止だって言ったでしょ!」
「だから、出してねえからいちいちうるせえ!」
「そんなに力いっぱい否定されると余計怪しいんですけど!」
「さっさとしろ及川!」
2人は着替え終わると急いで部室を出る。
「名前!お待たせ!」
「遅い」
「こいつがちんたらしてんだよ」
「岩ちゃんだって着替えるの遅かったじゃん!」
3人は横に並びながら帰路につく。
そして迎えたインターハイ予選2日目、第3回戦、青葉城西高校対烏野高校の一戦が始まる。
「荷物置いたらスタメンと控えは監督の後について行って、残りは上に上がるよ」
「はーい」
名前は部員に声をかけると応援団のいる応援席に向かおうとする。
「名前先輩どちらへ?」
「ちょっと上行ってどんな感じになってるか見てくるよ」
「それなら私が行くので、及川先輩たちについて行ってください!」
「え?」
「多分、名前先輩にそばにいてほしいと思います!」
「そんなことないと思うけど」
「いいから行ってください!」
2年生マネージャーにそう言われた名前は、しぶしぶと言った様子で監督たちの後を追う。
「逆に試合前は私がいない方が集中できて良さそうだけどなー…」
そんな風に思っていると、ベンチにいた及川が名前に気づく。
「そんなとこで何突っ立ってんのー!名前も早くおいでよ!」
「あんたたちの集中の邪魔しないようにしてんの」
「名前がいて邪魔なことなんてないよ、ね?」
及川はそう言うと、岩泉たちの方を振り返る。
「こいつのが邪魔だな」
「名前がいないとうるさいからね」
「こいつのせいで集中できない」
「おまえらひどいね!!」
及川は名前に向き合うと「いつもみたいに、俺たちのバレー見ててよ」と言って笑う。
「もちろん。いつものように、ベンチで見てるよ」
名前はそう答えると、及川の背中を叩いた。
「頑張れ徹!」
「名前ちゃん!気合入れてくれるのは嬉しいけど、もう少し優しくして!」
「何言ってんの!これくらいしないと意味ないでしょ!」
名前は岩泉たちの方を見ると「あんたたちにもやってあげようか?」と聞いた。
「遠慮しとく」
「痛いのはやだなー」
「決勝戦の時の楽しみにとっとくわ」
「逃げたな」
3人はそう言うと先にコートに入った。
「はい、徹も早く行ってウォームアップしてきなよ」
「了解!」