13

「くっそがァアアスマン!!」
「ははは」
「何笑ってんだ!ぶん殴るぞ!」
「すぐ殴るって言うのやめなよ岩ちゃん」
「安心しろ、おめーにしか言わねーし、殴んねーよ!」

ベンチに戻って来た及川の様子がどこかおかしい。
そう思った名前は「徹?」と声をかけた。

「今のは、センターからの速攻がベターな攻撃だった」
「あ?」
「でも恐らく、飛雄は今、俺がレフトに上げると読んでいた。…この意味わかる?」

及川は岩泉に聞く。

「今までみたいに機械的に考えるだけじゃなく、終盤・こっちの劣勢っていう状況・岩ちゃんと俺の超絶信頼関係」
「あってたまるかそんなもの」
「一、ちゃんと聞いて」
「そういう総合的な判断をしてきたってこと…!」
「…」
「あの”爽やかくん”は、飛雄に何を教えた」

怖い顔をしながらも、どこか嬉しそうな顔をした及川を見て、名前は安心した。

「ただの独裁の王様が、マトモな王様になろうとしてる。なんだこれ、すごいムシャクシャしてんのに、この感じ…!!はやく、早くやろう!ファイナルセット!!」

溝口が「よし!そんじゃあ神業速攻の合図、あれ変わってるだろうから考えろー!話しろー!」と声をかける。

「単純なサインだからきっといくらでも替えが利くんだよね〜。それも考えてるのは多分単細胞ぽい本人たちじゃなく外の奴だ」
「それでも何か見分けるヒントは…」
「ボールを目で長く追ってるようなら普通の速攻。ただ突っ込んでくる時は神業?」
「確かに、10番自体を見るのがいいか」
「あっハイ!!」

その言葉に入畑が話に入ろうとするが、その前に及川が「でも、あくまでチビちゃんは優秀な”囮”。それを忘れない、オッケー??」と付け加えた。

「ハイ!」
「っしゃ」
「頼もしいですね」
「こういう時の及川は頼りになりますよね」
「本当に、さすが主将だ」

ファイナルセットもシーソーゲームで、点を獲られたら獲り返すを繰り返していた。

「旭さん!!」
「及川!!」
「ふんっ」

東峰のスパイクを及川がレシーブをすると、渡がアタックラインギリギリで跳んでトスを上げる。

「ワタっち!!」
「ハイ!!」
「レェフトォオ!!」
「!?」

渡は後ろにいた及川にトスを上げて、及川のバックアタックが綺麗に決まる。

「うーん!渡のトスも良い感じ!」
「本当苗字はトス好きだな!」
「まあ、私も元セッターなので、どうしても贔屓目で見ちゃいますね」

次は及川のサーブ。
澤村がレシーブをして東峰がスパイクを打つが、花巻がそれを拾う。
ボールはそのままネットを越えて烏野側に返りそうになるが、及川がギリギリでボールに触れてトスを上げる。

「ふぐっ」
「!!」
「オラッ」

そして、そこに走り込んできていた岩泉がスパイクを打った。

「〜〜〜〜っ!!まさに阿吽の呼吸!これが私の世界一大好きなバレーです!」
「わ、わかった!苗字、ちょっと落ち着け!」

名前は隣に座る溝口の背中をバンバンと叩く。

「ナイストス!」

及川と岩泉が笑顔で手を合わせている姿を見て、名前は思わず泣きそうになる。

「もう、本当にかっこよすぎるよ、2人とも!」

ここで烏野がタイムアウトをとる。

タイムアウトが終わると、日向が出てくる。
チャンスボールで影山がトスを上げようとすると、日向がコートの端から端まで一気に走り、ワイドブロード攻撃をした。

「な、ナイスキー!日向ァアアア!」
「翔陽ーッ」

そんな日向の姿を見て、及川は内心焦っていた。

「ッシャ!!」
「マッキーナイス!」

日向のスパイクを渡が上げ、花巻がカバーに入る。
チャンスボールで烏野側にボールが返ると、日向がまたコートの中を走っていた。
だが、今度は日向ではなく田中にトスが上がり、花巻の腕をはじいてコートに落ちる。

「レフト止めてー!」
「レフトレフト!」
「もっかい止めるよ!!」
「持って来ォオオい!!」
「!」

日向に釣られた岩泉と松川がブロックに跳ぶが、影山は東峰にトスを上げる。
及川のブロックをはじいて、ボールは青城コートに落ちる。

「くっそ…!!」
「スマン、完全に釣られたっ…!」

これで烏野が追いつき、15対15になる。

「同点だ!」
「青城これで余裕なくなった!」

「監督!」

入畑はベンチから立ちあがると、タイムアウトを要求した。
ベンチに戻って来たメンバーに、名前はタオルとボトルを渡す。

「どうする、10番のあのブロード」
「あのブロード、捨てようか」
「!!?」
「たしかに、それが一番確実ですね」
「え、す、捨てるって…どういう…??」
「チビちゃんのあのブロードは多分、”神業”の方だ。すごいスピードだけど、その勢いで体は流れてコースを空中で打ち分ける余裕はないんじゃないかな」

及川はそう言うと、入畑がうなずく。

「あのブロードにはブロックつかずにディグで対応しよう」
「ハイ!」
「止められないブロックはレシーブの邪魔するだけだしな…」
「どんなに苦しい時でも、互いの意思疎通と考えることを止めるなよ」
「ハイ!」
「考え続ければ道が開く。ちゃんと周りを見て、あんたたちなら絶対大丈夫!」
「おう」

及川は名前に背中を向けると「ね、気合入れ直してよ!」と言った。

「俺も」
「俺もー」
「じゃあ俺も」

及川に続いて、岩泉、松川、花巻が背中を向ける。

「よし!頑張ってこい!」

名前はそう言うと、4人の背中をいつもの力の半分で叩く。

「金田一たちはいいの?」
「え、あ、ハイ!いいえ!」
「どっち?」
「名前さん!俺にも気合入れてください!」
「任せて渡!」

名前は、渡にも同じように気合を入れる。

「ッ!!ありがとうございます!」

タイムアウトが終わり、試合が再開される。
早速日向のチャンスボールで、タイムアウト前と同じようにブロード攻撃をしかける。
が、先ほどとは変わって青城のブロックはその場から動かない。

「!?10番ノーマーク!?」
「ブロック諦めたのか!?」
「…?」
「よっしゃフリーで行ったれ日向アアアア!!」

渡は「(うん、よく見える)」と、日向のスパイクを綺麗にレシーブする。

「渡ナイスレシーブ!」
「!!」

そして及川はトスを上げず、ツーアタックで決める。

「ナイスツー!!」
「ナイスレシーブ!」
「ナイッス!」

次は及川のサーブ。

「アリャッ!?」

及川のサーブはネットインで、コートの前に落ち、点差は2点に戻る。
次のサーブではラリーが続き、最後は岩泉、金田一、国見の3枚ブロックでブロックポイントになる。
たまらず烏野は2回目のタイムアウトを要求する。
タイムアウト明け、日向のサーブで烏野はピンチサーバーに山口を起用した。

「烏野ピンサー?」
「サーブが得意なのか…それとも単純に空気変えるためですかね?」
「どっちみち流れは渡さねえよ」
「ハイ!!」

笛が鳴り、山口がサーブトスをする。

「ジャンプフローター!!」

しかし、山口のサーブはネットに当たって烏野コートに落ちる。

「よし、ラッキー…」

これで青城は20点台に乗った。
その後、ラリーの応酬が続く。
岩泉が田中のスパイクをレシーブし、及川がトスを上げてスパイクが決まると、青城のマッチポイントになる。

「あと1点!」

田中のサーブは綺麗にレシーブされ、及川はセンターにいる金田一にトスを上げる。
しかし、そのスパイクは田中がレシーブをする。
青城側にダイレクトで返りそうになったボールを、影山がワンハンドでトスを上げ、日向がスパイクを決めた。

「…追いつかれましたね」
「…ああ」

青城は2回目のタイムアウトを取る。

「焦んなよ!」
「声出していくぞ!!」
「国見ちゃんイケるね?」
「ハイ」

名前は国見の肩を叩くと「頼むね」と声をかける。

「任せてください」

タイムアウトが終了し、田中のサーブから試合が再開される。
金田一のスパイクはブロックに当たり、ワンタッチを取られると烏野チャンスボールになる。
日向のスパイクを渡が拾うが、そのまま烏野のコートに返り、再び烏野のチャンスボールに。
影山はもう一度日向にトスを上げるが、再度、渡が拾う。

「渡、ナイスレシーブ!!」

影山がもう一度日向にトスを上げるが、「上がるってわかってて(フリーにしてやる理由はねえよっ!!)」と、岩泉がブロックに跳ぶ。
しかし、日向のジャンプ力が落ちたせいでタイミングが合わず、日向のスパイクは触るだけの攻撃になり、岩泉の後ろに落ちる。

「!!」
「烏野逆転したああああ!!?」

及川は「落ち着いて行こう、獲り返す」と声をかける。

「大丈夫…大丈夫…」

ベンチで見ている名前も、無意識に手に力が入る。
青城は次の攻撃を決めて、及川のサーブになる。

「…」
「(この1本で、アドバンテージを取り戻す)」

「…あのバカ…余計な事考えて…」

及川のサーブは大きくラインを越えてアウトになった。



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